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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 10章 The Outsiders  
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4話 霧の中

「ただいま。」


親父はタバコを吸いながらギターを弾いていた。


「おかえり。」


「何弾いてんの?」


「ソロギター。難しいから面白いぞ。」


軽く弾いてみせる。


「そりゃ今の俺にはハードル高いな。」


「練習すりゃなんとでもなるさ。」


俺は手を洗って自分の部屋へ向かう。


「待て。蓮介。」

「前言ってた、ロッソネロのライブ覚えてるか。」


「ああ。覚えてるよ。」


「日にち決まったから、お前も誰か誘っていいぞ。」


「メンバーを誘ってみるよ。」


プロの演奏。

一度、肌で感じてみたい。


俺は机で「放課後ロックンロール」の歌詞を考える。


いつかこの歌をたくさんの人が聴いた時、俺はどう思うんだろう。


ただ今は純粋に曲を作ることが楽しかった。


スマホのメモに書いては消して。



——————



「お前らさ、俺の知り合いのプロのライブ来たい?」


「ええっ。誰?」


楓は食い気味に聞く。


「ロッソネロってバンド。」


「ロッソネロ……?」


全員首を傾げる。


「俺の親父の知り合いのバンド。」


「見てみたいな。なあお前ら?」


康成は2人にも投げる。


「「ああ。」」


2人も頷いた。


「SBってライブハウス知ってる?」


「ここらじゃ一番デカいハコだろ?」


類は知っている感じだった。


「楓もわかる?」


「当たり前だろ。」


……当たり前らしい。


康成も頷いていた。


「俺は美玖と行くけど。」


「現地集合でいいんじゃね?」


「18時オープンだっけ?」


「うん。」


「じゃあそれで。」



——————



そして数日が過ぎライブの日が訪れた。


「初めまして。中谷美玖です。」


深々と頭を下げる。

声もいつもよりトーンが高い。


「蓮介の父です。いつも息子が世話になってるね。」


親父はそう言った。


ライブハウス前で似合わない。

意気地なしの俺が紹介を先延ばしにした結果だった。


「いえ、本当なら事件が終わった後にすぐ伺うべきところなのに……。」


美玖は下を向いた。


「落ち着く時間がいるだろうし、気にしなくて大丈夫だよ。」


あなたは本当に親父ですか?


