164話 裏切り者の烙印*
アベルがアルセリア王国から帰ってきた1週間後。
王都へ、一つの凶報が届いた。
"魔王軍が動き出した"
勇者暗殺任務の失敗を悟った魔王は、ついにヒト族との全面戦争を決断したのである。
⸻
国境各地では魔物の活動が急激に活発化し、砦からは連日の救援要請が届いていた。
王は即座に動く。
「国軍は各防衛線へ展開せよ。王都防衛を最優先とし、国境の住民を王都に避難させる。」
さらに続けて命じる。
「そして、魔王討伐を目的とした特別隊を編成する。」
その知らせは瞬く間に王都中へ広がった。
◇
数日後。
王城・謁見の間。
貴族
騎士団
ギルド幹部
学院関係者
王国の重鎮が一堂に会していた。
王は玉座から静かに告げる。
「魔王特別討伐隊を正式に編成する。隊長はレオニス。」
場内から拍手が起こる。
「隊員は選抜した兵士に加えて学院特別クラスを中心とする。」
リシア
フェリ
ルナ
クラリス
ミリア
エリス
「そして、この未曾有の危機に際して隣国アルセリアからも協力があり、セレスティア王女殿下にもご協力頂けることになった。」
紹介されて、うやうやしく礼をするセレスティア。そして、
「アベル。」
アベルも静かに前へ出る。
「マユミ。」
「メア。」
二人も前へ歩き出した、その瞬間だった。
「お待ちください。」
レオニスが一歩前へ出る。
「王よ。その任命には重大な問題があります。」
場内が静まり返る。
「何だ。」
王が問い返す。
レオニスはゆっくりとマユミを見る。
「その者たちはヒト族ではありません。」
一瞬の沈黙。
「魔族です。」
場内がどよめいた。レオニスは今度はメアを見る。
「こちらの者は夢魔、すなわちサキュバスです。」
貴族たちは一斉に騒ぎ始めた。
「魔族だと!」
「何故こんな場所へ!」
「今すぐ拘束しろ!」
怒号が飛び交う。
マユミは静かに俯く。
メアも何も言わない。
すでに覚悟していた。
だが、アベルが一歩前へ出る。
「二人は敵ではありません。俺の従魔です。従魔契約によって俺と命を繋いでいます。人を襲うこともありません。」
しかし、
「従魔だから信用しろと?」
「笑わせるな。」
「魔族は魔族だ。」
貴族たちは全く耳を貸さない。だが、レオニスは静かに頷く。
「私も従魔契約そのものは否定しません。
ですが、勇者が魔族二人と契約している。
これは極めて異常な事態です。」
場内の空気が変わる。
「もし、勇者アベルが魔王軍と通じていたとしたら?」
その一言だけで十分だった。
「まさか……。」
「裏切り者……?」
「あり得る。」
疑念は一瞬で広がっていく。
◇
「違う!」
アベルは即座に否定する。
「二人は俺が助けた。だから契約しただけだ!」
だが……誰も頷かなかった。
「言葉だけでは信用できん。」
「勇者だからこそ危険だ。」
「三人まとめて処刑すべきだ!」
過激な声まで上がる。
マユミは静かに目を閉じた。
やはり……いつかは、こうなると思っていた。
その時、レオニスが静かに右手を上げる。
「皆、落ち着いてください。」
騒ぎが収まる。
「私は処刑までは望みません。但し、一つ条件があります。」
そう言って侍従から小箱を受け取る。中には二つの黒い首輪が入っていた。
ミスリル製の細いチョーカー。だが、その表面には複雑な魔法陣が刻まれている。
「これは魔族用の拘束具です。従魔契約よりも強い命令権を持ちます。これを装着し、二人の身柄を王国管理下へ置く。そうすれば……」
レオニスはアベルを見る。
「君については裏切り者とは断定せず、観察処分に留めるよう王へ進言しょう。」
謁見の間が静まり返る。
「断る。」
アベルは即答した。
「その拘束具を付けたら、二人は自分の意思で生きられなくなる。そんなものは認めない。」
レオニスは表情一つ変えない。
「では……君も共犯として裁かれるだけです。」
重苦しい沈黙を破ったのはマユミだった。
「……もう十分です。」
マユミが静かに前へ出る。
「お嬢様!」
メアが止めようとする。しかし、マユミは首を横へ振った。
「アベル様。あなただけでも生きてください。」
そう微笑むと、レオニスの手からチョーカーを取り、自ら首へ嵌めた。
「マユミ!」
アベルが叫ぶ。続いて、メアも静かに歩き出す。
「私はお嬢様の侍女です。どこまでも、お供いたします。アベル……ごめんなさい。」
迷うことなく、もう一つのチョーカーを自ら首へ装着した。
金属音が静かに響く。その瞬間、術式が発動し2人から表情が消えた。
アベルは二人を止めることができなかった。
ただ、握り締めた拳だけが、小さく震えていた。
前回が通算エピソードが200でした。
予約投稿部分を含めると、すでに自身のものとしては最大のエピソード数になっております。まあ、物語を広げすぎないうちに幕引きにするのが好みなので、近いうちに収束には向かわせますが、まだ終わりは見えていません。引き続きよろしくお願いします。




