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閑話42話 足らない魔力の集め方*


 魔王特別討伐隊は、深い森の中を進んでいた。


 長い行軍。魔物との散発的な戦闘で単調な時間が続いていた。



 休憩時間。


 ルナは一人、木の切り株へ腰掛け、小さな魔道具を見つめていた。


 手のひらほどの透明な水晶。内部には複雑な魔法陣が刻まれているそれは、魔力ポッドと呼ばれる魔力を蓄積するための魔導具を携帯出来るほどに小型にした試作品だった。


挿絵(By みてみん)


「……。」


 何度見ても結果は変わらない。蓄積された魔力量は、必要量の数十分の一にも満たなかった。


「浮かない顔だな。」


 背後から声が掛かる。振り返ると、レオニスだった。


「殿下。」


 ルナは立ち上がり、一礼する。


「何か困り事か?」


 ルナは少し迷ったあと、小さく息を吐いた。


「研究です。古代魔法の解析が、行き詰まっています。」

「古代魔法?」

「はい。失われた古代魔法の研究です。400年前まで東方に存在したイヤマ王国、その女王が得意としていた極大爆裂魔法です。理論も、おおよそ復元できているのですが。」


 そこで言葉が止まる。


「実験ができないのです。必要な魔力量が、あまりにも膨大で。私一人では到底足りません。」


 ルナは魔力ポッドを見せる。


「この魔力ポッドに充分な魔力を蓄積できれば理論検証は可能なのですが…私も魔力量にはそれなりに自信があったのですが、それでも全然必要量まで集まらなくて…」


 レオニスは魔力ポッドへ興味深そうに視線を向けた。


「なるほど。その器へ魔力を蓄積すればいいわけか。」

「はい。ですが、普通の魔導士では……。」



 そこで、レオニスの頭に、一人の人物が浮かぶ。


(アベル。)


 勇者としての膨大な魔力。

 そして、命令には逆らえない立場。


 レオニスは穏やかに微笑んだ。


「任せろ。私に考えがある。」



 その日の夕方。


「アベル。」


 レオニスが呼ぶ。


「何でしょう。」

「これだ。」


 魔力ポッドを差し出す。


「毎日、手が空いた時に、これへ魔力を限界まで注ぎ込め。」

「……。」


 アベルは魔力ポッドを見る。


「どうしてこれを?」

「ルナの研究に必要だ。研究を前へ進めるためだ。お前なら問題なくできるだろう。」


 アベルは一瞬だけ考えた。


「分かりました。」


 短く答える。それだけだった。逆らうという選択肢は、彼にはなかった。



 翌日から、毎日の休憩時間。アベルは黙って魔力ポッドへ魔力を注ぎ込むようになった。限界まで、自分の身体が重くなるほど。


 何も言わず。ただ命令を果たすためだけに。



 三日後。


 ルナは魔力ポッドを確認し、目を見開いた。


「かなり増えてる……。」


 今まで何週間かけても集まらなかった量が。

 たった数日で蓄積されていた。


「殿下!」


 ルナは思わずレオニスへ駆け寄る。


「ありがとうございます。これなら理論検証ができます。失われた古代魔法へ、一歩近づけます。」


 レオニスは満足そうに頷いた。


「研究が進むなら何よりだ。」



 その少し離れた場所。アベルは今日も空になった魔力ポッドを受け取り、静かに魔力を注ぎ始める。


 ルナはその姿を見た。


 アベルが魔力ポッドへ魔力を込めることはレオニスの指示であり、彼の当然の役目なのだとも思っていた。だが、集まった魔力量の多さから、まさかレオニスがアベル1人だけに充填作業をさせているとは思っていなかった。


「……。」


 その結果、お礼の言葉は、レオニスだけへ向けられアベルには、一言も掛けられることはなかった。


 アベルは何も気にした様子もなく、再び魔力を流し続ける。透明な魔力ポッドはゆっくりと輝きを増していった。その光は、ルナの研究を前へ進める希望だった。


 しかし、この魔力ポッドへの魔力の充填作業が、アベルをさらに追い詰めることなることに、ルナは全く気がついていなかった。

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