2話 シンデレラ
———コンコン。
「飯だぞ。」
親父はそう言ってドアを開ける。
「なんだ、曲でも作ってるのか?」
「まあね。」
俺と親父は一緒に1階へ降りる。
「どんなのを作ろうと思ってんだ。」
炒飯を口に入れながら親父は聞いた。
「まだイメージは湧いてないけど、メロディは明るい感じ。」
「お前、曲先だっけか?」
「いや、イメージがあったら同時が多いけど詩のイメージがね。」
「曲の感じで詩をイメージしたら?」
「曲は朝の子供用のアニメのイメージ。」
「なんやそれ。」
「カードゲームとかおもちゃ系のアニメ。」
「俺それ通ってないからわからんわ。」
親父は笑った。
「何かに立ち向かうぞ。みたいな。」
「ふーん。」
「俺やったら攻撃的に戦えって感じになるな。」
「俺は旗を掲げるっつうか……。」
「堂々と立つみたいな。」
「やっぱ俺とは違うな。」
「絵はあるんだよ。誰かが旗を掲げて不敵に笑ってる。」
「それはわかるな。映像で出てくるやつな。」
「親父もあったんだ。」
「あるな。」
「なんならMVまで頭の中でできてる。」
「俺はそこまでじゃないけど一枚の画像が。」
「まあいいけど、炒飯冷めるぞ。」
「やべっ。」
俺は無理やりに炒飯をかき込んだ。
「今の時間、楽しいだろ?」
「うん。そりