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真空で鳴る音  作者: youkey
青すぎるルーキー編 12章 お初にお目にかかります
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3話 背水の陣 

ライブが終わり、観客はフロアを続々と出ていく。


「……べえな。」


爆音に耳をやられて、楓がこぼした言葉を拾えない。


「すごいライブだったね……。」


美玖は絞り出したように言った。


「「「「……。」」」」


何も聞こえなかったように誰も反応しない。


「……そういや梶原さんが店長さんに挨拶しとけって。」

「ここの店長さんには言ってあるからって……。」


康成は呟いた。


「すごいライブでしたってか。」


類は鼻で笑った。


「とりあえず行こう。」


俺たちは空になったフロアを出た。



——————



エレベーターで受付まで上がると、さっきのバンドがそれぞれ物販をしている。


テーブルにはCD、Tシャツ、ステッカーが並んでいる。


「ありがとう!」


CDを手にした客にメンバーが声をかけている。


「サインください!」


ボーカルはペンを取って慣れた手つきで書いていた。


俺たちは物販スペースを通り抜け、受付に向かう。


「店長さんっていらっしゃいますか。挨拶をしたくて。」


康成は金髪ピアスに話しかける。


「奥にいますよ。伝えてきますね。」


そう言ってバックヤードに下がっていった。


「「「「「……。」」」」」


無言の時間が痛い。


「奥へどうぞ。」


金髪ピアスに促されバックヤードに入る。


———「おう!お前らか!The Outsiders!」


長い白髪髭を蓄えた老人が、椅子に座ったまま叫ぶ。


「どうも……。」


自分で出した声の小ささに驚いた。


ボリュームの差がすごかった。


「どうだった?ライブは!」


満面の笑みで聞いてくる。


「……凄かったです。」


絞り出すように康成は言った。


「そうだろう!今日はうちの自慢のバンドたちだ!」


そう言って白髪ジジイは大笑いする。


何が面白いんだろう。


イラついてしまった。


「で、お前らはいつでるよ?」


白髪ジジイは当たり前のように聞いてきた。


「俺たちは……。」


「梶原とは古い仲でな。」

「あいつが珍しく推してくるから期待してるぜ!」


俺の話を聞くことなく矢継ぎ早に言葉をぶつけてくる。


「対バン企画で言うなら来週の……。」


「あの!」


話を聞かないクソジジイに俺は遮るように言った。


「ライブには出れません!」


今日イチで声を張った。



——————



———今なんて言った?


自分でもわからない。


「おい。蓮介、どういうことだ。」


類は俺の肩を掴んだ。


記憶が蘇ってくる。


多分俺はまた先走った。


でももう止まれない。


「……ライブには出れない。」


「またお前は勝手に!」


楓の罵声が飛ぶ。


「でも今日のライブでわかったろ!」

「今、出ても最初のバンドみたいになるだけやろ!」










「……実力が足んねえんだよ。」










「「「「……。」」」」


「……怖気付いたか。」


クソジジイはそう呟いた。


「あ?」


つい睨んでしまった。


「今日のバンドは、うちでも人気も実力もある連中だ。」











「ハナからそのレベルは求めてねえよ。」

「舐めんじゃねえぞ。ガキども。」










そう言ってクソジジイは笑った。


「なんや!」


つい声が大きくなる。


「Millerでちょっと認められたぐらいで勘違いしたか。」

「ここで怖気付くようじゃお前ら、先ねえよ。」

「梶原の目も鈍ったな。」


梶原さんの名前が出た瞬間、何かが切れた。


「梶原さんを悪く言うんじゃねえよ!」


「だってそうやろ?怖気付いて逃げ出すバンドなんてよ。」


「大して知らねえくせに、偉そうな口叩いてんじゃねえぞ、クソジジイ。」


「実際、そうやないとや?」


クソジジイは笑いながら俺を見る。











「俺たちはプロになるったい!」

「後で吠え面かくんじゃねえぞ!」












怒号と静寂。


「……そんだけ言うならライブで見せてみろや。」


「……。」


俺はクソジジイを睨みつける。


「……猶予はやる。」


「猶予?」


「俺も鬼じゃねえからな。」

「学生にすぐにとは言わねえ。」


「……。」


「今年の秋。1発目のライブ。」

「メンツは今回の中にお前らを入れる。」


「……。」


「それで俺を唸らせるライブができなかったら、出禁だ。」


「……。」


「望む所だ。ご自慢のバンドが圧倒されてメンツ潰れても知らねえぞ。」


「威勢だけはいいな。」


「行くぞ!お前ら!」


俺はクソジジイに背を向ける。


「逃げんじゃねえぞ。」


クソジジイは声を張り上げた。


「そっちこそ。首洗って待ってろや。」


俺はイライラしたまま、バックヤードを出た。


周りは仰々しい目で俺らを見つめる。


あんなでかい声出して喧嘩したらそりゃそうだ。


後に引けない俺は全員を睨みながら外へ出た。



——————



外はもう寒くなっていた。


暖房は世紀の大発明だ。


「「「おーまーえー!!!!!」」」


暖房の温もりはすぐに抜けて、背筋が凍る。


「ご、ごめん。つい。」


「何がついだよ!アホ!」


類は俺の頭を叩く。


「店長に喧嘩売る奴があるか!」


楓は俺を蹴る。


「まあまあ。」


こんな時でもフォローしてくれる康成には、一生友達やってもらおう。


「めっちゃ怖かったんだけど!」


美玖もお冠らしい。


「ほんとごめんって。」


———「まあ許す!」


「え?」


意外と簡単に出た許しに間抜けな声が出る。


「あのジジイには俺たちもむかついたからな。」


類は腰に手をやる。


「お前が言ってくれてスッキリしたよ。」


楓も笑っていた。


「梶原さんはいい人なのに!」


美玖もなぜか怒っていたようだ。


「じゃあなんで怒られたんだ?俺。」


「お前はいつも先走りすぎだからその罰。」

「俺たちも同じ考えだったけど確認はいるだろ?」


康成は笑って俺を蹴った。


「それはマジごめん。」


「でもまずいことにはなった。」

「ここでやりたいけど、チャンスを逃せば出禁だ。」


康成の言葉に類も楓も頷く。


「まあ秋まであるしさ。なんとかなるさ。」








「「「「……。」」」」








「「「「お前が言うな!」」」」










「痛っ。」


類から馬場チョップを脳天に喰らう。


「まあとにかくライブを重ねて実力を上げるしかない。」


康成は力強く言った。


「そうだな。」


類と楓は頷いた。


「SBは見にいくか?」


「こうなった以上、JUNKに集中だろ。」


「梶原さんに謝ってMillerで経験積ませてもらおう。」


「私、スケジュールとか管理するよ。」


俺を無視して会話が進む。


「あのさ。」


全員が俺に向き直る。


「悪いとは思ってるけどさ、なんか俺ワクワクしてる。」


「「「「……。」」」」


———「俺も。」


先陣を切ったのは康成だった。


「確かに燃える状況ではあるな。」


類も続いた。


「こんな壁乗り越えられねえようじゃ、プロにはなれねえよ。」


楓は首を鳴らす。


「なんか、らしくていいんじゃない?」


美玖は笑った。


「やろうぜ。お前ら。」


「「「「おう。」」」」


寒さは感じなかった。

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