7話 自分の色
心にこびりついたそれは、いまだに取れずにそこにある。
それでも歩みを止めるわけにはいかなかった。
———ジャーン。
「休憩しようか。」
康成はそう告げる。
俺は校舎のベランダで1人。
何をするわけでもないが。
「ここにいたのか蓮介。」
楓は紙パックのジュースを飲んでいた。
「お前の分な。」
お茶。
ありがたい。
「なんかあったのか?」
「なんで?」
「誰も言わないが、ライブの後から変だ。」
そりゃ気づかれるか。
「俺も最近、お前のことがわかるようになってきたよ。」
「何がだよ。」
笑って誤魔化す。
「お前は人より受け取るものが多い。」
「そして考える奴だってな。」
「……。」
ご明察。
「アイツらは慣れてるから、待つ選択をしたらしいが。」
「……。」
「俺は気になるから、凸ってみた。」
「世話かけるな。」
「別に。」
風が気まずい。
「なんか、ライブでの自分に違和感があってさ。」
「違和感?」
「言葉にできねえけど、違和感。」
「なるほど。そりゃアイツら待つわな。」
「どうにもできん。」
「ふっ。そのうち勝手に答えを出すから、待っててくれ。」
俺は笑った。
「……どうにも俺は待つのは苦手でな。」
「……。」
「免許取れたんだろ?」
「ああ。」
「ツーリングでもどうだ?」
「バイク持ってたの?」
「XSR125。」
初耳だった。
「俺、XTZ125。」
「YAMAHAじゃん。」
「125も一緒かよ。」
「免許は普通だけどな。」
「俺は小型だ。」
「まあ下道で十分だから俺も125買った。」
「十分だよな、確かに。」
「だから今度の日曜行こう。」
「ツーリングか。」
「いやか?」
「いや、いいよ。」
「気晴らしにはちょうどいいだろ。」
「かもな。」
「美玖ちゃんに妬かれそうだ。」
「後でなんか奢っとけよ。」
「ああ。」
ツーリング。
照井と果たせなかった約束。
楓と行くことになるとはな。
悪くない気分だった。
——————
———ブロロロ。
単気筒の振動が気持ちいい。
待ち合わせは日向峠前のコンビニ。
とりあえずそこまで走らせる。
夏前の蒸し暑さを心地よい風が帳消しにする。
「照井とも行きたかったな。」
つい溢れた。
コンビニに着くと先に楓が待っていた。
「きたか。」
「待たせた。」
「じゃあ行くぞ。」
Bluetoothのインカムを繋ぎ、話しながら先へ行く。
「峠でも日向は優しい方だから初心者でもいける。」
「そりゃありがたいな。」
バイクを買って2週間。
がっつりのツーリングは初めてだ。
「山道走って、そこから海岸沿いに回って帰るコースな。」
「ロマンチックな構成だな。」
「俺はロマンチストだぜ。」
「嘘つけよ。」
40〜50分走ってからコンビニのベンチへ。
「初ツーリングはどうだ?」
「やっぱ気持ちいいな。」
ベンチに座りコーヒー飲む。
ゆっくりと空を見上げる。
「楓はさ、自分のライブ観たことある?」
「そりゃあるさ。」
「どう思った?」
「反省点ばっかりだな。」
「自分自身には何か感じた?」
「もっと余裕持って魅せられたな、とかかな。」
こいつはどこまでもストイックだな。
「俺は自分だと思えなかった……。」
「コントロールできないってことじゃなく?」
「ああ。自分が自分じゃない感じ。」
「その感覚はないな。」
「……。」
「多分その話は俺らに言っても無駄かもな。」
「俺ら?」
「メンバーは演奏すると”ああなる”ことを知ってる。」
「……。」
「今更不思議に思わねえな。」
———ワンワン。
目の前で服を着たチワワが吠える。
明らかにこちらを威嚇した。
「あら。ごめんなさいね。」
いかにも金持ちそうで、妙に品のないおばさん。
「行くわよ。テリーヌちゃん。」
そう言って立ち去った。
「あのチワワ、あの服着たいのかな。」
「着たかねえだろ。この暑い中。」
「だよな。人間のエゴだよなありゃ。アイツの本当を見てない。」
「……やっぱ面白いよな。お前って。」
「そうかな。」
「変なところによく気づく。」
「……。」
頭の中で二つの出来事が重なる。
「あっ。」
「どうした。」
「曲できそう。」
「今のでか?」
「今のチワワと、美玖といた時のこと合わせて。」
「へー。」
「早いテンポの鋭いロックにするからさ。」
「楓、歌ってよ。」
「えっ。俺?」
「前も言ったろ?みんなで歌いたいんだ。」
「いいけど……。」
「家帰ったらすぐデモ作るから。」
「メロディも浮かんでるのか。」
「元々作ってたメロディの中に、合いそうなのがある。」
「そうか。楽しみにしとく。」
その後、俺たちはツーリングを最後まで楽しんだ。
ツーリングだけじゃない。
楓には感謝だ。
——————
「新曲できたってな。」
類はスティックを回して言った。
「ああ。」
「どんな歌?」
康成はチューニングをしている。
「偏見なく、根っこを見ましょうみたいな。」
「説明下手だな。」
楓が笑う。
「今回は私の歌じゃないんだ。」
美玖は少し残念そうだった。
「毎回、美玖のこと書いてたらラブソングしか無くなるよ。」
「パンクバンドだからな。俺たち。」
類は頷いている。
「じゃあいくぞ。」
俺は再生ボタンを押す。
「色メガネと虫めがね」
気の強い犬がほら叫んでる
俺は勇ましくありたいと
デカイ指輪した厚化粧が
無理矢理、飾る可憐な服
自分の色は
自分で描く
見た目だけで
決めつけるなクソ喰らえ
街に溢れてる他人
色眼鏡をかけている
真実はもっと深く
虫眼鏡で覗くのさ
腕にタトゥーした若者が
年寄りを助けたとして
よくなるはずの印象は
異国のおしゃれが邪魔をした
自分の常識
他人に押し付け
知ったかぶり
老害なんて言われてる
常識は時代で変わる
いつまで過去にすがってる?
いつの時代だろうとも
奥の奥まで覗くのさ
ギターソロ
街に溢れてる他人
色眼鏡をかけている
真実はもっと深く
虫眼鏡で覗くのさ
常識は時代で変わる
いつまで過去にすがってる?
いつの時代だろうとも
奥の奥まで覗くのさ
————ジャーン。
「いいじゃん。」
類は一言そう言った。
「なんか蓮介らしい詩だな。」
「うん確かに!」
康成の言葉に美玖は頷いた。
「……これ俺のことか?」
楓は自分を指差し笑っている。
「さあな。」
金髪にピアス。
革ジャン。
ぴったりだ。
「これさ。楓に歌ってもらおうと思って。」
メンバーは一斉に笑った。
「じゃあやっぱ楓じゃん!」
今になって思う。
出会いは最悪だったが今では大事な仲間だ。
自分の色を持っている。
そして俺は。
自分の色を見つけられるのだろうか。




