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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 10章 The Outsiders  
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8話 ネットと私

「……あっちい。」


夏休みだろうと音楽室での練習は終わらない。


夏は世界で1番嫌いだ。


皮膚を脱げと言うのか?


それでも練習してベランダに出る癖が抜けない俺は矛盾している。


「だれてんな。」


康成が笑いながら、ベランダに来た。


「お前らは演奏するだけだろ?」

「歌ってみろ。死ぬから。」


「遠慮しとくわ。」


「そういや康にも曲書かなきゃな。」


「楓の次は俺か。」


康成は苦笑いした。


「嫌か?」


「嫌ではねえよ。」


「康はどんなのがいいかな。」


「変な曲はやめてくれよ。」


最近、曲数を増やすため質より量を求めた結果。


中の下から下の下まで様々な曲ができた。


「”NTR!Umbrella”歌うか?」


「ありゃ傑作だったな。」


台風の日に傘を盗まれて作った曲。


メンバー大絶賛のネタ曲。


「俺は真面目に書いたんだけどな。」


「センスを疑うよ。」


———「ちょっとみんな!」


甲高い声が響く。


教室へ戻るとバイトを終えて美玖が来ていた。


「これ見てよ。」


スマホを見せてくる。


「なんだこれ?」


「友達のTikTok。」


「友達増えたのか。」


「大事なのはこっち。」


コメント欄に目をやる。


そこには「ブス」、「キモい」「承認欲求高すぎ」などアンチコメントで溢れていた。


「美玖出てんの?」


「私は出てない。」

「友達。」


「へー。」


そりゃ可哀想に。


「ひどいと思わない?」

「元々はすごい好評だったんだよ。」


「そんな奴ら無視すればいいじゃん。」


「そうはいかないよ。」


「踊ってみたとかやるやついるんだ。」


「今はSNSで投稿するのは当たり前だよ。」


カルチャーショック。


「……美玖はしてないんだろ?」


「私は苦手だから。」


安心しましたよ私は。


「でもこうなったらどうしようもないだろ。」


「本人は傷ついてる。」


———「SNSってのは良し悪しだよな。」


康成が入ってくる。


「少し目立てば、嫉妬や悪意の標的になる。」


「詳しいな、康成。」


「詳しくはないよ。人間関係はそんなもんってこと。」

「匿名だから余計に。」


「でも俺らもSNSはやらないとな。」


類は机をスティックで叩いている。


「なんで?」


「今じゃバンドもSNSは当たり前だぞ。」


「俺、絶対踊りたくねえ。」


類は爆笑する。


「踊ってみたはやらねえだろ。告知とか宣伝用だよ。」


2度目の安心です。


———「俺は弾いてみとかやってるぞ。」


ぼそっと楓が呟いた。


「まじかよ。」


俺はしばらく何も言えなかった。


「サポートの時の演奏デモとしてな。」


「てか蓮介はSNS弱すぎ。」


美玖は呆れていた。


「嫌いなんだよ。ネットの世界。」


印象だけの食わず嫌いだが。


「珍しいよな。この世代で疎いやつ。」


類は笑った。


「なんかそういうアンチとか含めて嫌な部分が多すぎる。」


「まあ確かにな。」


4人は頷いた。


「今後活動する上でSNS使う時はお前らに任せるよ。」


「お前にやらせたら何投稿するかわからんしな。」


楓は頬杖をついた。


「コンプラは守るよ。」


「そんな奴が”NTR!Umbrella”とか作るなよ。」


「表現の自由だ。」


「うわ、1番ヤバい奴が言うセリフ。」


類はツッコんだ。


なんと居心地が悪いのだろう。

ネットでも俺は除け者か。


「まあ練習するぞ。」


俺はギターを持ってアンプの音量を上げた。



——————



「友達にやめるよう言ったら?」


「そんなの言えないよ。」


帰り道にするには話が重い。


「落ち込んでるけど、楽しそうにやってたし。」


「俺のバンドと一緒か。」


「そうだね。そう思うとわかりやすいかも。」


「じゃあ言われても無視できるようになるとかだな。」


「……多分、それも無理。」


「八方塞がりか。」


「私どうしたらいいんだろう。」


美玖は宙を見上げた。


「とりあえず今は寄り添うことじゃね?」


「……。」


「決めるのは本人だよ。」


「そうだね……。」


俺は美玖の頭を撫でた。


美玖は上目遣いで俺を見る。


「何?」


「ダチのために頑張ってる美玖が好きだよ。」

「美玖の気持ちは伝わってる。」

「だから大丈夫だ。」


俺はどうにも美玖に弱い。

落ち込んでいたら、励ましてしまう。


「……ありがとう。」


小さな手は大きな手に収まった。



——————



パソコンの前でゆっくり考える。


康成への曲。


メロディは優しい感じがいい気がする。


包み込むような。


でもそれじゃパンクじゃない。


『歌詞を攻撃的にすればいい。』


アンバランスにならないか?


『明るいメロディに強い歌詞とかはパンクの王道だろ。』


……そうだな。


でも歌詞がな。


『話題は今日あっただろ。』


ネットのことか?


『すでに気持ちが動いてるのはお前が1番知ってるだろ。』


でも康の歌ではないだろ。


『それはアイツに聞けよ。』


……。


俺はLINEを開いた。


俺 「康成はネットってどう思う?」


康成 「急だな笑」


俺 「康の曲の歌詞考えてて。」


康成 「俺は蓮ほど考えてないからな。」


俺 「そこをなんとか!」


康成 「てか蓮が思うこと書いていいよ。」


俺 「?」


康成 「多分、この系統の歌詞は気持ち入りすぎるだろ?」


   「だからそれを俺が歌えばちょうどいいかも。」


こいつは本当に俺をよく見ている。


俺 「熱込めて歌えるか?」


康成 「お前ほどじゃないけど俺もネットは好かん。」


俺 「じゃあ書いてみるよ。」


俺は早速ギターを持って歌詞を考え始めた。


ただ言いたいことを言ったら説教くさくなる。


なら……。


気持ちが溜まっていたのか、言葉がどんどん出てきた。


「画面のそこの君に告ぐ。」


そう打って俺はパソコンを閉じた。



——————



「やっとできたよ。」


歌詞ができてから、数日のことだった。


「できたか!」


4人は寄ってくる。


俺は再生ボタンを押す。


———ジャーン。


最後の音が鳴った後、蝉の声だけが響いた。


……ダメだったかな。


駄作が続いたことで顔色を窺ってしまう。


「いいじゃん!」


最初に口を開いたのは康成だった。


「攻撃的でいいな。」


楓も頷いた。


「メロディだけで言えば1番好きかも。」


類の褒め言葉は駄作という言葉を打ち消した。


「聴きやすいね!これ!」


そして美玖の評価を聞いて、少しだけ安心した。


「……よかった。」


俺は大きく息を吐く。


「意外とこれまでのやつ響いてたのか。」


類は笑う。


「だいぶ没になったからな。」


俺は肩を落とした。


「これでとりあえず6曲できたし30分は持つな。」


楓は待ってましたというように言った。






「お前らMillerから企画参加のオファーが来てる。」







「「「「えっ。」」」」








願ってもないチャンスだった。

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