5話 白昼夢
ライトが消える。
歓声が大きくなる。
「Old But Good!」
その声と同時に地割れのような爆音が響く。
歓声と混じって耳が壊れそうだった。
ボルテージは一気にMAX。
熱いロックンロール。
客は飛び跳ねて宙を舞う。
その熱気と圧力に俺は圧倒された。
「すげえ。」
思わず手すりを握る。
———ジャーン。
「どうも、ロッソネロです。」
「今日は来てくれてありがとう!」
(おおお!)
鉄平くんの言葉に観客は声をあげる。
「地元の福岡でそして何より、俺らのホームSBでライブができて最高だぜ!」
(わあああ!)
「まだまだ盛り上がっていくぞ!」
その後、ロッソネロは客の熱を落とすことなく、時折MCを挟みながら曲を演奏した。
俺はメンバーを見る。
ノリノリだったあいつらから次第に笑顔が消えていた。
そしてラストの曲を迎える。
「次がラストだ。」
(えええええ!)
「メジャーから離れて、もう結構経つけど俺たちはここにいる。」
「俺たちはロックを捨てない。」
「俺たちの音を鳴らし続ける!」
(わああああああ!)
今日で1番の歓声だった。
「邁進。」
ロッソネロのエースナンバー。
ライブハウスが揺れる。
泣いている観客もいた。
ファン。
(アンコール!)
自然と発生するその掛け声に合わせて、手を叩く。
「ありがとう!」
拍手に中で再び登場する。
「今日は俺たちの憧れの人たちが来てる!」
「その人たちの曲をやるぜ!」
「ガクくん聴いててよ。」
俺は思わず親父を見る。
親父は平然とした顔で眺めている。
キレよくそして速いカッティング。
聴いたことのあるメロディ。
間違いなく親父の曲。
バンドでやると桁違いの迫力だった。
親父たちは少し微笑みながら見守っていた。
来なきゃよかった。
そう思ってももう遅かった。
——————
「乾杯!」
「お疲れ!」
客が引いた後の空っぽのライブハウス。
大人は酒で俺たちはジュースで乾杯する。
アイツらはロッソネロの各パートにそれぞれ話を聞いている。
美玖は親父や哲也くんに捕まっている。
俺は居場所がなくポツンと1人だ。
———「デカくなったな。蓮介。」
「鉄平くん。」
「ライブどうやった?」
「すごかったよ。」
「そっか。よかった。」
「正直、圧倒されて自信無くした。」
「バンドやりよるらしいもんな。」
「自分を高く見積もってるつもりじゃない。」
「ただ目指すところが高すぎるなって。」
「それでもメジャーでやれなかったから余計にか?」
俺は思わず鉄平くんを見た。
鉄平くんは笑っていた。
「1枚目で結果出せんでさ。」
「2枚目でプロデューサーにアコースティックスタイルに無理やり変えられて。」
「契約が切れる3枚目で無理矢理、好きにやったけど、届かなかった。」
「……。」
「蓮介はプロになりたいんか?」
「……なりたいけど。」
「けど、操り人形は嫌なんやろ?」
「……。」
「自由にできる奴らは一握り。」
「KAZUHAでさえ……。」
「俺がすごいと思った人間が。」
「……。」
俺を見て、鉄平くんは笑った。
「暗い話をしに来たわけじゃないんよ。」
「蓮介は音楽好きか?」
「好き。」
「じゃあ先のこと考えすぎずやればいいよ。」
「ガクくんも俺もKAZUHAもそれぞれ落とし所を作って楽しく音楽をやってる。」
「……。」
「好きな気持ちがあれば音楽はそこにある。」
「俺、器用にやれる気がしない。」
「ガクくんはそうやったな。」
親父は田嶋さんと話していた。
「でも音楽はそこにあるやろ。」
「……。」
「蓮介は蓮介のやり方でいいんやないかな。」
「俺のやり方……。」
「俺たちの存在が変なプレッシャーになってないか、心配でな。」
「……。」
「せっかくやけん、楽しめよ。」
———「おい!The Outsiders!せっかくだからここで何曲かやれよ!」
田嶋さんだった。
明らかに酒が回っている。
「いいねー!」
ロッソネロメンバーも同調する。
5人で目を合わせる。
一気に俺の周りに集まってきた。
「おい。どうする?」
「さすがに厳しいだろ。」
楓も類も慌てていた。
「やってみたい。」
「「「「えっ。」」」」
4人は驚いていた。
「さすがに無理だって、蓮介。」
「そうそう。レベルが違いすぎる。」
楓と類が止めにくる。
「蓮介。なんか変だよ?」
美玖は俺を心配していた。
「なんかモヤモヤするんだ。」
「モヤモヤ?」
「俺もわかんない。」
「でも今、すごい演奏したい。」
「そんな気分。」
「気分って問題じゃねえだろ。」
類は半笑いで言ってきた。
「本気でやりたいのか?」
康成は俺をじっと見る。
「うん。」
俺も目を逸らさない。
「わかった。やろう。」
「ありがとう。」
「ちょっと待てよ。康成まで。」
楓は逆に笑ってしまっていた。
「悔しくないか。気持ちでも負けたら。」
「……。」
「あんなライブ見せられて。」
「蓮介の親父さんたちもすごい人たちで。」
「……。」
「俺たちは何もない。」
「……。」
「これからこの人たちを超えるなら。」
「……。」
「ここでやれなきゃ無理だ。」
俺は口角が上がってしまった。
そうか。
「俺たちは俺たちだ。」
「1発やってみようぜ!」
俺はデカい声で言った。
「しゃーねえな。」
類は笑って言った。
「まあ確かにらしくなかったわ。」
楓は顔を叩いた。
「私、動画撮ってるよ!」
美玖も張り切っていた。
「やらせてもらいます!」
俺たちはそう言ってステージ上で準備をする。
「機材は俺らの使っていいから。」
プロの機材。
「あれ、蓮介。ギターは?」
哲也くんが聞く。
「俺レフティやけんない。」
こればっかりはどうしようもない。
「今回はピンボーカルデビューだな。」
楓は笑う。
「楓ギター一本でいけるか?」
「誰に言ってんだよ。」
楓にいつもの調子が出てきた。
「にいちゃんがんばれ。」
宗介はステージの目の前で小さな声でそう言った。
昔から俺は宗介に弱い。
「おう。」
親父は見定めるように腕を組んでいた。
他の視線も俺たちに一気に集まる。
初ライブより心臓の鼓動が早い。
「何やるよ?」
「いつもの4曲でいいんじゃね?」
「放課後ロックンロール。」
「今の俺たちらしい。」
「1発目に持ってこよう。」
「いいね。」
「ラストはHome Run。」
類はそう言って俺を見る。
「2曲目はIdentity。」
康成が続く。
「じゃあ3曲目がRe:Born」
楓が締めた。
おい。
お前も準備できてるよな。
『誰に言ってる。』
そうかい。
『俺はお前だ。』
『モヤモヤは俺にもストレスだ。』
飛ばすぞ。
『ああ。』
「『行くぞ!テメエら!』」
「「「おお!!」」」




