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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 11章 Miller
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1話 落ちた雛

———3年後。


ピンクを基調とした部屋のレイアウト。


女子のこだわりというやつはすごい。


というか俺が雑なだけかもだが。


「それこっち。蓮介。」


「へいへい。」


尻に敷かれているつもりはない。


持ちつ持たれつの関係。


「休憩しようか。蓮介。」


麦茶。


氷入りの優しさ。


右手の薬指が太陽に反射する。


「それ、新しく買おうか。」


「いいよ。思い出あるし。」


「よく指につけれるよな。」


「無くすからってネックレスにする方が変だよ。」


「まあな。」


「でも思い出すね。あの頃。」


3年前。

この指輪は決意の証でもあった。


「それでも頑なに付き合うのは待ってって言うから、ついイジったっけ。」


「自分自身で立つまでは付き合えないって思ってたんだよ。」


「それだけ真面目に考えてくれてたってことで許すけど。」


美玖は笑った。


この幸せはあの時、本当は滑り落ちていたのかもしれない。



——————



家のベランダでただ空を眺める。


あの日以来、声は聞こえない。


あの日以来、音が止まってしまった。



——————



ライブ後……。


「どうしたんだよ!蓮介!」


楓は熱くなっている。


「……。」


「落ち着け!楓!」


康成が仲裁に入る。


「お前が悩んでいたのはわかる!」

「でもあんな演奏、集中していないとしか思えない!」


「蓮介は一杯一杯だったんだよ。」


「……ごめん。」


「ごめんじゃねえよ!」


楓は俺の胸ぐらを掴む。


「楓!」


康成は楓を羽交い締めにする。


———「ここにいたんだ。」


山下さんと平さんが入ってきた。


「今日のライブは残念だったよ。」


「おいっ。太一。」


平さんは山下さんを止めようとする。


「……。」


「ボーカルがあれじゃね。」


それでも山下さんは止まらなかった。


「……すみません。」


「でも君はそんなもんじゃないだろ?」

「見せてよ。本気を。」


そう言ってまた肩を叩いて去って行った。


「ごめん。太一のやつが。」

「あいつ、君らをライバル視してるんだ。」

「特に君を。」


平さんは俺を見つめる。


「初めて勝てないと思ったって。」


「……。」


「とにかくごめんな。」


平さんは山下さんを追う。


「待ってください。」


平さんは立ち止まる。


「俺はそんなすごいやつじゃないです。」

「勘違いだって伝えてください。」


平さんは何も言わず立ち去った。


———ガチャ。


「みんな……。」


美玖が入ってくる。


熱は冷めても、余韻は残る。


———「とりあえず今日は帰ろう。」


類は腕組みしてやっと口を開いた。


「今話してもどうにもならない。」


類はそう言った。


「美玖ちゃん、蓮介送ってくれるか。」


康成は美玖に頼む。


「いやいい。自分で帰る。」


「蓮介、待って。」


「今は1人にしてくれ。」


そう言って俺は1人で帰った。



——————



それから数日は何もできず、スマホだけが光っては消えた。


———コンコン。


「蓮介。ちょっといいか。」


親父は部屋に入ってくる。


「美玖ちゃんから聞いたよ。」


「いつ連絡先交換してたんだよ。」


ついツッコんでしまった。


「ロッソネロの時な。」


親父は笑った。


「この前のライブ、うまくいかなかったらしいな。」


「俺……。自分がわかんなくなっちゃってさ。」


「俺だってわかんねえよ。」


「親父のライブ見たけど普段と違った……。」

「どんな感覚でやってたん?」


「俺は思うがままにやってた。」


「そう言うと思ったよ。」


「でもお前は差がありすぎるようにも見える。」


「差?」


「お前の言う、普段との差だよ。」


「……。」


「でも人間、差があって当たり前だ。」


「……。」


「たとえその差が過去に由来するものでも……。」

「お前はお前だ。蓮介。」


「……。」


親父は部屋を出る。


「蓮介。人生笑ったもん勝ちだぜ。」


そう言ってドアを閉めた。


部屋にドアの音が響いた後、その静寂の中で俺は笑えなかった。



——————



その週の土曜日。


宗介がくる日。


「にいちゃん、久々にキャッチボールせん?」


唐突だった。


宗介は俺に何があったか知らない。


でも、知っているような。


「球、速くなったな。」


「120km/hの中盤は出るよ。」


「速っ。そりゃ手が痛いわけだ。」


「スライダーとチェンジアップも投げれる。」


「俺には投げるなよ。もう取れん。」


昔は俺の方が球は速かった。


宗介はいとも簡単に俺を超えていった。


「宗介。この前のライブの俺、怖かったか。」


「……怖かった。」


宗介は苦笑いした。


「でもあのにいちゃん知ってるよ。」


「……。」


「俺のことで母さんと揉めてる時。」

「後で思い出した。」


宗介は笑った。


「もう怖くないのか。」


「怖いけどかっこいいよ。」

「いつも助けてくれた時の顔。」


風が冷たくなってきた。


「宗介。カーブ投げちゃあ。」


「投げれると?」


「にいちゃん舐めんな。」


俺の投げたカーブは、明後日の方向に飛んでいった。



——————



この日の夜、俺は初めて美玖に連絡を取った。


「ごめん。連絡取らなくて。」


「いいよ。気にしてない。」


「あいつらは?」


「毎日練習してるよ。」


「そっか。」

「明日、学校行くよ。」


「来れるの?」


「舐めんな。それに病気でもないのに2日も休めん。」


俺は電話越しで笑った。


「蓮介にとっては病気なんかよりずっと重いんじゃない?」


「痛いとこつくな。」


「無理しなくていいんだよ。」


「いや、ちゃんと話したい。」


「わかった。じゃあ明日ね。」


そう言って電話を切った。



——————



授業に集中できるわけなかった。


授業後1人でトイレで顔を洗う。


この後もいつも通りとはいかない。


そうわかっていても放課後そこへ向かった。


———コンコン。


ドアを開ける。


「なんでノックなんだよ。」


類は笑っている。


「なんかつい……。」


美玖も笑っている。


「一回ライブミスったぐらいでそこまでやられちゃ、俺らがミスれんだろ。」


康成は笑顔で言った。


静寂が教室を包む。


———「悪かったな、蓮介。」


声の主は楓だった。


「いや、俺こそ。」


「熱くなりすぎた。」


「いや、俺が……。」






「どんな蓮介でも蓮介だ。」





楓の声が大きくなる。


「急になんだよ。」


「これが俺たちの意志だ。」


「俺たちはライブのボーカルだけでお前を選んでない。」

「お前の曲、そして人間性が好きだからバンドを組んだんだ。」


「……ありがとう。」


「今までみたいに歌えないなら、違う方法を探せばいい。」


「ありがたいけど、あれは俺の武器だ。」

「捨てる気はねえよ。」


「……。」


「でも、もう少し時間をくれないか。」

「もう一度、歌えるまで。」


「ああ、もちろん!」


楓は頷いた。


「おいおい。いいとこ持って行きすぎたろ楓。」


類は文句を言う。


「そうだな。全員で決めたのに。」


康成は笑う。


「私もなんか言いたかった!」


美玖もぷんぷんしてる。


「じゃあ練習するか。」


俺はもがれた翼のまま日常へ戻った。

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