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162.5話(閑話37話) 父から娘への手紙

 我が愛する娘セレスティアへ


 アルセリア王国国王として、そして父として、この手紙を送る。


 まずは、ミスリルゴーレム素材の入手に関して、尽力してくれたことを心より感謝する。あの素材がなければ、我が国の魔導鍛治体系は数年後には確実に失われていた。



 そしてもう一つ、新しく判明した事実を伝える。


 幼い頃、其方が引き起こしたとされていたミスリル精製プラントの爆発事故――あれの真の原因が外部から侵入していた魔族による工作であったと新たに判明した。これも勇者殿の助力による調査の成果だ。


 其方への長年の誤認を深く詫びる。そして、其方の母のことで強くあたってしまった事があった事も申し訳なかったと思っている。其方の母は、其方のせいでない事をきっとわかっていた。だが、余は疑念を持ったまま長く其方に接してしまった。本当にすまない。



 さらに報告しなければならないことがある。


 我が国は長らく、政治運営の中枢を担う“宰相”に多くの権限を委ねていた。しかし、その正体は魔族であり、我々は気づくことができなかった。その魔族は国民全員を人狼化して眷属とするつもりだった。そのため危うく国家そのものを乗っ取られる寸前であった。

 だが、それを全て阻止し問題を解決してくれたのも勇者殿だ。


 旧ミスリル精錬施設爆発事件の真相解明。

 国家の中枢にまで入り込んだ魔族の排除。

 全国民人狼化の阻止。

 崩壊寸前だったミスリル精錬機構の再構築。


 いずれも彼の功績によるものだ。勇者殿にはいくら感謝してもしきれない程の恩ができてしまった。しかしそれも元を辿れば、勇者殿との縁を紡いでくれたおかげだ。本当に感謝する。


 その上で、王として、そして一人の父として結論を伝える。


 其方はもはや他国へ政略的に嫁ぐ必要はなくなった。それはアルセリアの未来が、以前とはまったく異なる局面へと入ったからだ。そしてこれは命令ではなく、父としての願いである。学院を辞める必要は必ずしもないが、折をみて、一度国へ戻ってきてほしい。今のアルセリアには、復興と変革のただ中で、かつてのように王宮を支える立場だけではなく、新しい価値観を持つ人材を必要としている。勇者殿のように、既存の枠にとらわれず、正しさと実行力を併せ持つ若者たちと共に、国を再び形作っていく時期に来ているのだ。その中で、君の視点と判断力は必ず力になると信じている。アルセリアは今、新しい力を必要としている。そして、それは外から与えられるものではなく、内から育て直すべきものだ。それを君自身の目で見て、肌で感じて、自身の将来を今一度考えてみて欲しい。


 なお追記として伝えておく。


 先日、勇者殿にリリアとの婚姻を打診した。リリア本人も大いに乗り気であったが、勇者殿からは、これを固辞された。理由は「勇者の責務が終わるまでは、誰とも結ばれるつもりはない」との一点であり、将来的な関係性を否定したものではなかった。


 リリアには少し残念な結果となったが、彼の意思は尊重すべきものだと判断している。それでもなお、勇者殿という人物の存在は、我が国にとって極めて大きい。国を救ったという結果以上に、その行動原理そのものが新しい時代の象徴となりつつある。


 そこで君自身の手で、一緒に送ったミスリル装備一式を勇者殿へ渡してほしい。これはアルセリア王家としての正式な謝礼であり、勇者殿の功績に対する最大の敬意でもある。形式ではなく、王家の人間の言葉と手で直接渡すことに意味があると私は考えている。



 そして最後に、どうか健やかに過ごしてほしい。王女としての責務は重いだろうが、無理に背負いすぎることなく、時には誰かに助けてもらうことも必要だと思う。そういう信頼のおける仲間と共に未来を形作っていってほしい。

 

              アルセリア王国国王




 セレスティアへ。

 いつでも帰っておいで。

 アルセリアは、君の家であることに変わりはない。

 父より

次の話に繋がる重要な話なので、閑話から格上げしました。

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