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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 11章 Miller
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4話 変異

「だいぶ安定はしてきたな。」


類は水を飲みながら言った。


「安定を求めすぎだ。」


楓は遮るように言った。


「安定してることはいいことだろ。」


類の語気が少しだけ強まった。


「今の演奏じゃ小さくまとまりすぎてる。」


楓は引く気はなさそうだった。


「2人とも言ってることは正しいよ。」


康成が間に入る。


「安定を求めすぎてもダメだし、安定を捨てすぎてもダメだ。」

「だろ?蓮介。」


ここで振るなよ、康成。


「ああ……。そうじゃない?」


「おいおい。しっかりしろよ。」


「また病み期、突入か?」


さっきまで意見が割れていたのに、俺をいじる時は息が合うのが腹たつ。


「それぞれの個性がぶつかってこそのバンドじゃね?」


「どういう意味だ?」


康成は俺を見つめていった。


「なんかそれぞれの意見や個性をぶつけあってみたいな。」

「そして、一つのものになる的な。」


「要は揉めてでもいいものを作るってことだろ?」


楓はニヤリと笑う。


「揉めていいとは言ってねえよ。」


「俺はもうパスだ。言いたいことは康成が言ってくれたし。」


類は両手をあげていった。


「まあそうだな。」


楓も頭を掻いた。


「でお前はどうなの?」


康成は俺を見る。


「どうって?」


「調子。」


「いつも通りだよ。」


「そうか。」


「そうかじゃねえだろ。」


楓が割って入る。


「練習の時はライブみたいにならないのは知ってるけどよ。」


「楓、あえて誰も聞かないようにしてたのに……。」


康成はため息をつく。


「俺はお前らみたいに黙ってられねえタチなんだよ。」


「……。」


「曲は書けるようになったがライブではちゃんと歌えるのか。」


楓はまっすぐに俺を見つめた。


「……確証はない。」

「でも、いけそうな感覚がある。」


「……。」


3人は黙った。


「……今はそれを信じるしかないな。」


康成がその沈黙を切り裂いた。


「だな。」


類も頷いた。


楓は不満そうな顔をしたが、すぐにギターを弾き出した。


類もドラムを合わせる。


いつもより少し荒い。


康成のベースがそこに入る。


俺もギターを鳴らした。


バラバラの音が、なぜか噛み合っていく。


「……。」


俺はその音を聴いていた。


———「ごめん、遅れた。」


美玖は息を切らしている。


「行こっか。Miller。」



——————



「おう、来たか。」


梶原さんは笑顔で出迎えた。


「この前はすいませんでした……。」


俺は頭を下げた。


「なんのことだよ。」


「この前、ひどいライブを……。」


「新人バンドにそんな期待はしてねえよ。」


梶原さんは笑った。


「ただ今回はノルマは10枚だからな。」


「わかってます。」


「じゃあ本番楽しみにしているぞ。」


そう言って梶原さんは足早に去った。


「やっぱよく思われてないかな。」


「何で?」


楓は首を傾げた。


「この前のライブが……。」


———「はっはっは。」


「一回のミスでそんな引きずんなよ。」


類が笑った。


「実際、俺たちが期待されてるなんて、思い上がりだよ。」


康成は少し冷たい口調だった。


「まあ次のライブで見せつけてやれば良いじゃん!」


美玖は笑って言った。


「お前が言うか。」


「でもそういうことでしょ。」


俺はつい笑ってしまった。


「だな。」

「よしクヨクヨすんのはもうやめだ。」

「行くぞお前ら。」



——————



それから俺たちはライブまで練習を重ねた。


チケットはというと、楓のツテでなんとか売り切ることができた。


あとは自分たちだけ。


「そこ、もっと来ていい。」


楓が言う。


「お前こそ抑えろよ。」


類が返す。


「なんで俺が?」


「うるせえから。」


「喧嘩売ってんのか?」


「まあまあ。」


康成が笑う。


俺も笑った。


それでも演奏が始まれば、全員が音に集中する。


誰かに合わせるんじゃない。


それぞれが好き勝手に鳴らしている。


なのに、不思議と音は一つになった。



——————



いつも通り楽屋で準備をする。


「……。」


時計の秒針だけがやけに耳につく。


今日は誰も喋らない。


「あぁー!」


楓は叫んだ。


「なんだこのしみったれた空気は。」


「まあ落ち着けよ楓。」


康成は楓を宥める。


「そうだって。ジタバタすんな。」


「なんだとコラ。」


類の発言に楓が反応する。


「まあまあ。」


康成には頭が下がる。


かく言う俺は体育座りでイヤフォンをして、干渉しない。


集中したいと事前に伝えてはいたが、流石に混乱させてしまったらしい。


———「蓮介、来たよ。」


美玖は楽屋に入ってくる。


「ああ。」


俺は立ち上がってライブハウスのゲスト席へ。


「「うっちゃん。」」


大洋と隼人はいつもよりおしゃれだった。


「今日は来てくれてありがとう。」


「当たり前よ。」


俺がそう言うと、大洋は笑顔で答えた。


「気合い入ってるね。」


隼人は俺を見て言った。


「ああ。今までで1番気合い入ってる。」


「楽しみにしてるわ。」


「てか。美玖さんめっちゃ良い人やん。」


大洋は笑ってそう言った。


「うん。俺にはもったいないくらい。」


「いや、お似合いだよ。」


隼人もそう言って笑った。


後ろを見ると美玖はもじもじしていた。


「じゃあ2人とも楽しんでな。」

「美玖。2人を頼んだよ。」


「待って。」


美玖は俺を呼び止めた。


「蓮介なら大丈夫。できるよ。」


「ありがとう。」


そう言って俺は楽屋へ戻った。



——————



「親友には会えたか?」


康成は聞いてきた。


「ああ。」


「後で会いたいな。」


「みんなで会ってやってくれ。」


「ごめん。じゃあまた入るわ。」


「待って。大丈夫か?蓮介。」


「ああ。多分、この方が集中できる。」


俺はまたイヤフォンで自分の世界に入る。


『相変わらず面倒なやつだ。』


……。


『ここまでする必要があるか。』


……。


『お前やっぱりイカれてるよ。』


……。


———「The Outsidersさん次です。」


スタッフに声をかけられる。


俺はイヤフォンを外す。


「よし。行くぞ。」


「「「おう。」」」


俺たちは袖に移動する。


「こんなに時間やったんだ。できなかったじゃ許さねえぞ。」


楓は俺に言った。


「楽屋の暗い空気が嫌すぎたらしい。」


類が皮肉る。


「悪かったって。」


俺は平謝りだ。


「でも、安心しろ。」





「このライブ、今までで最高のものにする。」






3人は驚いたように俺を見た。


「言うね。」


楓は少し嬉しそうだった。


「なんか雰囲気変わったな。」


類も頷いている。


「呑まれんなよ。」


康成は忠告する。


「任せろ。」


SEが流れる。


London Calling


ステージ上で準備をする。


『さあ、やるぞ。』


お前はいらねえよ。


『何?』







お前が俺なら黙って見てろ。








『お前にそんなことできるのか。』


できるさ。


明転。


そこに映ったのはたくさんの客。


自然と口角が上がった。


「行くぞ!」

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