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215話 堕ちた王子*

 魔王城、地下研究区画。


 かつて王国の第一王子として扱われていた男は、今、冷たい石床の上に座らされていた。


 レオニスの周囲には魔族の研究者たちが並んでいる。


 魔法陣

 魔導具

 解析用の魔石


 その光景を見ながら、レオニスは静かに自嘲した。


「……まさか、俺が、こんな目に遭うとは……。」


 魔王軍に捕らえられた時には彼は自分には価値があるとまだ信じていた。王族の知識や人族側の情報、さらに勇者アベルに関する情報などで、交渉する余地があると思っていたのだ。


「俺は王太子だ。俺を殺せば、国との交渉材料を失うぞ。」


 しかし、魔族側の反応は冷たかった。


「交渉?」


 研究者が淡々と言う。


「お前はもう役目を終えている。」


 レオニスの表情が僅かに歪む。


「……何?」

「勇者を追い詰めるための駒。それが、お前の最大の価値だった。」


 その言葉にレオニスの拳が握られる。


「違う。俺は……。」


 言葉が続かない。本来なら自分が物語の中心にいるはずだった。しかし、気付けばその役割は居なくなった今も全てアベルに奪われたままだった。



 魔王が研究区画へ姿を現す。


「ヒト族の男よ。」


 その声に、レオニスは顔を上げる。


「お前は面白い存在だった。ヒト族でありながら勇者を最も苦しめた。」


 レオニスの目が細くなる。


「……なら。まだ利用価値はあるだろう。」


 魔王は首を横に振った。


「ヒトとしてはな。」


 その言葉の意味を理解した瞬間、レオニスの表情が変わる。


「待て。俺は王太子だ。俺には――」


 魔王は興味なさそうに告げる。


「王太子という肩書きに価値があるのは。ヒト族の社会の中だけだ。ここは魔族の領域だ。力を持たぬ者に、称号など意味はない。」


 レオニスは初めて本当の意味で理解した。

 自分はもう何者でもない。



 その後、魔王軍の研究によって、レオニスには魔獣化の処置が施されることになった。


 人族の知識。

 王族としての経験。

 底知れぬ欲望。

 そして、勇者に対する執着。

 これらを持ったまま魔獣化する新しい技術の実験材料として選ばれたのだ。


「どうだ?」


 魔王が魔族の研究者に尋ねる。


「理論的には完成しております。あとは実践して検証するだけなのですが、ご用意いただいた被験体の欲望が少し目減りしております。生を諦めたのが原因かと思いますが、このままでは少々厳しいかと。」


 魔王は一瞬考えたが直ぐにとある対策を思いつく。


「わかった。そちらは余に考えがある。」



 翌日、魔王と共に例の首輪、魔導拘束具のチョーカーを身につけたメアが椅子に拘束された状態のレオニスの前にやってきた。その姿を、首のチョーカーを見るなりレオニスは逃走を試みる。


「メア、私を助けろ!」


 レオニスは首輪の効力を期待してメアに命令を下すが、メアは微動だにしなかった。魔王が呆れたようにレオニスに告げる。


「無駄だ。この拘束具の管理者はすでに変更してある。」

「くっ.…!じゃあ、私に一体何をする気だ!?」

「それは直ぐに理解できる。メア、やれ!」

「……かしこまりました、グランドマスター」


 メアの右手に紫色の魔力が溜まっていき、握った拳の上に赤い魔方陣が構築されていく。指をポキポキ鳴らしながら、拘束されて座るレオニスの前に立ち、右腕を大きく後ろに振りかぶる。


「《ナイトメア・ウェーブ》《ブレイン・ブースト》」

「ちょっと、まっ……がっ…ぐふっ……。」


 メアはキツく握った右手の拳で、レオニスの鼻頭を思いっきり殴りつけて魔法を行使した。レオニスは鼻の骨を折り、前歯もいくつか欠けてそのまま失神した。


挿絵(By みてみん)



 目を開けたらそこは王宮の自室だった。だが、何故か寝台の上で全裸になっており、四肢は鎖に繋がれており、大の字に身体は固定されていて身動きがとれない。


「誰か!誰かおらぬのか?」


 すると、ドアが開き


 リシア

 クラリス

 エリス

 ルナ

 フェリ

 ミリア

 セレスティア


の7人が入ってきた。全員が下に身につけているものが透けるほどの薄い扇情的なネグリジェを着ている。


「この拘束を解いてくれ!」


 レオニスは懇願するも7人はクスクスと笑うだけで、広い寝台の上に上がってレオニスを取り囲むように座った。


挿絵(By みてみん)


「な、なあ。みんな。どうしたんだ?」


 そんなレオニスの質問を無視してミリアは小さなリボン型の魔道具を懐から取り出した。それをミリアは手を伸ばしてきたフェリに手渡す。


 フェリは手早くリボンをレオニスのその根本に蝶々結びを施した。


「では、始めましょう!」


 7人の美少女がレオニスの身体をサワサワと弄り出すと強烈な快感が全身を包み込む。暫くして達しようとすると、リボンの魔道具がそれを妨害する。全員の手が止まり、落ち着くと刺激を再開する。食事を摂ることも、睡眠を取ることも許されないまま、その寸止め行為がひたすら継続された。加速された世界で。


     ◇

 数時間後。


「お願いだ。一度でいいから最後まで……。あぁぁぁああぁぁっっ。」


 しかし、その願いが叶えられることはなく、手足をバタつかせながら、叶えられぬ欲望を強制的に増幅させていった。



 その頃、現実世界ではレオニスの身体の下に描かれた魔法陣が輝く。近くに置かれた魔物との融合が始まったのだ。レオニスは無意識に歯を食いしばる。


「……ぐ、が、が、が、ぎ、ぐぁああああっ…!」



 時間が過ぎる。


 そして、地下研究区画から、一つの報告が届いた。


「魔獣化処置が完了しました。対象はゴブリンキングをベースとした複数の魔物のキメラ型として安定しています。不完全ながらも記憶やスキルの保持にも成功しました。」



 かつて王子だった男は、もうヒト族の王子ではなかった。それはあまりにも異形な姿のゴブリンの王。


 魔王軍の新たな戦力として、

 人の知恵

 魔獣の力

 そして、歪んだ執着だけを残した存在。


 魔王はその姿を見て、静かに告げる。


「知識をどこまで保てるかで未だ課題は残るが、これで選択肢は一つ増えた。」


 地下深く。


 かつて英雄を夢見た王子は。

 別の物語の怪物の王へと変えられていた。

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