「……ありがとうございます。」


「蓮介をよろしくね。」

「今度はうちに遊びにおいで。」


「はい!ぜひ!」


美玖にやっと笑顔が戻った。


「あの……中谷美玖です。よろしくね?」


次に美玖が挨拶したのは、俺の後ろで気まずそうにしている宗介だった。


「お前、可愛いお姉さんに話しかけられて照れてるな。」


親父はここぞとばかりにイジる。


「違うし!」


耳を真っ赤にして言っても説得力が無い。


「……よろしくお願いします。」


ぺこりと小さく頭を下げた。


「……にいちゃん彼女いたんだ。」


コソッと言われる。


「彼女では無いけどな。」


「彼女じゃん。」


ちょっと怒っている感じだった。


「月一きてるから話はしてただろ?」


「嘘だと思ってた……。」


「なんだその痛すぎる嘘は。」


宗介がこんなに人見知りなのは知らなかった。


———「おう。お前ら。」


遠くから、髭を生やした天然パーマの男がいた。


「デカくなったなー。もう大人やん。」


そう言って男は笑う。


「もしかして哲也くん?」


宗介は俺の前に出た。


「宗介は赤ちゃん以来やもんな。」


哲也くんは大笑いしている。


「久しぶりやね!哲也くん。」


「蓮介、お前もデカくなったな。」

「ん……?」


哲也くんは美玖を見る。


「なんやお前彼女できたとや。生意気な。」


哲也くんは俺にチョークスリーパーを決める。


「つ、付き合ってないから……。」


俺は腕にタップする。


「久しぶりやな。ガク。」


哲也くんは俺を離して親父を見る。


「おう、哲也。」

「これ鉄平たちに差し入れな。」


親父は大量のシュークリームを手渡す。


「多いな。」


「コンビニ買い占めたからな。」


「渡しとくわ。」

「じゃあ席に案内するよ。」


「ごめん。メンバーがまだやけん、俺ら待っとくわ。」


「じゃあ、来たら俺を呼んで。」


哲也くんはそう言って宗介と親父を連れて行った。


「大丈夫だったか?」


美玖も少し息をついたように見えた。


「うん!みんないい人でよかった。」


「あんな感じで全員軽いから。」


「宗介くんには、引かれちゃったけど……。」


「人見知りなだけさ。俺も初めて知ったけど。」


———「おーい。」


「やっときたか。」


「ごめん。この2人が寝坊して。」


康成は後ろの2人を指さす。


「「面目ねえ。」」


ペコペコしているが、反省はなさそう。


「いいから早く行くぞ。」


俺たちは入り口に向かった。



——————



「おう、蓮介。来たか。」


哲也くんは入り口すぐで待っていた。


「これがお前のバンドの奴らか。」


哲也くんは少し笑った。


「「「「よろしくお願いします。」」」


3人は頭を下げた。


「いい面してるな。」


「じゃあこっちだ。ドリンクは後で持ってくるから。」


梯子を上がって2F席へ。


「てかSBでゲスト席ってやばくね。」


類はテンションが上がっているようだった。


「そうなの?」


「そりゃ一番デカいハコにゲストで来れる機会なんて滅多にねえよ。」


楓も声から高揚が伝わった。


「見ろ。人がゴミのようだ。」


俺は1Fを見ながら言った。


「ムスカか。」


康成はツッコんだ。


「懐かしいな、世代じゃねえだろ。」


哲也くんもツッコんだ。


———「蓮介、美玖ちゃんたちこっちだ。」


親父が手を振っている。


「「「初めまして。」」」


親父が3人に頭を下げられる奇妙な光景。


「蓮介の父です。よろしく。」


「「「よろしくお願いします。」」」


「蓮介くんから聞いてます。めちゃくちゃギターが上手いって。」


楓が下から出ている。

奇妙すぎる。


「そんなことねえよ。」


「ここでワンマンしたことあるんですよね。」


康成も珍しくテンションが高い。


「解散ライブでな。」


「なんだなんだ俺らの話か?」


哲也くんが割り込んでくる。


「こいつがギター担当だったんよ。」


「本当ですか?」


楓は目がキラキラしている。


「こう見えてな。」


———「久しぶりじゃねえか、お前ら。」


白髪混じりのおじさんが話しかけてきた。


「おう!田嶋のおっさん!」


哲也くんは笑った。


「ああ。あんたか。」


親父は少し微笑んだ。


「相変わらずだな。ガク。」


そう言っておじさんは笑った。


「おお、失礼した。俺はこのSBの店長、田嶋だ。」


静まり返る俺らに気づいたおじさんは自己紹介した。


「俺たちThe Outsidersって言います。バンドやってます。」


康成は丁寧に挨拶した。

俺たちも続けて頭を下げる。


「おう、よろしくな。」

「ん?」


田嶋さんは俺をじっと見つめる。


「お前、ガクの息子か。」


「はい。」


「いやーやっぱりそうだ!見た目がそっくりだ。」


「こっちが下な。」


親父は宗介の頭を撫でる。


「そっちは雰囲気がガクそっくりだ。」


田嶋さんは笑った。


「そうかあのガクの息子か。感慨深いな。」

「そりゃ才能が楽しみだな。」

「いつかうちでやりに来いよ。」


「「「ぜひ!」」」


3人は一斉に返事をした。


俺はなんとも言えない気分でただ立ち尽くしていた。


「君はガクに似てるのに雰囲気が真逆だな。」


田嶋さんはまた、マジマジと俺を見る。


「そうですかね……。」


「昔のガクはとんでもなく刺々したオーラがあった。」


「君はなんか不思議な感じだな。」


苦笑いするしかない。


「そうだ。解散ライブの映像がある。」

「後で焼いてあげるから見てみるといい。」


「なんで持ってんだよ。」


親父はツッコんだ。


「あんな最高なライブ消せるかよ。」

「俺の思い出でもある。」


そう言って田嶋さんは下へ降りて行った。


———ガシッ。


美玖に袖を掴まれた。


「大丈夫?蓮介。」


「ああ。多分。」


自分でも何かわからない。

このモヤモヤの正体は一体……。

胸の奥がざわついている。

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