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真空で鳴る音  作者: youkey
青すぎるルーキー編 12章 お初にお目にかかります
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1話 分かれ道 

———3年後。


高円寺の古い雑居ビル。

その3階の一室。


壁に所属バンドのポスターが貼ってある。


机が3つ。


奥に打ち合わせ用のテーブル。


CDや機材のカタログが積んである。


担当の大塚さんはパソコンを開いて、The OutsidersのYouTubeを再生している。


俺たちを見ると大塚さんは再生を止めた。


「おう来たか。」


「お疲れ様です。」


「座ってくれ。」


大塚さんに促され、4人でソファーに座る。


「改めて契約おめでとう。」


大塚さんはそう言って、頭を下げた。


「ありがとうございます。」


康成が代表して答える。


「東京の生活はどうだ。」


「まあ、なんとか。」


「そういや先週、スタジオ入ったんだってな。」


「とりあえず演奏したくて。」


俺は頭をかいた。


「でもバタバタですね。」


「そうか。慣れるまでは大変だろうけど、これから忙しくなるぞ。」


大塚さんの鼻息は荒かった。


「ライブですか?」


類が聞いた。


「ライブもそうだけど、まずはアルバムだな。」


大塚さんは机の上に資料を置いた。


「1stアルバム。Home Run Batter。そうだろ?」


「16曲全部ですか?」


楓が聞く。


「そう、あれをちゃんと録り直す。」


「結構かかりますね。」


「そうだな。でも、あれがお前らの最初のアルバムなんだろ?」


「はい。」


「なら、まずはあれを形にしよう。」


大塚さんはパソコンを開いた。


「ただ、YouTubeの音源をそのままCDにするわけじゃない。」

「きちんとしたスタジオ、機材を使ってアルバムとして仕上げる。」


「音はどんな感じにしますか?」

「あれは俺が1人で作った音源なんで。今の4人で鳴らしたら、どうなるかなって。」


俺は聞いた。


「曲は基本このままでいい。」

「俺はHome Run Batterが好きだ。だから、余計なことはしなくていい。」

「ライブの勢いを残して、音源として仕上げる。」


「ライブ感……。」


「そこが大事だろ。俺はそこがお前らの強みだと思っている。」


俺たちは顔を見合わせた。

そして、頷いた。



——————



ライブの後は力が出ない。

顔が濡れたアンパンマン。


そんなことを思いながら布団にくるまる。


それでも時計は16時を回り、約束の時間が近づいてくる。


俺は布団の温かみから抜け、窓を開ける。


外から入ってくる風は最悪の冷たさ。

それでも目を覚ますには最高だった。


着替えて自転車にまたがる。

ギターバックは抱えない。


今日は話し合い。


荷物がいつもより軽くて助かった。

じゃなきゃ今日の俺は諦めていたかもしれない。


空っぽの心体で荷物を持つには重すぎる。


前方不注意で何度か肝を冷やしながら、学校へとたどり着いた。


——————



「……お疲れ。」


「疲れてんのはお前だろ。」


康成は笑ってツッコむ。


「なんで働いてきた俺らより疲れてんだよ。」


類の追撃を喰らった。


来ただけで褒めて欲しいぐらいだ。


「相変わらずライブ後はダメだな。」


楓の言葉にみんなが笑う。


珍しく会話ばかり聞こえる音楽室。


言っておくが、冬休みなのにわざわざ登校する俺たちは優等生ではない。


「じゃあ今後の方針決めるか。」


康成は手を叩いた。


そして黒板にチョークでデカデカと書いた。


「The Outsiders!今後の方針!」


自分達のことなのに他人事に感じてしまう。


机に突っ伏してとりあえず話を聞く。


「まずはSNSだな。」


康成は手を叩く。


名前を聞くだけで、若干の食わず嫌い。


「とりあえずXとインスタ、YouTubeでアカウント開設すればいい。」


楓はだるそうに座って言った。


「TikTokは?」


知っている名前を出して参加しているふり。

我ながら高度なテクニック。


「お前、知ってる名前出しただけだろ?」


類に机を蹴られる。


「バレたか……。」


「TikTokはいらんだろ。」


康成に雑に放り投げられた。


「んで大事なのは誰がメインでやるかだな。」


顔を見合わせて、全員下を向く。


———「私やるよ!」


手を挙げたのは俺の隣の席に座っている女。


「美玖?」


「うん。せっかくだからなんか手伝いたい!」


「いいの?美玖ちゃん。」


康成は顔を覗き見る。


「マネージャーみたいな感じがしたい!」


「そりゃ助かるな。」


類も楓も頷いている。


「じゃあ頼むよ。」


「うん。」


美玖は頷いた。


「あとは内容だな。Xとインスタはライブとかの告知メインで。」

「YouTubeは何をあげよう?」


「やっぱりライブ映像だろ。」


楓はバンドのSNSに詳しいようだ。


「金がありゃMVとか撮りたいけどな。」


類は笑った。


「蓮介の宅録の音源あげるのもいいかもな。」


康成は腕組みしながら言った。


「えっ……。」


「お前、めんどくさって思っただろ。」


類は隣でニヤニヤしている。


「……。」


何を言ってももうバレる。


「俺らに聴かせたやつでいいから、ライブ来る前に予習できるようにさ。」


言ってることが正しすぎて何も言えない。


「……美玖、手伝って。」


隣に助けを求めた。


「はあ……。しょうがないな。」


ありがとう神様。


「これでSNS関係はいい。」

「問題はここからだな。」


康成は大きく息を吐く。


「新しいハコどうしようか?」


「梶原さんにいくつか紹介してもらったけど。」

「北九とか遠いとこ抜いたらやっぱSBとJUNKだな。」


康成はSBとJUNKの比較を書き出していく。


SB

キャパ 300人

ジャンル ロック全般

客層 10代〜30代 女性も多い

雰囲気 有名店にて入りやすい

参加バンド 人気バンドが多い


JUNK

キャパ 230人

ジャンル ロック・パンク特化

客層 20代〜50代 男性が圧倒的

雰囲気 アングラで独特

参加バンド 実力派が多い

※店長の櫛田さんはくせもの。


「こんな感じだな。」


康成は手についたチョークの粉を払う。


「SBは田嶋さんとの関係もあるしいいと思うけどな。」


類の言葉に康成は頷く。


「でも、俺らの感じだったらJUNKだろ。」


楓はキッパリと言った。


「蓮介はどうだ?親父さんの古巣だしSBか?」


康成は俺に意図のあるパスを出す。


「……うーん。どうだろう。」


「煮え切らねえな。」


類は苦笑いする。


「見てみないことには分からんくね。」


1番素直な気持ち。


「それはそうだな。」


楓は頷いた。


「じゃあ見にいくか。」


「そうしよう。」


やる気も気力もなかったはずの心に少しだけ火が灯った。

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