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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 11章 Miller
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9話 巣立ち

———ガヤガヤ。


ライブは終わったというのに騒々しい。


Holy Gloryはステージを降りて物販をしている。


握手をし、写真を撮り、差し入れをもらう。


「俺たちもやったほうがいいのかな。」


俺はぼそっと呟く。


今までは終了後、すぐに帰るだけだった。


だが今回は梶原さんの奢りとやらで打ち上げがあるから帰れない。


「お前が行きたいならいいんじゃない?」


類は俺のこぼれた言葉を拾う。


「いや、やらなきゃいけないのかなって。」


「まあ売れるためならな。」


楓は様子を眺めながら言った。


「あそこまでしなきゃいけないのかな。」


「あのMCして行ってもファンはつかんだろう。」


康成は苦笑いした。


「あのMC?」


「お前、Holy Gloryのファンに喧嘩売っただろ。」


「えっ。そうだっけ?」


「自覚ないのか。」


康成は呆れていた。


「あんなの煽りだろ?」


「うわー敵作るぞお前。」


類は笑って言った。


「普段はあんな気ぃ使いなのにな。」


楓も笑った。


「うるせえよ。」


———「お疲れ!みんな!」


「おう。美玖。」


「いいライブだったよ!」

「蓮介がお客さんに喧嘩売った時は、どうなるかと思ったよ。」


「俺そんな喧嘩腰だったか?」


「あれは宣戦布告だったよ。」

「梶原さんとかHoly Gloryの人たちとか怒ってなきゃいいけど。」


美玖の言葉を聞いて少しゾッとした。


「まあ無事終わったし大丈夫だろ。」


楓は軽く笑い飛ばした。


———「Outsiders。ちょっといいか。」


その声に俺たちは唾を飲み込んだ。



——————



5人でとりあえず横一列に並ぶ。


なんとも言えない緊張感がその場を包んだ。


「お前たち……。」






「いいライブだったな。」





梶原さんの言葉に、4人の表情が緩んだ。


「MCのことはすみませんでした。」


あれだけ責められたら謝るしかなかった。


「ああ。あれか。」

「若いんだからあれぐらいあっていいさ。」

「それにHoly Gloryの奴らにも火がついたしな。」


やっと俺も肩の力が抜けた。


「それよりお前らに話があってな。」


俺たちは目を見合わせる。


「お前ら、別のハコ探せ。」


「なんでですか?」


反応したのは俺だけだった。


「やっぱMCの件を根に持って……。」


「違うよ。」


焦っている俺を梶原さんは笑った。


「うちより大きいとこだよ。」

「もうお前らは次に進むべきだ。」


「いやでもワンマンしてないっすよ。」


「お前らの感じなら100キャパぐらいすぐ埋まる。」

「それにここでやってもお前らの求める客は来ない。」


「どういうことですか。」


「他の奴らはわかってるだろ。」


康成は腕を組んだまま黙っていた。

類は何度か頷いている。

楓だけは、驚いた様子がなかった。


「うちは若い客や学生の客が多い。」

「特に女性のな。」

「ジャンルとしてもポップスや爽やかなロックがメインだ。」


「……。」


「お前らはもっとゴリゴリのパンクやロックのハコの方がいい。」


「……。」


「多分今日のライブやって思っただろ?」

「熱が足りないって。」

「Holy Gloryメインの客が多いにせよ、お前らの求める熱はここじゃない。」

「内村のMCもそう思ったからじゃないのか?」


「それは……。」


俺は言葉に詰まってしまった。


「お前らには期待してる。」

「もっとデカいとこ飛び込んでこいよ。」


———「蓮介。こう言ってくれてるんだ。」


楓が肩を叩いた。


「楓、お前が元々やってたハコだろ?」

「いいのかそれで?」


「俺たちはプロを目指すんだ。」

「デカいハコに行くのは自然だ。」


「でも大してライブしてもねえよ。」

「もっとここに貢献しなくちゃ。」


「ははは!」


梶原さんは腹を抱えて笑った。


「ステージではあんななのに意外と小せえこと気にするんだな。」

「もっと売れて、うちの名を広めてくれりゃいい。」


「……。」


「うちからいいハコいくつか紹介する。」

「あとはお前たちで決めたらいい。」


「……わかりました。」


「もちろん、またうちでライブしたっていいからな。」


梶原さんは笑顔で俺の方を叩いた。



——————



「お疲れ!」


Miller近くの居酒屋。


周りは大人だらけ。

アルコールの匂いがする。


相変わらずライブで力が抜ける俺は誰とも話さず、端に座っていた。


「いいライブだったな。」


ビール片手に山下さんが隣に座った。


「MCの件、すみませんでした。」


「あれで俺らも燃えたから、謝らんでいいよ。」


そう言ってグラスをぶつけてくる。


「俺らのファンもかっこよかったって言ってたよ。」


「……そうですか。」


なんとなく気まずい。


「そういや俺たちも新しいハコを探すんだよ。」


「そうなんですか?」


「うん。多分ジャンル的に君らとは違うとこだけど。」

「やっぱり次はキャパ200ぐらいのとこがいいかな。」


「俺ら今日でさえHoly Gloryのおかげで埋まったから……。」


「そりゃ活動年数が違うからそうさ。」

「一気に100キャパ埋めるなんざ100年早え。」


山下さんは笑った。


「でも俺ら、ファンの作り方とかよくわかんねえし。」


「ああ、大丈夫。」


山下さんは指差した。


「今、平がベースの子に教えてる。」


声は聞こえないが、康成は平さんの話を真剣に聞いていた。

なぜか隣で美玖も聞いているが……。


「俺もその辺からっきしだからさ、内村くんとこ遊びに来た。」


「……そうですか。」


苦笑いするしかなかった。


「しかし君らはすごい。」


「何がですか?」


「バンドだよ。」

「今日も正直、客を持ってかれかけた。」


「そんなことないですよ……。」


「やっぱプロ目指してるんだろ?」


山下さんはさっきとは違い真剣な顔つきになった。


「はい。」


「じゃあ活動してたらまた会うかな。」


「そうですね。また会いたいです。」


「そん時は負けないからな。」


「はい。僕らも負けません。」


今度はこっちからグラスをぶつけた。


———「おーい!お前ら!飲んでるか!」


顔を真っ赤にした梶原さんが急に立ち上がる。


「梶さんもう酔ってる。」


呆れたように山下さんは言った。


「Outsidersは全員未成年だろ?」

「ああなったらシラフじゃきついから。」

「相手しとくから、先に帰りな。」


異変を察したのかHoly Gloryのメンバーは梶原さんを囲んだ。


「今のうちだ。行け!」


俺たちは「ごちそうさまでした。」と雑に言い残して居酒屋を出た。



——————




「はあ、疲れた。」


「蓮介。これから忙しくなるぞ。」


康成は言った。


「平さんからいろいろ聞いたから、バンドの運営の方にも力入れてくぞ。」


珍しく鼻息が荒い。


「わかった。頑張るからまた今度でいい?」


膝に手をついて立ち止まった。

さすがにもう限界だった。


「ははは!相変わらずライブ後はダメだな。」


類は笑う。


「でもこっからだぜ。蓮介。」


楓は俺の肩を叩く。


「そうそう!張り切って行こうよ!」


美玖まで気合いが入っていた。


「……また明日から頑張るから。」


「情けねえぞ。ボーカル。」


康成は俺の方を揺らす。


「こんなの康成じゃない……。」


「「「「ははは!」」」


笑い声はどこまでも響いていった。

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