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閑話44話 すれ違う朝*

 早朝。


 まだ空が薄暗い中、リシアは一人で剣を振っていた。長旅の途中でも、毎朝の鍛錬だけは欠かさない。


「一、二……。」


 一定の呼吸。

 一定の歩幅。

 剣筋を何度も確認する。



「リシア!」


 そこへフェリが駆けてくる。


「もう始めてたんだ!」

「ああ。」

「私も混ぜて!」


 フェリは二本の剣を抜いた。二人は向かい合い、双剣術の型を確認していく。


「ここ、もう少し踏み込んだ方がいいかな?」

「いや。そこは半歩残した方が次の動きへ繋げやすい。」

「なるほど!」


 何度も繰り返す。



 その時、遠くから足音が聞こえた。


 二人が振り返る。そこには早朝の巡回任務から戻ってきたアベルがいた。


 まだ薄暗い森の中を一人で歩いていて、その歩みは普段より少し重い。疲労が顔に出ていた。


 リシアもフェリも何も言わなかった。ただ視線だけを交わす。


 リシアは剣を握り直す。


 早朝からの巡回を毎日続けているらしい。

 だが、


(それくらいで疲れるなんて。)


 自分なら鍛錬を続けられる。そう思った。


 フェリも同じだった。


(軟弱だなぁ。)


 魔物との戦いで多少疲れるのは分かる。

 しかし、自分たちは今から鍛錬を始める。アベルはもう休むのだろう。


(もっと頑張ればいいのに。)



 アベルは二人の横を通り過ぎる。


「……おはよう。」


 小さな声。二人は返事をしなかった。アベルもそれ以上は何も言わない。そのまま天幕へ戻っていった。



 残された二人は、再び剣を構える。


「続き、やろう。」

「ああ。」


 朝の鍛錬は続いた。


 二人は知らなかった。その頃のアベルが暗いうちから起き、誰よりも長く警戒任務を続けさせられていたことを。それも夜間の警戒任務を終えた後で。


 それでも何も言わず、隊のために、いやマユミとメアのために働いていたことを。


挿絵(By みてみん)


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