↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/358

166話 冷たい夕食

日が暮れ始めた頃。


 特別討伐隊は森の開けた場所で野営の準備を始めていた。


 騎士たちは手際よく天幕を張り、補給部隊は焚き火を起こす。やがて、美味しそうな匂いが野営地へ広がった。


 今日の夕食は、補給部隊が運んできた食材と、エリスやクラリスたちが手際よく調理した温かな煮込み料理。


 焼きたてのパン。

 香草を添えた肉料理。

 そして湯気の立つスープ。


「今日も美味しそうですね。」


 エリスが微笑む。


「学院祭で鍛えられた成果ですわ。」


 クラリスも満足そうだった。


「おかわりもありますよ。」


 スープはミリアが作った。飲むだけで回復効果も期待出来る自信作だ。


(フーフー)


「レオニス様、もう熱くありませんよ。はいどうぞ。」


 セレスティアがレオニスに冷ましたスープの匙を向ける。口を開けて食べるだけのレオニス。


 そこにはある意味、学院でみるのと同じ光景があった。


 その片隅ではマユミとメアが黙々と兵士用の携帯食を食べている。兵士達とはレオニス達を挟んで反対側に位置取っており、極力目立たないように配慮されていた。そのため、兵士達の不満が一番下座にいるアベルに向かうことは必然だった。


     ◇


「殿下、こちらへ。」


 食後は兵士達だけの小さな宴席を許可していた。

 兵士たちが席を空ける。

 中央の一番良い場所。

 そこへレオニスが腰を下ろした。


「ありがとうございます。」


 レオニスが微笑むと、兵士たちは嬉しそうに頷く。


「殿下のお役に立てるなら光栄です!」

「魔王討伐も殿下なら必ず成し遂げられます!」

「我々は最後までお供いたします!」


 次々と称賛の言葉が飛ぶ。レオニスは穏やかな笑みを浮かべながら、それらを受け入れていた。


     ◇


 一方、少し離れた場所。


「夕食だ。」


 補給兵が無造作に放り投げる。

 アベルへ渡されたのは、小さな布袋だけだった。

 中身は乾パンとわずかな干し肉。

 そして水が入っただけの水筒。


 アベルはそれを静かに受け取った。


「ありがとう。」

「食べ終わったら、そのまま外周警戒だ。あと、レオニス殿下からの事付けで、このリストにある薬草が不足してきているので外周警戒のときに集めて来るように。」

「了解。」


 それだけだった。リストはおそらくミリアかクラリスが作ったものだろう。一応、見覚えのある薬草ばかりが並んでいた。絶対に手に入らないと思うものはないが、探すとなると骨が折れそうだ。


 温かな料理を囲む輪へ入ることは許されない。アベルは少し離れた木の根元へ腰を下ろし、乾パンを口へ運ぶ。


 固い。

 味気ない。


 それでも黙って噛み締める。


     ◇


 その様子を見た兵士の一人が鼻で笑った。


「裏切り者のくせに。」

「なんで飯を与えてるんだよ。」

「魔族の仲間になんてなりやがって。」

「こんな扱いでも贅沢なくらいだ。」


 兵士の隊長も調子を合わせる。


「殿下がお優しいから処刑されずに済んでるだけだ。本当に感謝しろよ。」


 そうだ、そうだ、と兵士達が賛同する。


     ◇


 やがて、小石が一つ飛んできた。


 コツ。


 アベルの肩へ当たる。

 誰も謝らない。


「手が滑った。」


 兵士たちは笑う。


 もう一つ。

 今度は足元へ。


 乾いた音だけが響く。

 アベルは何も言わない。

 乾パンを一口食べ、水を飲む。


 それだけだった。


     ◇


 少し離れた場所でマユミはその光景を見て拳を握り締める。


(やめて……。)


 そう言いたい。

 だが言えない。


 チョーカーが僅かに光を帯びる。余計な行動を取るだけで激痛が走ることを、もう何度も思い知らされていた。


 メアもまた、無表情のまま立っている。以前なら真っ先にアベルの前へ飛び出していただろう。


 しかし、今は命令されない限り、一歩も動かない。その姿が、かえって痛々しかった。


     ◇


 食事を終えたレオニスが立ち上がる。


「アベル。予定通り、夜明けまで外周警戒を任せる。」


 隣にいたセレスティアも口添えする。


「レオニス様のご命令です。しっかりと対応なさい。」


「はい。」


 アベルは短く答え、立ち上がった。そして剣を腰へ差し直し、一人、闇の森へ歩いていく。


 その背中を見送りながらも、誰一人として呼び止める者はいない。


 焚き火の温かな光から離れ。


 勇者は、たった一人で夜の警戒へ向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。