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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 11章 Miller
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8話 違和感

ステージ脇。

客のざわつきが緊張感を煽る。


「調子はどうだ?」


康成は肩をたたく。


「別に。いつも通り。」


いつも通りではない。

ツーマン。

緊張しないなんて嘘だ。


でも康成が気にしていることは大丈夫だ。

だから嘘ではない。


いつも通り全員で肩を組む。


「なんかよくわからん間にこうなったけど……。」


「お前がやるって言ったんだろ。」


類から鋭いツッコミが飛ぶ。


「まあ俺たちはいつも通りやるだけだろ。」


楓はニヤリと笑った。


「今は目の前のことに集中しよう。」


康成は手を叩く。


俺は大きく息を吸う。


「行くぞ!お前ら!」


「おう!」



——————



歓声はいつもより大きい。


でも、客席にいるのはHoly Gloryのファンばかりだ。


Tシャツ、タオル、リストバンド……。


様々なグッズを身に纏っている。


俺たちを見ているというより、Holy Gloryが出てくるまで待っている。


『前座だと思われてるな。』


そうだな。


『こいつら全員、俺らのものにしたら気持ちいいだろうな。』


珍しく意見が合うな。


『かますぞ。』


ああ。


「Home Run batter!」


「1、2、3、4!」


類のカウントに合わせて3人で飛ぶ。


———ジャーン。


(おお!)


歓声が上がる。


思ったより掴みはいい。


このまま駆け抜けるぞ。


いつもより激しく弦を掻き鳴らす。


ギターを振りながらイントロを弾く楓。


勢いだけでぶっ飛ばす。


(Home Run Batter!Home Run Batter!)


サビの大合唱は定番化していた。


俺たちは熱量を落とさないまま、いつも通り4曲をMCなしでかました。



——————



———ジャーン。


前回の反省から水は500mL×2。


汗を拭いながら飲み干す。


「今日は来てくれてどうもありがとう!」


康成がMCを始めると歓声が飛ぶ。


(わあああああ!)


やる前の懸念が嘘のように、ステージは盛り上がる。


「次は新曲!ノリのいい曲だ!」

「盛り上がっていくぞ!」


(おおおお!!!!)


康成の声に観客が反応する。


盛り上がっている。

なのに、ぬるい。


『つまんねえな。』


……。


「kingdom in my room!」


あいつの声を無視して俺は叫んだ。


類は3連のリズムを叩き始める。


客は頭を振ってリズムに乗っていく。


———ジャカジャーン


軽快なリフを楓が弾き始める。


踊りながら俺はスカを弾く。


「kingdom in my room」


夢にまで見たこの日がキタキタ

進学ついでにGet! my room

荷物整理しドア閉めバタバタ

誰も入れないGet! my room


人の話は聞かなくていい

だってここは俺の王国

ムカつく奴は国境閉鎖

城門の鍵ガチャリと回す


仲間集めてみんなでワチャワチャ

笑い転げるGet! my room

愚痴や悪口、恋バナ、ペチャクチャ

ここは秘密基地Get! my room


周り気にせず何してもいい

だってここは俺の王国

ノッてくれない野暮なアイツは

牢屋にぶち込んで鍵カチャリ


ここは俺が王の 王国さ

民主主義とかクソ喰らえだぜ

ここは鎖国中の 王国さ

誰も入れない俺だけの国さ


昼になるまで布団でゴロゴロ

だらけた生活Get! my room

出かける準備1人でノロノロ

気分もアゲアゲGet! my room


自由気ままになにしてもいい

だってここは俺の王国

命令なんてしようものなら

張り付けにして死刑にしちまえ


ここは唯一無二の 王国だ

独裁万歳オウサマ=カミサマ

ここは少し狭い 王国だ

広さ6帖洋室の国


ここは俺が神の 王国さ

民主主義とかクソ食らえだぜ

ここは鎖国中の 王国さ

親が家賃を払ってる国さ


———ジャーン。


(Fu!!!!)


客から歓声が飛ぶ。


その後も俺たちは3曲続けて演奏した。


「……MC変わるか。」


康成は耳打ちしてきた。


「……ああ。」


———「お前ら、どうせHoly Gloryファンだろ。」



——————



(えええええ!)


観客は驚きの声を上げる。


「自分らの身につけてるもん見てみろよ。」


(ワハハ!)


「笑い事じゃねえよ。」

「ただ盛り上がってるだけじゃつまんねえんだよ!」


『そうだ。やっとわかったか。』


……うるせえよ。


「今日俺たちはあいつらを超える。」

「鞍替えするなら今のうちだぜ。」


(……。)


客席が初めて沈黙した。


これくらい言わないとヒリヒリしない。


「ラスト2曲、全力でついて来いやクソ!」


「新曲!Child Of Psycho!」


楓のギターのカッティングがいつもより鋭い。


康成も珍しく体を揺らしている。


俺は客を睨みつけながら叫ぶ。


マイペースといえば聞こえはいいが

生まれつき俺は狂ってんだ

規制と統制に撃ち抜かれ

個性?そんなもんは幻想だ


馴染めねぇ空気、いい子の風紀

耳にタコができるほどの罵声

眉間に皺寄せて叫んでる

机が鈍い音を立てた


個性か病気か誰かが決めた

他人の(ひとの)ルールブック

俺は俺


悪さをしたってのか?

生まれたことが罪か?

そうとしか思えねぇよ

社会は俺を認めねえ

型にハマる?クソ喰らえ

俺は俺のままで

生き抜いてやるだけさ

ほっておいてくれ


殺風景な白い部屋で

机に向かって線をなぞる

白衣を身に纏う占い師

白い紙に俺を書き出す


白と青の小さなカプセル

朝と晩の食後にどうぞ

俺は風邪でも引いてるのか

俺は何も壊れちゃいない


個性か病気か

肩書きなんかじゃ語り尽くせねえ

俺は俺


悪さをしたってのか?

生まれたことが罪か?

そうとしか思えねぇよ

社会は俺を認めねえ

型にハマる?クソ喰らえ

俺は俺のままで

生き抜いてやるだけさ

ほっておいてくれ


類が激しくドラムソロを叩く。


(ウォオオオオオ!!!)


客は熱気に押されるように歓声を上げた。


個性か病気か決めたって

人は変わらないもんだろ?

俺は俺


悪さをしたってのか?

生まれたことが罪か?

そうとしか思えねぇよ

社会は俺を認めねえ

型にハマる?クソ喰らえ

俺は俺のままで

生き抜いてやるだけさ

ほっておいてくれ


俺たちはラスト2曲に全力を尽くした。


客席から感じる熱気がやっと俺を落ち着かせた。



——————



舞台袖でHoly Gloryとすれ違う。


「言ってくれるね。」


山下さんは俺を睨む。


「すみません。つい……。」


「いや、こっちも燃える。」


そう言ってHoly Gloryはステージへ出ていった。


「ウェルカム感が気持ち悪かったよな。」


類はぼそっと呟いた。


「お前らも感じてたか。」


「元々Millerは客層が女性も多いからな。」


楓はステージを振り返る。


「ファンができるってのも考えものだな。」


康成は苦笑いした。


その後のHoly Gloryのライブは盛り上がった。


ラブソングを中心に。


盛り上がりだけで言うと負けているんだろう。


それでもバンドとして負けている気はしなかった。

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