9話 支配下
「なんか狭く見えるな。」
つい漏れてしまった。
「SBの後じゃな。」
類は耳打ちする。
300キャパから100キャパは、思ったより差があった。
「俺たちの力じゃ立ててないんだから。」
康成は冷静に諭す。
「まずはここでワンマンだな。」
楓は腕組みしてステージを見る。
———「おお、待たせたな。」
梶原さんが奥の部屋から出てくる。
「ライブ出れそうか?」
「30分はいけます。」
「よかった。」
梶原さんは笑った。
「今回の企画はこの店の一押しバンドを集めてる。」
「俺らほぼ出たことないですけど……。」
「この前のライブで合格さ。」
「それに楓はここでの知名度はある。」
俺は楓を見る。
若干ドヤ顔なのが腹たつが。
「今回もノルマはないから安心しな。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ当日よろしくな。」
話は簡単に終わった。
——————
俺たちは夕日を背にして、帰路につく。
「今回はSEとか照明とかも考えねえとな。」
類は呟く。
「4人での初ライブだから、バッチリ決めたいよな。」
康成も頷いた。
「残りの2週間でしっかり準備しないと。」
楓は決意を口にした。
「……。」
「蓮介、聞いてるか。」
「……ごめん。聞いてなかった。」
康成に捕まった。
「不安か?」
「まあな。」
強がっても仕方ない。
「まあなんとかなるだろ。」
類は軽い。
「変に考えず今まで通りでいいんじゃね。」
楓なりのアドバイス。
でも考えないことが俺にとっては1番難しかった。
「まあ、ライブで答えは出るんじゃないか。」
「言うねー。康成。」
「かっこいいじゃん。」
類と楓は茶化す。
「よせよ。」
康成は笑った。
「考えてもしょうがないのも一理あるし、なんとかなるって思うことも大事だ。」
「まとめるとライブで答えが出るってか?」
康成は頷いた。
「そうだといいな。」
こうして俺たちはそれから2週間、みっちりと練習をして本番を迎えた。
——————
店の外には長蛇の列ができている。
「チケット、sold outらしいぜ。」
類が腕を伸ばす。
「まじか。すげーな。」
「それぞれのバンドにファンがついてる。」
「その中でも1番はHoly Gloryだろうな。」
「詳しいな、楓。」
「ここでやってたからな。」
「Holy Gloryはここで1番人気のバンドだ。」
「まじかよ。そりゃライバル候補だな。」
「まあ実際、歳で言っても大学1年とかだし。」
「2つ違いか。」
「結局、俺は最後まで人気で勝てずじまいだった。」
———「おお、楓じゃねえか。」
イケてる4人組。
清潔感。
いかにも大学生。
なんとなく自分が下にいるように感じた。
「おう。元気してたか?」
楓は明るく返す。
「これが新しいバンドか。」
「ああ。」
———「君がボーカルくんか?」
急に声をかけられた。
「俺、Holy Gloryの山下。君がすごいってのは梶さんに聞いたよ。」
「ああ……。ありがとうございます。」
「ごめん。これうちのボーカル。空気読めんくて。」
他のメンバーが間に入る。
「いえ……。」
「楽しみにしてるよ。ライブ。」
山下さんはそう言って俺の肩を叩いて去っていった。
「ごめん。プレッシャーかけて。」
「俺は平。ギターだ。」
平さんは慌てて山下さんを追って行った。
「大丈夫か?」
康成は俺に聞く。
「大丈夫。」
「変わったやつだな。」
「お前が言うかそれ。」
類は笑っていた。
「うるせえよ。」
俺も笑ってしまった。
——————
リハを終え、俺たちの出番は2組目。
「やっと着いたよー!」
美玖はバイト終わりで開演の少し前に着いた。
「リハはどうだった?」
「いつも通り。練習通りだよ。」
「よかった。変に気負ってはないみたいだね。」
「気負うか……。」
「大丈夫?蓮介。」
「大丈夫なつもりではいる。」
美玖は俺の手をとった。
「大丈夫!私もみんなもついてるから。」
「ああ。」
今、俺は笑った。
でも久々に口角が重かった気がした。
——————
1組目のバンドはしっかりと客の熱を上げてステージを降りた。
「いくぞ!」
「「「おう!」」」
俺たちはいつも通り円陣を組んでステージへ出た。
SEが鳴る。
The ClashのLondon Calling。
SEはあえてダークな雰囲気で。
楓の提案だった。
俺はマイク前に立つ。
『さあ、やろうか。』
いや、今回お前の出番はない。
『あ?お前1人でやるってのか。』
ああ。
俺1人でやる。
『お前に何ができるってんだ。』
いいから!
