7話 brother
———ジャーン。
「悪くねえな。」
チューニングをしながら楓は少し微笑んだ。
「ただ、今までの曲の中で群を抜いて明るい。」
「セトリのどこに入れるかだな。」
「ドラムのリズム的にも、変わってるから中盤のオカズに使えるだろ。」
類はスティックを回す。
「メロディはもう固まってんのか?」
康成は俺を見る。
「まあな。あとは歌詞。」
「今までの曲の流れからしても、ただ明るい歌詞じゃ浮くぞ。」
「どうやっても俺が書いたら毒気は出るさ。」
康成は笑った。
「じゃあ今日はこれで解散するか。」
——————
「歌詞どんなのがいいと思う?」
駅までの帰り道。
美玖に聞いてみた。
「子供の王国って言ってなかったっけ?」
「言ったけどさ、子供の王国ってどこだろう。」
「ハハハハ!」
美玖は吹き出した。
「わかんないで言ってたの?」
「じゃあお前わかんのかよ。」
「いや、わかるわけないじゃん。」
「ほらな。」
「でも自分で言ったんじゃん。」
美玖は笑いを堪えている。
「イメージはあんだよ。」
「大人は入れない。自分だけの場所みたいな。」
「秘密基地とか?」
「いや、基地じゃなくて城。」
「違いがよくわかんないよ。」
「まあ俺もだけど。」
「そのまま俺の国とか城って歌えばいいんじゃないの?」
「それじゃただのファンタジーだろ?」
「ダメなの?」
「リアリティを持たせたいんだ。」
———「参考になるかわかんないけど……。」
美玖は小さく呟いた。
「何?」
「いや、やっぱいいや。」
美玖はなぜか顔を伏せた。
「なんでもいいから教えてよ。」
「……ちょっと恥ずい。」
「笑わないなら……。」
「笑ったら殴っていいから。」
美玖は俺の顔をじっと見つめる。
「わかった。」
「おじいちゃんの家で初めて自分の部屋をもらった時。」
「プッ。ハハハハハ。」
「笑わないって言ったじゃん。」
美玖はぷんぷんしてる。
「ごめん、ごめん。」
「部屋なんて俺にとっては逃げ場でしかなかったから。」
「普通はそう思うのかって。」
「……そっか。」
美玖は少し下を向いた。
「気にすんなよ。昔の話だ。」
「でもきっと昔の蓮介も部屋をもらえた時は、そう思えたんじゃないかな。」
「いつの間にかそうなっただけで。」
「ありがとうな。」
自分で言うのもなんだが、いい雰囲気だ。
男たるもの、ここで引くなど言語道断。
俺は美玖に顔を近づけた。
———ゴン。
感覚があったのは唇ではなく頭だった。
しっかりとした馬場チョップ。
「痛ってえ。」
「何すんだよ。」
「だって笑ったじゃん。」
そう言って美玖は笑った。
——————
「内村さんどうぞ。」
看護師に声をかけられ、白い殺風景な部屋へ。
「こんにちは。」
挨拶は相手の顔を見てって習わなかったのだろうか。
「調子はどうですか。」
この医者はパソコンと睨めっこが趣味だ。
「調子はいつもと変わりません。」
「そうですか。では薬はいつも通り出しますね。」
「ありがとうございます。」
俺はすぐに部屋を出た。
———「大輝、静かにしなさい。」
ロビーに出ると、走り回る子供を母親がたしなめていた。
キョロキョロと視線が移り変わる。
じっとしていられない。
そう叫んでいるようだった。
タイプは違えど彼は俺と同じだ。
「ぼく、これなーんだ?」
俺は手で蝶を作る。
『またお節介を。』
うるせえな。
「蝶々だ!」
彼は喜んで真似をする。
母親は頭を下げた。
こちらも会釈で返す。
「もっと教えて!」
「じゃあ椅子に座って教えるよ。」
俺はそう言って彼と一緒に座る。
「じゃあこれはできるか?」
彼は一生懸命に真似をする。
「おおうまいな。」
「なん作ったかわかる?」
「カニさん!」
「そう正解!」
———「中本さーん。」
名前を呼ばれ母親は立ち上がる。
「ありがとうございました。」
母親は深々と頭を下げた。
「いえ、全然。」
「お兄ちゃん、バイバイ!」
「ああ。じゃあな。」
2人は手を繋ぎ、病室に入っていった。
あの子も、俺も病気なのだろうか。
何か悪いことをしたのだろうか。
ただ少し馴染めない。
それだけなのに。
——————
———ジャカジャカ。
音楽室へ向かうと、小気味いいカッティングの音が聞こえる。
「よう。楓。」
「今日は早いな。」
「今日の現場は早く終わったからな。」
「珍しいこともあるもんだ。今日は雪かな。」
「うるせえよ。」
楓はニヤリと笑った。
「蓮介。」
「何?」
「このリフ良くね。」
楓はギターを弾き出す。
「さっき弾いてたやつか。」
「ああ。どうだ?」
「いいね。」
「ちょうど書きたい詩があったんだ。」
「そのリフ使っていいか。」
「ああ。ただしカッコよく仕上げろよ。」
「任せろ。」
———「何の話だ?」
康成と類が同時にやってきた。
「新曲。」
「へえ。またなんかできそうなのか。」
「ああ。」
「ツーマンまでに仕上げるとなると、もう時間はかけられないぞ。」
康成はカレンダーの丸を指差す。
「大丈夫だ。今回は歌詞の構想ができてる。」
「そうか。」
「とっとと始めるぞ。」
——————
ツーマンとなるとチケットのノルマがエグい。
Holy Glory側が多めに捌くことになっていたが不安だった。
ただ告知が始まるとチケットは一気に売れた。
梶原さんの過剰なSNSでの宣伝も手伝ったようだ。
本番当日、ライブハウスに並ぶ客を見て実感した。
———「これ本当に2組で集めたのか。」
「前回のライブが効いたみたいだな。」
類は嬉しそうに笑った。
「その分、プレッシャーもでかいけどな。」
楓は悪い顔をしている。
「まあそんな硬くならず行こうぜ。」
康成は冷静だった。
いつもの対バンなら窮屈な楽屋も今回は広々だ。
「きたか。Outsiders。」
Holy Gloryはもう4人揃っていた。
「どうも。」
「今日はよろしく。」
「はい。」
山下さんと握手を交わす。
———「揃ったなお前たち。」
梶原さんが入ってきた。
「うちの顔、Holy Glory。」
「今1番キテるThe Outsiders。」
「客の期待値も高い。」
「期待してるぞ、お前ら。」
「「はい。」」
8人の返事が揃う。
「Miller始まって以来の最高のライブを期待している。」
そう言って梶原さんは出て行った。
「なんか梶原さんが1番張り切ってね?」
「ちょっと笑いそうになったよ。」
山下さんが反応する。
「ですよね。」
みんなで笑った。
「じゃあ俺らも準備あるから。今日は負けない。」
山下さんはそう言って立ち去った。
勝ち負けには興味がない。
ただ胸の熱が今にも暴発しそうだった。




