5話 不死鳥
拍手がライブハウスを包む。
「おい。拍手なんてしてねえで、盛り上がる準備しとけよ。」
俺は吐き捨てるように言う。
(おおー!)
「生きてりゃストレス溜まんだろ。」
「今日はそれ爆発させていけや!」
(わああああ!)
とっとと引きずり込むぞ。
俺はメンバーを見る。
3人とも良い面構えだった。
「行くぞ、お前ら。」
俺は後ろを向いてこいつらに呟く。
「Home Run Batter!」
俺は前を向いて叫んだ。
類はカウントを鳴らす。
楓のリフが始まる。
俺はギターを掻き鳴らしステージを駆け回る。
一気に客の温度が上がったのがわかる。
このままぶち上げてく。
俺の熱をそのままぶつけるように、メロディを叫ぶ。
サビに入ると客が最前に押しかける。
(Home Run Batter!Home Run Batter!)
観客も叫ぶ。
ファーストペンギンが飛び込めば、後は早かった。
「まだまだ足んねえよ!葬式か!お前ら!」
俺は客を煽る。
楓は聴いたことのないフレーズを織り交ぜながら、客を睨みつけて弾く。
類は俺たちを見ながら、ドンと構えて力強く叩く。
康成は難しいフレーズを涼しい顔で正確に弾く。
なぜかわからないけど無敵な気がした。
俺たちは
1曲目 Home Run Batter
2曲目 首輪
3曲目 画面のそこの君に告ぐ
4曲目 色メガネと虫めがね
とMCなしでぶっ飛ばした。
——————
———ジャーン。
アンプから響くノイズ。
汗が滴り落ちる。
ギターのボリュームのノブを回し、水を飲む。
冷たい水が腹に落ちていく。
500mLのペットボトルは一瞬で空になった。
「……蓮介、MCやれよ。」
康成は俺に耳打ちする。
「ああ。任せろ。」
俺はマイクを握った。
「どうも、The Outsidersです。」
(おお!)
———ドドン。
類がバスドラを鳴らす。
「まずはまた呼んでくれた梶原さんに感謝したい。」
梶原さんは上から手を振っている。
「そしてお前らも今日は来てくれてありがとう。」
拍手が起こる。
「この前のライブが不完全燃焼でさ。」
「今日それ全部、晴らす気できてるから。」
「……お前らついて来れるか?」
(おおおお!)
「残り4曲。ラストまでぶっ飛ばしていくぞ!」
(わああああ!)
「Re:Born Day!」
暗転したステージにブリッジミュートのリフが響く。
一気に音圧を上げる。
音と共に明転。
飛び散る汗を無視して声を枯らす。
楽しい。
心が何かで満たされていく。
全てがスローモーションに見える。
ギターを弾く楓。
ベースを弾く康成。
ドラムを叩く類。
そして客の表情。
叫んでいたり、笑っていたり。
心は燃えている。
それでも頭がスッキリしている。
スローなのにその時は一瞬で過ぎた。
——————
5曲目、放課後ロックンロール。
イントロ。
客席から声が飛ぶ。
(来たー!)
楓のギターに合わせて俺もギターを掻き鳴らす。
類が笑いながらドラムを叩いている。
康成は相変わらず涼しい顔。
俺はマイクに食らいつく。
サビ。
(放課後ロックンロール!)
客席からも声が返ってくる。
俺は思わず笑った。
もっとだ。
もっと来い。
楓がギターを鳴らす。
俺も負けじと鳴らす。
類が叩く。
康成が支える。
四人の音がライブハウスを埋め尽くす。
最後の一音。
———ジャーン。
歓声が上がった。
——————
6曲目、Identity。
イントロの一音目。
楓のギターが鳴った瞬間、身体が勝手に動いた。
俺もギターを掻き鳴らす。
類のキックが腹に響く。
康成のベースがその隙間を縫う。
うるさい。
なのに、ズレない。
客席から拳が上がる。
誰かが叫んでいる。
俺も負けじと声を張り上げる。
喉が焼ける。
それでも気持ちいい。
楓がこっちを見る。
一瞬だけ目が合った。
笑っていた。
俺も笑った。
次の瞬間、類がドラムを叩き込む。
俺たちは一斉に音を叩きつけた。
——————
「はあ……。」
さすがに息が切れる。
水をもっと用意しとけばよかった。
「ほら。」
類はペットボトルを差し出してきた。
「悪い。」
一気に飲み干した。
そして前を向く。
「次がラストの曲だ。」
(えー!)
