6話 Imprinting
「1、2、3、4。」
キレのいいカッティングから始まる。
ドラムとベースが入ってくる。
さあ行くぞ。
『ああ。』
「『放課後ロックンロール!』」
夕暮れチャイム響く教室
俺らだけの静寂が揺れる
雑に投げた鞄と
悪魔が立つ教壇は空だ
太陽が役目を終えている
いい子は眠りな
忘れ物に遅刻に居眠り
理由それぞれ残る我々
罰則をリズムに変えて
夜を切り裂く叛逆の歌
机を並べて飛び乗った
俺らのステージ
叫べ!声が枯れるまで
不満を燃料にして燃やせ
誰にも止められない音鳴らせ
夜空を越えて星を掴め
自由の歌、響いてけ高く
俺らだけの放課後ロックンロール
始まればもう止まらないのさ
馬鹿みたいに声を張り上げて
脈打つハートビート
響け!地獄を揺らすくらいに
月が出勤し始める
俺らの時間だ
蹴散らせ不満を全部
喉が千切れるほど叫び合う
校則も踏み潰し笑ってる
楽しむことだけがルール
血相変えた大人に舌を出し
中指立て放課後ロックンロール
叫べ!声が枯れるまで
不満を燃料にして燃やせ
誰にも止められない音鳴らせ
夜空を越えて星を掴め
自由の歌、響いてけ高く
俺らだけの放課後ロックンロール
汗が滴り落ちる。
息が乱れている。
縦横無尽に駆け回って歌ったからか。
歌っている時のことがうまく思い出せない。
でも、最高だった。
はずだ……。
「……。」
周りが静まり返っていた。
「すごいよ!にいちゃん!」
最初に声を上げたのは宗介だった。
「次、聴かせてくれないか。」
鉄平くんは言った。
「『もちろん。』」
始まる前はみんな笑顔だった。
途中からは真面目な顔。
腕を組んだり。
顎を触ったり。
頷いたり。
それが、余計に俺を燃え上がらせた。
そして残りの3曲を全力で歌いライブを終えた。
歌っているのか、叫んでいるのかわからない。
自分の中にある炎は燃えたぎった。
———ジャーン。
人数に見合わない大きさの拍手が聞こえる。
一気に冷水を浴びせられたように、炎は鎮火した。
「はあ、はあ。」
呼吸を整える。
「……ありがとう。」
そう言って俺はその場にしゃがみ込んだ。
——————
「大丈夫か?」
康成はベースを置いて駆け寄ってきた。
「大丈夫。ちょっと疲れただけだ。」
俺はなんとか笑顔を作った。
4人でステージを降りる。
———「すげえよ!お前ら!」
興奮して近づいてきたのは田嶋さんだった。
「ロッソネロもHurly-Burlyも顔負けだ!」
「お前たちはプロに行ける!」
「……さすがに驚いた。」
「演奏は荒いけど、熱量や惹きつける力だけで言えばもう俺たちを凌ぐかもな。」
鉄平くんは田嶋さんの後ろから言った。
「このままやっていけば確実にいいとこいけると俺も思う。」
「いろんなバンドを見てきたがお前ら異質だよ。」
鉄平くんはそう続けた。
「だってよ。蓮介。」
類に肩を叩かれる。
「お前らも言われてんだぜ。」
「技術は荒いとハッキリ言われたけどな。」
楓は聞き逃さなかった。
「さすが。意識高いな、楓。」
「蓮介。お前普段と全然違うじゃねえか。」
「別人になったのかと思ったぞ。」
「二重人格かよ。」
哲也くんは笑う。
俺はさすがに笑えなかった。
「すごかったけどなんか怖かった。」
宗介は苦笑いしていた。
怖い。
そのワードは正直ショックだった。
親父が近づいてくる。
何かいつもと雰囲気が違う。
「蓮介。お前……。」
親父は何か言いかけたが俺の肩を叩いた。
「よかったよ。」
そう言い残して親父は離れて行った。
「お前らうちでやる気はないか?」
田嶋さんは俺の目をじっと見る。
「すみません。メンバーと考えさせてください。」
こうして俺たちの審査会は終了し、家路についた。
——————
親父の車に乗って美玖を家に送る。
「蓮介、さっきのライブの動画送っとくね。」
「ありがとう。」
「すごかったよ。」
美玖は笑顔でそう言った。
「俺、変だったかな。」
「ううん。いつも通りだった。」
「いつも通り……。」
「今日もコントロールできなかった感じ?」
「そうだな。」
「慣れてきたらなんとかなるんじゃない?」
「慣れてきたらか……。」
「他に気になることでもあるの?」
美玖は俺を覗き込む。
「……いやなんでもないよ。」
ライブ後に出てきたこのモヤモヤはなんだ。
ライブ前とは別種のそれは俺の中に残り続けた。
宗介を送り、家につく。
俺は田嶋さんにもらった親父のライブを再生する。
まず驚きだったのはロッソネロだ。
おそらく結成して間もない頃だと思う。
それでも演奏技術、客を引き寄せる力が新人バンドのそれではなかった。
セトリには聴いたことのない初期の曲もある。
それでも、レベルは高かった。
『これがプロに行くバンドだ。』
わかってるよ。
今の俺たちでは太刀打ちできない。
『ロッソネロがこれだ。Hurly-Burlyはもっとだ。』
ロッソネロのライブが終わった後も、映像越しに余韻が伝わってくる。
でもHurly-Burlyが出てきた瞬間、空気は一変する。
当たり前だが、その中心には若かりし親父の姿があった。
「Crazy Faker」
今でも親父が弾いている。
おそらくこれが代表曲。
その鋭い眼光から、放たれる叫ぶような歌声は、今の親父からは想像できなかった。
哲也くんのギターも、ベースもドラムも鋭かった。
The Outsidersとは違う。
圧倒的な攻撃性。
それに感化されて客もモッシュやダイブで応戦する。
客対演者。
そんな感じだった。
———「ありがとう。」
最後のMC。
親父が突然、喋り出した。
客の反応も驚きに満ちているのがわかる。
「今まで応援してくれて。」
「期待に応えられなくて悪かった。」
「俺は音楽が好きだ。」
「音楽を嫌いになりたくない。」
「だからここでおしまいだ。」
「でも俺たちの音楽は残る。」
「過去は消えない。」
「そんな顔すんなよ。」
「人生笑ったもん勝ちだぜ。」
初めて聞いたその言葉の真意に俺はしばらく動けなかった。
——————
『自分の器の小ささを実感したか。』
ハナからそんなおっきいと思ってねえよ。
それ以上に親父の懐の深さを知った。
『自分たちのライブを見てみろよ。』
自信がない。
届いていないことぐらいわかる。
それ以上に……。
でも逃げるわけにはいかなかった。
俺は再生ボタンを押す。
そこに映るのは俺だ。
でも俺じゃない誰かだった。
これはお前か?
『俺じゃねえよ。お前だろ。』
俺はこんなんじゃ……。
明るい歌を禍々しいものの塊が歌う。
そんな矛盾したような存在。
ただ感情に任せて、怒りを解き放つように歌う。
化け物。
『これがお前の言った解放じゃないのか。』
違う……。
こんなの……。
『ただの自己満ってか。』
……。
『でもそれが評価されてるんだろ。』
……。
『何度も言うが、答えはお前の中にある。お前が知っている。』
アイツはそう言っても俺にはこの違和感を解消する答えはなかった。
俺は迷宮に迷い込んでしまった。




