閑話44話 すれ違う朝*
早朝。
まだ空が薄暗い中、リシアは一人で剣を振っていた。長旅の途中でも、毎朝の鍛錬だけは欠かさない。
「一、二……。」
一定の呼吸。
一定の歩幅。
剣筋を何度も確認する。
◇
「リシア!」
そこへフェリが駆けてくる。
「もう始めてたんだ!」
「ああ。」
「私も混ぜて!」
フェリは二本の剣を抜いた。二人は向かい合い、双剣術の型を確認していく。
「ここ、もう少し踏み込んだ方がいいかな?」
「いや。そこは半歩残した方が次の動きへ繋げやすい。」
「なるほど!」
何度も繰り返す。
◇
その時、遠くから足音が聞こえた。
二人が振り返る。そこには早朝の巡回任務から戻ってきたアベルがいた。
まだ薄暗い森の中を一人で歩いていて、その歩みは普段より少し重い。疲労が顔に出ていた。
リシアもフェリも何も言わなかった。ただ視線だけを交わす。
リシアは剣を握り直す。
早朝からの巡回を毎日続けているらしい。
だが、
(それくらいで疲れるなんて。)
自分なら鍛錬を続けられる。そう思った。
フェリも同じだった。
(軟弱だなぁ。)
魔物との戦いで多少疲れるのは分かる。
しかし、自分たちは今から鍛錬を始める。アベルはもう休むのだろう。
(もっと頑張ればいいのに。)
◇
アベルは二人の横を通り過ぎる。
「……おはよう。」
小さな声。二人は返事をしなかった。アベルもそれ以上は何も言わない。そのまま天幕へ戻っていった。
◇
残された二人は、再び剣を構える。
「続き、やろう。」
「ああ。」
朝の鍛錬は続いた。
二人は知らなかった。その頃のアベルが暗いうちから起き、誰よりも長く警戒任務を続けさせられていたことを。それも夜間の警戒任務を終えた後で。
それでも何も言わず、隊のために、いやマユミとメアのために働いていたことを。




