不穏な噂 3
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「お嬢ちゃん、シップ貼ってくんない?」
今日は、ミヒャエラさんと一緒に騎士団の訓練場に待機をする日である。
湿布薬を開発してからというもの、訓練場に待機していると、打ち身や捻挫に湿布を貼ってほしいと来る騎士が増えた。
特に今は暑いので、ひんやりとする湿布が大好評である。
……涼を取りたいがために貼ってくれと言っている感も否めないけど。
まあ、大量に使ったところで人体に悪影響は出ない作りになっているので、使い過ぎに関しては何の問題もない。ただ、騎士団が大量注文するおかげでわたしの生産が追いついていないので、少しばかり使用を控えてくれると嬉しいなとは思ってしまう。
肩を痛めたらしい騎士に湿布を貼っていると、またすぐに次の騎士が湿布を求めてこちらに歩いてくるのが見えた。
「手首やったからシップ貼ってくれよ」
……うん、皆さん、暑いんですね。
これは湿布で涼を取っているので確定だ。
わたしはちらっと、近くに置いてある小型冷凍庫を見た。
あの中にはアイスキャンディーが入っている。
……湿布貼っている間は訓練には戻れないし、渡してあげてもいいかしら?
一応これは、熱中症予防で用意したものだ。
炎天下の中で訓練を続けていたら熱中症を起こして倒れてもおかしくない。
ミヒャエラさんから、毎年、夏ごろは倒れる騎士が何人もいると聞いていたから持って来ていたのだ。
「湿布を貼っている間、冷たいものはいかがですか?」
わたしがそう言ってアイスキャンディーを取り出すと、騎士たちはぱあっと顔を輝かせた。
「いいもん持ってるなお嬢ちゃん!」
「それ、この前娘にねだられて買ったぜ。冷たくてうまいよなあ!」
湿布中の騎士たちがアイスキャンディーを食べはじめると、それに気づいた騎士たちがわらわらと集まって来た。
訓練を監督していたはずの騎士団総帥のマクシム様までやって来る。
「お嬢ちゃん俺にもちょうだい~」
……どうでもいいが、今は訓練中ではなかったのだろうか。
訓練をしていた騎士たち全員がアイスキャンディーに釣られてわらわらと集まって来てしまった。
「ミヒャエラさん、すみません。予想通りというか、アイスキャンディーの在庫がなくなりそうなので、ちょっと、聖魔法騎士団の棟に取りに行ってきます」
なくなってもすぐに作れるように、砂糖を溶かしたジュースは持って来ている。わたしも氷結の魔法が使えるので、あれさえあればすぐに作れるし、何なら騎士たちの多くが魔法を使えるので自分で作ってもらうことも可能だろう。
「それならわたしが行ってくるわ。一階の食堂の氷室の魔道具の中に入れていたあれでしょう?」
「そうです! すみません、助かります!」
わたしがアイスキャンディーを配るので手が空かないのを見て、ミヒャエラさんがジュースを取りに行ってくれた。優しい先輩だ。
「食ったやつは訓練に戻れよ~!」
アイスキャンディーをかみ砕きながら、マクシム様が言う。
そして、「よっこいせ」と声を上げてわたしの横に座ると、マクシム様が、冷凍庫の中のアイスキャンディーの在庫がなくなったのを確認してから小声で話しかけてきた。
「なあ、今度ちょっと、お嬢ちゃん家に行きたいんだが、構わないか?」
「え⁉」
わたしたちが住んでいる家は、とてもではないが貴族を招けるような家ではない。
しかも相手は騎士団総帥だ。そんな人が来たら、父がひっくり返るかもしれない。
「お? 団長にもようやく春ですか? でもお嬢ちゃんは難易度高いですよ~? 何せ、聖魔法騎士団総帥閣下のお気に入りっすからね!」
「え⁉」
わたしは違う意味でまた声を上げた。
……春? 騎士団総帥閣下のお気に入り⁉
聖魔法騎士団総帥閣下とは言わずもがなフリードリヒ様のことである。
かあっとわたしの顔が熱くなった。
……フリードリヒ様のお気に入り!
おそらく、わたしの作る製品を見せたりしていたので接点が増えたせいで騎士が勘違いしているのだろうが、勘違いであっても照れてしまう。
すると、マクシムが「そんなんじゃねーよ」と騎士の頭を拳で殴って、ちょっと言いにくそうに続けた。
「あー、実はな、最近妙な投資話が出回ってるんだよ。で、その投資話に乗っかったやつは決まって大損しててな。お嬢ちゃんとこも去年投資で大損してるだろ? そん時の話が聞きたくってなあ。あ、安心しろ、フリードリヒのやつも一緒に行くって言ってるから」
……ええ⁉
騎士団総帥だけじゃなくて、聖魔法騎士団総帥も一緒ですか⁉
……これはお父様、ひっくり返るどころの騒ぎじゃすまないかも。下手したら心臓止まるんじゃないかしら?
というか、高貴な方を二人もお出迎えできるような服、うちにあったかしら?
借金を作った時にほとんどのものを手放しているので、きちんとした服がないかもしれない。
それから高級茶もなければ茶菓子もない! 食器も、きちんとしたものを買わなくては!
あわあわしていると、マクシム様が「気を使わなくていいからな」と言ってくれる。でも、失礼があったら大変である。
「もしお嬢ちゃんの家に行くのが難しかったら、別の場所を使ってもいいし。俺らとしたら話さえ聞ければそれでいいから……」
わたしはその提案にすぐさま食いついた。
あんなおんぼろな家に高貴な人をお招きするなんてとんでもない! 何せサロンもないのだ。話をするとなればダイニングだが、あんなぼろいダイニングテーブルに総帥閣下二人を座らせるわけにはいかないのである。
ぶんぶんと首を縦に振ると、マクシム様が少しほっとしたように笑った。
「おー、よかった。助かるぜ。じゃあ場所は……そうだな、あいつんちでいいか。都合のいい日をフリードリヒにでも伝えておいてくれ」
後日、わたしはマクシム様の言っていた「あいつんち」がフリードリヒ様の家だと知ってひっくり返ることになるのだが、この時はまさか公爵様の邸を使うなんて思っていなかったので、何も考えずに「わかりました!」と能天気に返したのだった。
……わたし、お父様のこと、能天気だなんだって言えないかもしれないわね。
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