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俺が主人公のはずなんだけど、王子様に全部持っていかれたんですが。  作者: 踊りすがりのおっさん
第1章 運命から外れた男

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閑話02話 観測されない原因

 魔導研究棟の騒動から数日後。


 学院では「共同魔導炉の安定化成功」が正式に報告されていた。報告書の筆頭には、レオニスの名がある。そして補助研究者として、ルナの名が添えられていた。


「順調だな。」


 生徒会室でレオニスは満足げに頷く。


「これで次の魔導強化計画も進められる。」


 側近が書類を整える。


「殿下のご指導のもと、研究は大きく進展しております。」

「当然だ。」


 レオニスは迷いなく言う。


(ゲーム通りに進んでいる。多少の誤差はあったが、結果は成功だ。)


 その評価は、学院内でも自然に受け入れられていた。誰も“途中で起きた異常”の詳細を知らない。知らされてもいない。


 ただ一人…ルナだけが、その報告書を見て沈黙していた。



「……やはり。」


 研究室の片隅で彼女は静かに紙を置く。


 報告書は綺麗にまとまっている。

 事故は“未然に防がれた”。

 結論は成功。


 だが、そこに“本質”は書かれていなかった。


(なぜ暴走しかけたのか。なぜ補助系統が破綻したのか。なぜ私の修正で安定したのか。)


 そのすべてが消されていた。ルナは立ち上がる。


「記録を見せてください。」


 助手に告げる。


「どの記録ですか?」

「魔力炉のログ全て。」


 数時間後。ルナは膨大な魔力ログを前にしていた。


 数字の流れ。

 魔力圧の変動。

 補助式の応答曲線。

 そこに、明確な異常があった。


「やはり……」


 彼女は呟く。


 異常は一点ではなく連鎖している。しかも原因は魔法式そのものではない。


(前提条件の変化。)


 魔力の純度。

 補助素材の質。

 環境魔力の安定度。

 すべてが微妙に低下している。だが誰も気づいていない。


 ルナは机に指を置く。


(なぜ誰も気づかない?

 いや――気づいているのは“私だけ”か?)


 その思考の中で、一つの人物が浮かぶ。


 アベル。


 あの時の魔導炉の暴走を止めた修正。あれは“環境変化を前提にした調整”だった。


(偶然ではない。彼は最初から“今の条件”を理解している。)


 だが…

 証拠はない。

 接点も少ない。

 彼はただの一般生徒。


 それでもルナの中では、仮説が固まりつつあった。


(アベルは……変化後の世界を理解している。)


 その時だった。扉が開く。


「ルナ様。」


 助手が報告する。


「次の共同研究ですが、殿下が新しい案を提示されています。」

「内容は?」

「回復魔法の大規模展開です。」


 提示された資料をパラパラと捲り流し読みする。ルナの表情は変わらない。だが内側では、違和感が積み重なる。


(また根拠のない“成功する前提”で動いている。条件が変わったことも理解していない。)


 彼女は静かに言う。


「検討します。」


 しかし、レオニス殿下からの提案を断れるわけがなかった。助手が去った後、ルナは一人でごちる。


(このままでは、また同じことが起きる。今度は“防げない規模”で。)


 改めて机の上のログを見つめる。そして小さく呟く。


「……殿下を説得するための理由が必要だ。」


 しかし、具体的なプランは見つからない。どこにも“明確な理由”が存在しない。ただ、結果だけが積み重なっている。成功と失敗の境界が、曖昧に揺れている。


(まるで。誰かが現実の条件だけを“微調整”しているみたいに。)


 その発想に至った瞬間、ルナは初めて、自分の思考に一つの仮説を置く。


(アベルは……その“観測者”なのか?)


 確証はない。

 証拠もない。

 しかし、それ以外の説明が消えていく。


 窓の外では、学院の喧騒が続いている。

 誰も気づかない。

 何も変わらないように見える世界。


 だがルナの目には、もう同じ世界には見えていなかった。

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