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真空で鳴る音  作者: youkey
青すぎるルーキー編 12章 お初にお目にかかります
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4話 変わるもの、変わらないもの

「はあ。お前たちは……。」


梶原さんは呆れた声でつぶやいた。


「すみませんでした。」


平謝り。

こんなにもしっくりくることもない。


「Holy GloryはSBにすんなり決まったってのに……。」


梶原さんのため息は、もうすでに今年1年分の幸せを逃していそうだった。


「まあお前たちと櫛田だから、スムーズに行くとは思ってなかったけど。」


「そういや、JUNKの店長は変わり者だって。」


思い出したように楓は言った。


「ああ、昔からそうだよ。」


「えっ。マジすか。」


類は半笑いだった。


「まだろくに客も入らないバンドを、気に入ったからってトリにしたり。」

「有名バンドから『うちをトリにしてくれ』と言われても、気に入らなくて断ったり。」

「他にも……。」


梶原さんは俺たちの顔を見て、話すのをやめた。


「まあでも、出禁なんて数組しか聞いたことねえな。」


「すみません。」


口癖がすみませんになりそうだ。


「でもJUNKはお前たちにとっては最高のハコだぞ。」


「それは肌で感じました。」


「福岡のパンクロック系といえばJUNKだからな。」

「わざわざ遠方から観にくる関係者も多い。」


「……。」


やってしまったことの大きさに下を向くしかない。


「ただ、出禁と引き換えのチャンスってのはそんなに悪くねえかもな。」


顎に手を当てながら梶原さんは言った。


「どう考えても最悪でしょ!」


類は咄嗟にツッコミを入れる。


「あいつはな、気に入ったバンドには無茶苦茶厳しいんだよ。」


「そうですかね。ただの嫌がらせでしょ。」


またムカムカしてきた。


「どっちみち、認めてもらうしかないさ。」


梶原さんは笑う。


「とりあえず、うちの対バン系の企画は呼んでやるから。」

「そこでしっかり実力上げてけ。」


「「「「「ありがとうございます。」」」」」


「ちゃんとノルマはあるからな。」


「はい。」


「それより美玖ちゃん。」


梶原さんは急に美玖に話しかける。


「大変だったね。女の子がそんなのに巻き込まれて。」

「怖かったろ?」


「いえ、もう慣れました。」


美玖は笑顔で言った。


「ははは。さすがだな。」


「マネージャーですから!」


美玖はいつも通りない胸を張った。


「じゃあ俺たち行きます。」


俺たちは頭を下げてドアに向かった。


———「ちょっと待て。」


梶原さんは俺を呼び止めた。


「櫛田はああだけど、認めたバンドは絶対に裏切らない。」


「認めさせてみせますよ。仲良くなれる気はしないけど。」


俺はそう言って部屋を出た。



——————



5人はそれぞれ電車に乗って家路へ。


路線が1人だけ違う俺はイヤフォンで音楽を聴く。


『お前、救われたな。』


音楽をかき消すようにアイツの声が聞こえる。


どういうことだよ。


『あのヒゲのおっさん、お前を助けたんじゃねえか。』


だからなんでだよ。


『お前、先走って出ないって言っただろ。』


それがどうした。


『あの時、メンバーのヘイトはお前に向いてた。』


……。


『あのままなら揉めてた可能性だってある。』


……かもな。


『でも第三者のおっさんが、敵になることでお前らは団結した。』


……。


『違うか?』


結果そうなっただけで、そこまで考えてねえだろ。


『どう思うかはお前の勝手だ。』


とにかく喧嘩売られたんだ。

買うだけさ。


『お前、だいぶ俺に近づいてきたな。』


……。


『昔なら揉め事なんて絶対しなかっただろ。』


音楽のことだけは本気ってだけさ。


『いい加減受け入れろよ。俺を。』


またそれかよ。

お前もいい子の自分も背負うって言ったろ。


『別物として背負うより受け入れたほうが楽だぞ。』


うるせえよ。


『音楽をすればするほど俺とお前は近くなる。』


……。


『受け入れるのも時間の問題だ。』


そう言ってアイツは消えていった。


受け入れるか……。


拳を握った。



——————




「ただいま。」


「おかえり蓮介。」


親父はすでに寝巻きだった。


「飯食うぞ。」


「ああ。」


1階へ降りて食事の準備をする。


「そういやバンドはどうだ?」


親父に曲以外でバンドの話をすることは少ない。


「珍しいね。バンドのこと聞くなんて。」


「ライブやってるのも知ってるし、順調なんかなって。」


「ハコを変えようかってなってる。」


「ハコ?今どこでやってんの?」


「Millerってとこ。」


「Miller?知らんな。キャパは?」


「100人ぐらい。」


「へー。」


「俺らの力じゃないけどツーマンはやった。」


「おお。やるやん。」


素直に褒められると少し気まずい。


「次はどこにしようとしてんの?」


「JUNKってとこ。」


「あー。あの変わり者のとこか。」








「えっ。」








「親父、知ってんの?」


「チャーハンできたぞ。」


チャーハンどころではない。


「ねえ!親父!知ってんの?」


「出たことあるからな。」


親父はチャーハンを食べながら言った。


「はっ!マジかよ!」


「冷めるぞ。」


だからチャーハンどころではない。


「いつ?」


「そりゃバンドやってた頃だろ。」


そりゃそうだ。


「えっ。大名の2階のとこよね?」


「そうだよ。」


「3階がステージの?」


「いやステージが2階の狭いとこ。」


あれ?


「3階よ。ステージは。」


「いや、2階やって。」


「じゃあ違うかも……。」


「店長、櫛田やろ?」


「えっ。……うん。」


「じゃあやっぱそこよ。」

「上の階も買ったんやろ。」

「俺の時は2階がステージやった。」


「そうなんや。変わるもんだね。」


「SBもそうよ。昔はあんな女子は多くなかった。」


「そうなん?」


「そうよ。もっとゴリゴリロックのハコだった。」


意外だった。

今ではポップもロックもごちゃ混ぜだ。


「でも、JUNKのあの店長は変わってないやろうな。」


「なんで?」


「まだ客も集められないのに、トリをやらされたりな。」


「……。」


「数回やった後に、SBに行けってうるさかったし。」


「……。」


「結果、それでSBに移ったんだよ。」


「そうだったんだ。」


「その後も何かとSBに来たりしてて、話しかけられたりな。」


「お気に入りだったんじゃないの?」


本人に自覚はなさそうだけど。


「だとしたらSBに行けとか言わないだろ。」


「……確かに。」


「まあなんか変わったやつだったよ。」


そう言って親父はチャーハンを食べ切った。


俺のチャーハンはとうとう冷めてしまっていた。

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