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177話 魔王城への侵入

 魔王城。


 その名を聞いた時から、レオニスは一つの前提を持っていた。


(正面から入るのは愚策。)


 ゲーム時代の知識と、マユミ、メアから引き出した情報を擦り合わせると、この城には「公式ルート」以外に、王族専用の避難経路が存在する。それは侵入経路としても利用可能な裏道だった。その裏道を使って侵入して魔王の寝耳をかいてゲームから外れた裏技を試す。それがダメだったら即逃げる。そんな感じの青写真をレオニスは描いていた。


     ◇


 野営地でのマユミとメアへの尋問。


「マユミとメア、質問に答えろ。魔王城の謁見の間付近に通ずる地下からの隠し通路が、この辺りにあるはずなんだが、心当たりはないか?」


 レオニスの問いに、マユミは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「……あります。通常は封鎖されていますが。」


 メアも淡々と続ける。


「魔王城が建つ前の旧王都時代の避難路です。」


     ◇


(やはり存在するか。)


 レオニスは静かに頷いた。ゲームでも一部イベントでのみ使用された裏ルート。


 ならば――


「そこを使って奇襲しよう。」


 即断だった。



 翌日の夜明け直前。


 夜行性の魔族が眠りにつき、昼行性の魔族が目覚める前の時間帯。討伐隊は魔王城の外郭近くへと到達していた。


「こっちだ。」


 レオニスは地図を指でなぞる。


「よし。ここから侵入する。」


     ◇


 兵士たちは戸惑いながらも従うしかなかった。

 地下に潜り、崩れかけた岩壁を抜ける細い通路。


 湿った空気。

 長い年月の腐食。

 獣道のような裏道とは違う。

 雰囲気はむしろダンジョンに近い。


     ◇


(ここだ。)


 レオニスは確信していた。正規ルートより安全で、敵の迎撃も薄い。そういう“設計”のはずだと。


 だが、進むほどに違和感が積み重なる。

 あまりにも静かすぎる。

 あまりにも魔力反応がない。

 あまりにも「空」だ。


     ◇


「殿下。」


 兵士の一人が不安げに声を上げる。


「本当にこのルートで……?」

「問題ない。」


 レオニスは即答した。


(ゲームでも、この経路は存在していた。)


「秘密の裏ルートだ。」


 その言葉を最後に通路の奥で――


 カチリ。


 乾いた音が響いた。


「……?」


 誰かが足を止める。

 次の瞬間、地面の模様が一斉に赤く染まった。


「っ!伏せろ!!」


 誰かが叫んだが、それではどうにもならなかった。爆発や崩落のようにも感じられるが、実際には魔力そのものが“反転”するような異常現象。それにより通路全体が封鎖される。上下左右すべての壁に魔法陣が浮かび上がり、侵入者を認識した瞬間に起動する構造だった。


「まさか、罠だと……?」


 レオニスの声がわずかに揺れる。


(隠し通路が……既に魔王軍に認識されている?)


「マユミ、どういう事だ?答えろ。」


 その時、マユミが顔を上げる。


「これは……昔のままではありません。改修されています。侵入者対策用に……変えられています。」


(馬鹿な。)


 レオニスの中で、前提が崩れる。ここは"安全ルート"ではなかったのか。これではむしろ、侵入者を誘い込むための“罠ルート”だ。


     ◇


 魔法陣が完全に発動し、退路は塞がれた。

 彼らの選択肢は一つ。目の前にある出口からでるしかない。そして、出た先は魔王城の場内、謁見の間に通じる通路だった。その通路に出たところで、周囲に無数の気配が立ち上がる。


 そこに待ち構えていたのは――魔王軍の迎撃部隊だった。


 魔王軍は、侵入者がこの道を選ぶことすら“想定済み”だったのだ。

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