不穏な噂 2
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一週間の長期休暇明け、わたしはアイスキャンディーを入れた小さめの冷凍庫(父が作ってくれた)を持って、団長室を訪れていた。
フライングですでに販売を開始しているが、新商品を販売する際は見せに来いとフリードリヒ様に言われていたからである。
「団長、マルガレーテ・ハインツェルです」
「入りなさい」
団長室の扉を叩くと、すぐに返事があった。
「おはようございます! 今日は新商品を持ってきました!」
扉を開けると、フリードリヒ様はライディングデスクではなくソファに座ってお茶を飲んでいた。まるでわたしが来ることがわかっていたかのようだ。
……あ、この顔、知ってたのね。
座るように言われたので対面に座ったわたしを、フリードリヒ様が軽く睨んでくる。
「アイスキャンディーというものだろう? 知っている。兄上と義姉上がどこかから聞きつけて、私に買いに行かせたからな」
「ひえ!」
「販売する前に持ってこいとあれほど言っていたのに、君という人は……」
いや、まさかフリードリヒ様が国王陛下にお使いを頼まれるような事態になるとは思わないではないか。
フリードリヒ様は聖魔法騎士であるけれど、高度な魔法も操れる魔法使いでもある。フリードリヒ様ならアイスキャンディーを溶けることなく運ぶことができるだろうが、いくら相手が弟でも、国王陛下はフリードリヒ様を便利に使いすぎだと思う。
「おかげで休暇中に呼び出されて、この炎天下の中に買い物に行かされる羽目になった」
使用人に頼もうにも、使用人が氷結の魔法を使えなければ意味がない。
仕方なくフリードリヒ自ら店に足を運んだらしい。
「そ、それは、その、申し訳ありません」
だが、アイスキャンディーは暑い季節が勝負の季節商品だ。できるだけ早く売り出して、お金を稼いでおきたかったのである。一週間だって無駄にできないのだ。
「買ったついでに私も食べたが、君はまた面白いことを思いついたものだと思ったよ。それで、その箱の中に入っているのか?」
「あ、はい。これです」
「……待ちなさい」
何気なく冷凍庫の蓋を開けたわたしに、フリードリヒ様が待ったをかけた。
「その箱は何だ。氷室の魔道具のようだが、それよりも冷たい」
「はい、父に頼んで改良してもらいました。冷凍庫と言います。アイスキャンディーも溶けることなく保存可能です」
「また妙なものを……」
あきれ顔をする割にはしっかり興味を示している。
冷凍庫ごとわたしの手からアイスキャンディーを取り上げたフリードリヒ様は、魔石に刻まれた刻印を確かめながら、「なるほど、これで温度をさらに下げているのか……」とぶつぶつつぶやいていた。
「君の父は、ずいぶん高名な魔法使いだな」
「昔から手先は器用な人だったんです」
「それだけじゃないだろう。魔石に刻まれた刻印も、無駄のない実に見事な魔法陣だ。魔法省にいれば大臣も夢ではなかったのではないか?」
……え? お父様が大臣? むりむりむりむり‼ あんな能天気な人が大臣とか、下につかされた人が可哀想なことになる未来しか見えない!
いくら魔法が得意でも、人には向き不向きというものがあるのだ。あの父に宮仕えは無理である。もっと言えば政治家とか絶対に無理だ。騙されて汚職の嫌疑をかけられ縛り首になる未来しか見えない。断固阻止!
「ち、父にはそういうのはちょっと荷が重いので、絶対に、それこそ逆立ちしたって無理だと思います。ええ本当に、のほほんとして全然ちっとも役に立たないような人なので‼」
「君、自分の父親に対してひどくないか?」
「いいえちっとも‼」
あんなうっかりものを大臣にしたら、すぐに処刑の憂き目にあう。ひどいことを言っているようだがこれは娘の愛情だ。処刑は絶対にダメ‼
「そうか……。まあ、君の今の家の状況から考えるに、不器用な人であるだろうというのはわかる」
不器用なんて言葉が誉め言葉に聞こえるくらいのダメダメな父だが、まあ、理解してくれたのならいいだろう。
フリードリヒは、ふっと笑う。
難しい顔をしていることが多い憧れの上司の笑顔に、わたしの胸がドキリと鳴った。
……うぅ、カッコイイ‼
キュンキュンしていると、冷凍庫の蓋を締めたフリードリヒ様が、それを国王陛下の元に持って行くというのでお見送りする。
一緒に行くかと言われたが、心臓が縮みそうなあんな場所にはもう二度と行きたくないので、丁重にお断りした。
……でもこれで、また「国王陛下御用達」の七文字がくっつくのかしら。
これはまた、売り上げがぐんと伸びそうである。
ありがとうございます、陛下‼
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