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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 11章 Miller
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3話 地獄で笑う

2人と別れた帰り道。


美玖と出会った公園のベンチに腰を下ろす。


いるんだろ?


『呼んだか?』


姿隠しやがって。


『お前が避けてただけだろ。』


俺が?


『俺はお前だ。俺はいつもここにいる。』


……。


『覚悟は決まったのか。』


覚悟?


『俺を受け入れる覚悟さ。』


そんなつもりねえよ。


『それがお前の弱さだ。自分自身を受け入れられない。』


俺は俺を受け入れてるよ。


『俺のことさ。』


お前は俺じゃない。


『その考えが逃げているんだ。』


……。


『お前はまだいい子でいようとしている。』


……。


『いい加減、俺を受け入れろ。』


いやだ……。


『お前はお前の思ってるほどいい人間じゃない。』


わかってるよ……。


『俺はお前が自分を綺麗に保とうとする限り、存在し続ける。』


……。


『お前がそのままなら俺もそのままだ。』

『お前が過去の自分だけ認めるなんて、許さない。』


お前が引けよ!


そうすれば、解決するんだ。


『本当にそうか?』

『お前は自分に嘘をつき続けることはできない。』


……。


『もう終わりなんだよ。』


何がだ?


『この宙ぶらりんの状況ではお前は生きられない。』

『俺とお前が対立する限り、この問題は起こり続ける。』


……。


『そしてそのたびお前は疲弊していく。』







『いい加減楽になれよ。』







うるせえ。

お前みたいな、ドス黒い感情を認められるか。

それに過去の自分だって受け入れたくねえ。


どっちを選んだって俺にとっては地獄でしかない。


『じゃあどうするってんだ。』


……。


このままでいる覚悟をする……。


『なんだと?』


お前も過去も認められない。


でも、これは俺の荷物だ。


この痛みも苦しみも、俺自身が背負っていく。






俺は俺だ。





『いいのかそれで。』

『苦しむだけだぞ。』


いいさ。


そもそも地獄みたいな人生を生きてきた。

今更、同じだ。









俺は地獄で笑ってやる。









『俺は忠告したからな。』


もう覚悟は決めた。


『好きにしろ。』


そう言ってあいつは消えていった。


空を見上げると月が欠けている。


それでも美しく見えた。



——————



俺は帰ってすぐに曲作りに取り掛かる。


今のこの気持ちは絶対に曲にしなきゃいけないと思った。


メロディも歌詞も思うように浮かぶ。


久しぶりの感覚。

『お前だけで書くのか。』


今回はな。


『お前が描く共存は理想だけで現実的ではない。』

『俺は容赦なくお前を食うぞ。』


望むところだ。


俺はお前らに飲まれるつもりはない。


『消すが、背負うになっただけだろ。』

『なにが変わる?』


……逃げない。


『それだけか?』


ああ。


音楽を

好きな人を

仲間を

友人を

家族を


守るために。



——————



それから数日でデモが完成した。


「曲できたよ。」


「「「「えっ?」」」」


「スランプじゃなかったのか?」


康成は焦って聞いてくる。


「スランプだったよ。覚悟が足りなかったんだ。」


「もう大丈夫なのか。」


類はまだ腕組みしていた。


「多分もう歌えると思う。」


「ライブでもか?」


楓は俺を見つめる。


「ああ。おそらくな。」


「てかその曲早く聴きたい!」


美玖はテンションが上がっていた。


「うん。正直、自信作だ。」


自然と口角が上がった。


「I AM I」


気づいたら立ち尽くした焼け野原

後の祭り今の俺にお似合いか


打たれ続けた雨は

痛みと悲しみ残し

残火さえ消し去る

それでも消えない炎だけが燃える


これからなにが起ころうと

だって俺は俺だ I don’t care

地獄中で笑ってやるのさ

胸に刻む覚悟は I am I


エンジンをその手でかけろ自分自身

ガソリンは心に残る負の力


振り続けた大雨

涙ごと流してく

声は届かないけど

それが俺を強くしたんだ痛み


これからなにが起ころうと

だって俺は俺だ I don’t care

地獄中で笑ってやるのさ

胸に刻む覚悟は I am I


ギターソロ


負けなんて認めない

過去を乗り越えるんだ

幸せじゃなきゃダメだ

死んでも死にきれない


これからなにが起ころうと

だって俺は俺だ I don’t care

地獄中で笑ってやるのさ

胸に刻む覚悟は I am I


これからなにが起ころうと

だって俺は俺だ I don’t care

地獄中で笑ってやるのさ

胸に刻む覚悟は I am I


———ジャーン。


似合わない静寂が音楽室を包む。


「どう?」


さすがに我慢できずに聞いてしまった。


「戻ってきたな。」


類はニヤリと笑った。


「待たせすぎなんだよ。」


楓は俺を小突いた。


「もう大丈夫そうだな。」


康成は大きく息を吐いていた。


「よかった……。」


美玖は小さくこぼした。


「悪い。みんな、心配かけた。」


「本当だよ。全く。」


楓は俺のケツを蹴る。


「まあ正直、このままだとやばいとは思った。」


類は宙を見上げてこぼした。


「俺は蓮を信じてたけどな。」


康成は笑った。


「そりゃずるいぜ。康成。」


類は指差して文句を言った。


「まあでも、どこかでみんな何とかなるって思ってたんじゃない?」


美玖は全員に問いかける。


「まあな。」


みんな笑った。


「てか、これじゃ俺の首輪が霞むじゃねーか。」


楓は苦笑いして言った。


「いや、首輪があったからできたんだ。」


「あれは俺のことも書いてるんだろ?楓。」


「まあな。」


「反骨心に火がついたよ。」

「助かった。」


「俺も作曲ハマったからこれからどんどん作ってく。」

「お前よりいいのを作ってやるよ。」


「そりゃ宣戦布告か?」


「もちろん。」


「おい、俺たちも忘れてもらっちゃ困るぜ。」


康成と類が笑う。


「ああ。かかってこいよ。」


久々に5人で笑えた気がした。


「じゃあ一回ライブでもするか。」


「いけるのか?」


「心配性だな、康。」


俺は笑った。


「今の勢いを大事にしたいんだ。」


「来週の企画に1バンド空きが出たって梶さんが言ってたよ。」


楓はスマホを見て言った。


「そこで一回やらせてもらおう。」


「でも今回はノルマ有りだぜ。」


「今までが恵まれすぎてたんだ。」

「まだ利益が出るほどのライブはできてねえ。」


「そのライブで客を掴むってか?」


類の口角が上がっている。


「もちろん。」


「Holy Gloryも出るらしいぜ。」


楓のスマホをのぞいた康成が言った。


「そりゃ一石二鳥だ。この前、ボーカルに散々言われたしな。」


「意外とムカついてたのかよ。」


楓は笑う。


「そりゃあんな言われ方される筋合いねえし。」


「じゃあ、あいつら驚かせるとしますか!」


康成は手を叩いた。


「よし。じゃあ練習するぞ。」


「「「おう!」」」


また時間は動き始めた。

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