191話 軟禁中のマユミ*
魔王城・自室。
マユミは膝を抱え、静かに座っていた。
チョーカーはすでに外されていて命令による行動への干渉もない。思考も自由なのに、胸の奥はひどく重かった。
(自由、ね……)
小さく自嘲するように笑う。
自由になった途端、押し寄せてくるのは解放感ではなく、後悔だった。
脳裏に思い描くアベルの姿。
戦場で見た背中。
迷いなく前に出る動き。
誰かのために、必ず一歩踏み込む判断。
マユミは膝を強く抱きしめる。
マユミは魔王の娘。しかし、魔王からは父親らしい言葉すらかけて貰った記憶はなく、母は生まれた時からいなかった。いたのは乳母と侍女として付けられたメアと、武術の師匠のデュラハンだけだった。
毎日が厳しい教育と訓練の日々。
最強の魔族である魔王の父と強力な魔導師であったヒト族の母を両親にもつとはいえ、半魔である彼女は他の魔族からの風当たりも強く、魔界の姫とば名ばかりで、唯の道具としてこれまで扱われてきた。しかし、アベルは彼女を共感できる対等な存在として扱った。
ただ一人の人間として。
時には仲間として。
時には厄介な問題ごととして。
それでも、決して切り捨てたりしなかった。
視界が滲む。
思い出すのは、契約の瞬間。
命を削るような力の奔流。
それでも迷いなく手を伸ばした彼の姿。
あのとき救われたのは命だけではなかった。
(私は……彼に救われたのに)
拳を握る。
(彼を……救う事は出来なかった…)
声にならない息が漏れる。
(最低だ)
アベルが最後に見せた笑顔が胸を締め付ける。
『心配しなくていい。すぐ追いつく。』
自分達を説得するために言った言葉。その優しい声は今でも耳の中に響いていた。
マユミは静かに目を閉じる。
(戻れるなら。やり直せるなら……。)
そんなものは存在しないと理解している。
それでも願ってしまう。
(アベル……)
唇が震える。
言葉は続かない。
代わりに、ただ一筋の涙が頬を伝った。
静寂は、それを誰にも見せることなく飲み込んでいった。
次話からは、マユミのバックグラウンドのお話です。初話は22:00に投稿予約しています。
複数章に渡る話になりますが、ちゃんと掘り下げておきたいと思うので、すみませんがお付き合いください。




