171話 魔界の空*
レオニス率いる魔王討伐隊は国境を超え、魔界と呼ばれる魔王の支配領域に侵入した。そこは草木もほとんど生えない岩だらけの渓谷であった。
空は魔素が多く含まれる紫色の厚い雲で覆われて、太陽の光も僅かにしか入ってこない。そんな王国内とは明らか異なる景観に誰もが緊張を隠せないでいた。
渓谷が見下ろせる丘の上に辿り着いたとき、レオニスは皆に休憩を指示した。
「アベル、お前は周囲の偵察だ。異常があれば直ぐに教えろ」
「……了解。」
アベルは少しふらつきながらも、警戒活動のために離れていく。
兵士達も警戒は怠っていない。兵士の隊長は丘の四方に兵士を配置して警戒にあたらせていた。その内の1人が隊長に報告する。
「隊長、向こうでアベルが倒れています。」
「……回復魔法が使えるレミ曹長と誰か手の空いている1人を確認に向かわせろ。あと、彼女にはマナポーションも持たせてくれ。……くれぐれもレオニス殿下にはバレないようにな。」
「貴重なマナポーションもですか?………了解です。」
指示された兵士は迅速に行動を始める。
一方で、レオニスはセレスティア達7人と談笑をしながら、軽食をとっていた。マユミとメアにも少し離れた位置で休憩を指示している。
マユミはアベルの向かった方向へ視線を向けたが、彼女からはアベルの様子は伺えない。次にマユミはメアを見た。完全に自己の意思を封じられて、マネキンのようになっている侍女で親友の姿を見てマユミの心は張り裂けそうになっていた。
今、メアの意識はどうなっているのだろうか?
見えている?聞こえている?
それとも意識は沈んだまま?
命令されるがままに攻撃魔法をアベルの方に向けて放っていた自分とメア。そんなのは絶対にイヤなはずなのに、命令通りに魔法を放つ度に底知れぬ快感と多幸感が全身を駆け巡った。まるで自分がそうしたくてしているかのように錯覚するほどの強烈なものだった。戦いを終えたあと、無事でいてくれたアベルを見て涙が出た。
(私が不甲斐ないばかりに……ごめんなさい、アベル)
言葉には出なかった。出せなかった。でも、アベルは私が何かを言いたそうにしているだけで、それを察して微笑みかけてくれていた。あんなにボロボロになりながら……。
マユミは空を見上げる。よく知る紫の雲と僅かな日の光に、彼女は学院祭の夜に3人で見上げた花火を思い出していた。魔道具で強制的に与えられるものはない、二度と戻らないであろう、あの幸せな日々を……。