黙って見てろ!
SEが終わる。
「Home Run Batter。」
「1、2、3、4。」
一気にステージが震える。
練習の甲斐もあって、演奏のまとまりを感じる。
さあ、上げていくぜ。
「一発でかいの狙っているぜ……」
あれ……。
熱が上がってこない。
おかしい……。
どうして……。
頭の中が別のことでいっぱいになる。
客の顔がよく見える。
今までなら目にも入らなかったのに。
歌わなきゃ……。
俺は結局、不完全燃焼で「Home Run Batter」を終えた。
「どうも。The Outsidersです。」
康成はMCを始める。
「おい。大丈夫か?蓮介。」
楓が近づいてきた。
「悪い。なんか熱が上がってこなくて……。」
俺は客に悟られないように小声で話す。
「とりあえず次は康成がボーカルだ。」
「その間になんとか持ち直せ。」
「ああ。」
そう言いながら自信はなかった。
「じゃあ次は俺がボーカルだ。」
「画面のそこの君に告ぐ!」
情報の海を
漂うだけの
実態なき虚像
流し流されては
ゴミの様に押し寄せる
輪郭の掴めぬ
クラゲの群れを
無駄に掴もうとする
正義のヒーローは
空振り続き
本当の顔、隠し
匿名の盾に
守られ続けて
底の方から
人を引きずり下ろす
うまくいかぬ日々に
憂さ晴らしする
純度100の悪意
外側だけじゃなく
中も腐ってる
リアルの世界に
不満持つ奴ら
投稿見りゃすぐにわかる
妄想の現実
目逸らす真実
怒りを消化するには
優秀なサンドバッグ
何かあればすぐに
SNSで叩き
誰かの不幸は蜜の味か?
スッとするのは
一瞬のことだ
それでお前は満たされた気か?
間奏に入る。
俺はミスタッチが目立つ。
明らかなミスに、客の顔色が変わったのがわかった。
流れに流されて
糸につられる
可愛いお人形は
小さな画面の中で
無料で若さを売る
有り余る力を
持て余した
ブリキでできた兵隊
一度の過ちは
消えずに残る
進化する世界
進まない理解
自傷行為に気づかない
自ら未来を
バラ売りにしてさ
欲しがってるのは
いいねという呪い
何かあればすぐに
SNSに上げ
いいねの欲しさに踊らされてる
流行りがなんだ
数字がなんだ
まだ他人で生きるのか
ギターソロが始まる。
楓は前に出て客を煽るように弾く。
俺はミスだけはしないようにと意識する。
いつもより腕がぎこちなく動いた。
言いたいことは
堂々と言えよ
俺は逃げも
隠れもしない
誰かの影に
隠れていないで
面と向かって
ちゃんと言ってみろよ
何かあればすぐに
SNSに頼り
少数の声を多数派に見せる
正しさなんて
誰が決める?
ただ流されて生きていくだけか?
何かあればすぐに
SNSで裁き
正義のふりして上から語る
お前は誰だ?
俺は俺だ
自分の言葉で立っていたい
———ジャーン。
「1、2、3、4。」
すぐに「Re:Born Day」に入る。
自分の心臓の音だけが大きく響く。
『俺にやらせろ。』
うるせえ。
『お前じゃあの熱は出せねえ。』
そんなことない。
『今まで歌ってたのは俺だ!』
わかってる!
俺は結局、コントロールどころか支配されていた。
『いいから俺に歌わせろ!』
うるせえ!
俺はマイクを握りしめ叫ぶ。
The Outsidersの初陣は、惨敗だった。




