3話 放課後ロックンロール
「いくぞ。Re:born Day」
「1、2、3、4。」
悲劇のヒロインは
誰も来ないままで死んだ
待ってるだけじゃ何も変わらない
この手で掴みとる未来
誰も知りはしない
苦しんでいる君のこと
助けを求めるのならば
声をあげて気づかせるんだ
不幸のドン底に叩き落とされて
泣いていてもなにも変わらない
悲劇のヒロインは
誰も来ないままで死んだ
待ってるだけじゃ何も変わらない
この手で掴みとる未来
暗い部屋の中で
膝を抱え過ごしている
窓を開ける勇気もなく
ただ宙を見上げている
王子も魔法も奇跡もいらないぜ
この心体で先へ進むんだ
悲劇のヒロインは
誰も来ないままで死んだ
待ってるだけじゃ何も変わらない
この手で掴みとる未来
ギターソロが響く
2本になったことで音の厚みが消えない。
痺れを
切らした孤独のシンデレラ
旗を掲げぶち壊しに行く
悲劇のヒロインは
誰も来ないままで死んだ
待ってるだけじゃ何も変わらない
明るい未来は
掴み取るものさ
今から始めようRe:born day
———ジャーン。
「まあまあか。」
「完成度としてはまだまだな。」
「でもサビ強いな。」
楓はチューニングをしている。
「しかし今回、デモまで早かったな。」
類は腕まくりをしながら言った。
曲ができて3日でデモを作った。
それから1週間でここまで来たのだから上出来だろう。
「お前らにわかってもらえたらそれでいいからな。」
「完成度は度外視だ。」
「確かにこれからアレンジしていくしな。」
康成は椅子に座った。
「しかし今回も曲はマジでいい感じだな。」
「ライブ映えしそうな曲だ。」
楓は俺を見る。
「そりゃどうも。」
「毎曲このクオリティが来たら文句言えねえな。」
類は笑っている。
「それに美玖ちゃんの曲となるとなおさら。」
康成は頷いた。
「で当の本人はどこ?」
楓が不思議そうに言う。
「風邪こじらせて家で寝てる。」
「看病しなくていいのか?彼氏。」
「彼氏じゃねえよ。」
「おばあさん達いるから。」
「俺がいくとかえって邪魔だ。」
「なるほどね。」
「じゃあ今日はここまでだな。」
「悪い。俺、今日仕事だから。」
康成は慌てて荷物を片付ける。
「俺も。」
楓も頷く。
「「じゃあな。」」
2人はそそくさと仕事へ向かった。
「俺らはどうしようか、類。」
「ちょっとだべって帰ろうか。」
俺たちは学校を出てスタバに向かった。
——————
「こうやって2人ってのは、初めてだな。」
「ごめん。俺、好きな人いるから。」
「きもいわ。アホ。」
ひとボケかましたところでカフェラテを飲む。
「今度さ、ジャムセッションで曲を作ってみないか?」
「俺たちにできるか?そんな芸当。」
「物は試しさ。」
「まあ確かに面白そうではあるが。」
「俺らの空気感で1曲できたら面白いかなって。」
類はコーヒーを飲んでいる。
「なるほどな。」
「あの放課後の教室で演奏してる感じが出ればって。」
「日が暮れる中、音を奏でる俺たち……。」
「なんかイメージできたか。」
1枚の画像が浮かぶ。
そして温度。
温かい。
「いいのできそう。でも歌詞のイメージだけ。」
「曲はセッションだし。」
「じゃあ次の金曜やろうか。」
「あいつらにも送っとくわ。」
「おう。」
「そういや、家の方どうなんだ。」
「特に変化はねえよ。」
類は下を向く。
「親父さんたちとは連絡取ったりしてるのか。」
「いや。多分、俺が結果出さないと連絡も取れねえ。」
「叔母さんを介して話を聞くことはあるけどな。」
「類は親父さんたちと仲直りしたいのか?」
「家を捨てた俺にそれを望む権利はない。」
「そうかな……?」
「まあ今俺にできることは、音楽だけだ。」
「……。」
コップは空になっていた。
——————
「ふっかーつ!」
「うるせえな。」
「みんな心配のLINEありがとう。」
美玖は笑顔で言った。
「てかRe:born Dayかっこいいね!」
「私こんなかっこいい?」
「調子いいな。」
「でも私なんでしょ?」
「……。」
「ほら〜!」
「お2人さんいちゃついてるとこ悪いがセッションするぞ。」
類はスティックを叩く。
「「いちゃついてない!」」
みんな笑っている。
「とりあえず俺がビート叩くから、それに合わせてくれ。」
何も決めていない。
とりあえず音を出してみる。
類は裏のビートで叩き始める。
「なんかノリいいねこれ!」
美玖は体を揺らす。
全員で体でリズムを取る。
『裏のビート。ドラマーならではだな。』
そうだな。
『センスが試されるぞ。』
わかってるよ。
『やれるのか、お前に。』
やってやるさ。
放課後のこの空間。
俺らだけの教室。
窓の外は夕焼け。
だから明るく。
俺はカッティングを弾き始める。
類と目が合う。
類も乗ってくる。
康成はベースのメロディーを探し始めた。
楓はまだ動かない。
ベースが絡んでくる。
康成は楽しそうに笑った。
いいな。
類はフィルを入れて明確な切り替え点を作る。
俺はストロークに切り替える。
楓が短音でメロディを弾き始める。
楓は完全に自分の世界に入っていた。
何度も同じ流れを繰り返す。
俺はマイクに向かって口ずさむ。
「ラララ、ララララ。」
「ラララ、ラーララララ。」
メロディが固まり始める。
美玖は揺れながら聴いている。
類と目が合う。
次の瞬間、類がクラッシュシンバルを叩く。
俺はストロークをしながら大声で歌う。
「ララ、ララララ、ラーラ。」
サビを何度か繰り返すうちに楓も康成も合わせてくる。
音が重なる。
夕日が教室を明るく照らす。
「俺らだけの放課後ロックンロール。」
自然とメロディーに言葉を乗せていた。
類はフィルを入れて終わりを示す。
「すげえ。」
つい声が漏れてしまった。
美玖は大きく拍手している。
「今のいいんじゃないか!」
類の声が上ずる。
「ああ。初めてにしては上出来だろ。」
楓も頷いた。
「あーすごい疲れたけどいいのできたな。」
康成は左手をストレッチしている。
「放課後ロックンロールっていいね!」
美玖がそう言って寄ってくる。
「ちょっと安直すぎるかと思ったけど。」
「いや、ストレートでいいんじゃないか。」
楓は笑って言った。
「ほら後はお前の仕事だ、蓮介。」
スマホの録音を停止して類は俺に渡す。
「いけそうか?」
康成は机に座って言った。
「ああ。イメージは完璧だ。」
「明日までには仕上げられる。」
「デモは後でいいから歌詞できたら、また合わせて煮詰めていこう。」
「そうだな。」
音声ファイルに「放課後ロックンロール」と入力する。
夕日はもう沈みかけていた。
けれど俺たちの放課後は、まだ終わりそうになかった。