「今日はありがとう。」
「お前らのおかげで最高のライブだった。」
(わああああ!!!)
「最後のこの曲を、こんな俺を受け入れてくれたメンバーと親友2人、そして好きな人に捧げるよ。」
美玖は上から大きく手を振っている。
その横で大洋と隼人も笑っている。
俺は客に背を向けてメンバーを見る。
つい笑顔が溢れる。
拍手が聞こえてくる。
「キモいこと言うな。」
楓がたまらずツッコむ。
「せっかくかっこよくやってたのに締まらねえな。」
「まあ蓮介らしいな。」
類も康成も笑って言った。
(わはは!!!)
「ああ。安心しろ。」
「そんなお涙頂戴の曲じゃねえから。」
「1番激しい曲だ!」
(おお!)
「何が起こっても俺は俺って曲だ。」
「そのままでいいってな。」
「さあ、お前ら最後だ。ぶっ飛ばしていくぞ!」
「I AM I」
(わああああ!!!!)
鋭いギターリフが緩んだ浮を切り裂く。
それからは一瞬だった。
俺たちは大歓声を浴びながらステージを後にした。
その後もライブは続き、トリはHoly Glory。
結局、大盛り上がりで幕を閉じた。
——————
「やっぱりお前らは最高だな。」
楽屋裏で待機していると梶原さんは大声を上げながら入ってきた。
「やっと借りを返せました。」
「いい面構えになったな。」
梶原さんは笑う。
「これからもお願いします。」
全員で深々と頭を下げた。
「まあお前らなら、すぐにデカいハコに行くだろうけどな。」
梶原さんは頭を掻いた。
———「今日は負けたよ。」
後ろから山下さんが肩を叩いてきた。
「すごい熱のライブだった。」
「やっぱり君らはすごい。」
「いえ。そんなことは……。」
「悔しいよ。トリの俺らが負けるなんて恥だ。」
山下さんはまっすぐに俺を見た。
「勝ったなんて思ってません。」
「俺らが負けたって感じたんだ。」
「……。」
「なあ俺らとツーマンしないか?」
「ツーマン?」
緊張感のある沈黙が流れる。
「……ツーマンってなんですか?」
「「「おい!」」」
3人に怒鳴られる。
「今日みたいなライブをウチとHoly Gloryだけでやるってこと。」
類が慌てて説明する。
「ツーマンでやる必要ってあるんですか?」
「ワンマンでいいんじゃ?」
思ったことを口にしたら、類がため息をついた。
「……ツーマンでやりあって白黒つけようってこと。」
楓が補足した。
「Holy Gloryとしてもワンマンに向けて一回、ツーマンやりたくてさ。」
平さんが片付けを終えて出てきた。
「どう?やる?The Outsiders。」
山下さんは笑った。
「ツーマンって持ち時間どれぐらいですか?」
康成は梶原さんに聞いた。
「短めで取って半分に割るなら45分かな。」
全員で顔を見合わせる。
「……やってみたい。」
「言うと思った。」
呆れた顔で康成は言った。
「まあそうなるだろうな。」
類も同じ顔をしていた。
「俺もやりてえけどな。」
楓は笑っていた。
「やります。」
俺は山下さんを見て言った。
「大丈夫ですか?梶原さん。」
山下さんは梶原さんに聞く。
「ああ。スケジュールの話は追々な。」
——————
ライブハウスを出ると、3人がいた。
「みんなお疲れ様!」
美玖は笑顔で出迎えた。
「最高だったよ!」
「ありがとう。」
駆け寄る美玖をよそに俺は大洋と隼人に目を向ける。
「どうだった?」
「最高だった!また来たい!」
大洋は興奮冷めやらぬ感じだった。
「かっこよかった!あれが音楽してる時のうっちゃんなんだね。」
隼人は笑顔で言った。
「よかった。」
言葉と同時に肩の力がスッと抜けた。
「ねえ。うっちゃん。うっちゃんの仲間紹介してよ。」
大洋は笑顔で言った。
「ああ。もちろん。」
2人がこいつらと交わった時、俺の世界は完成した。




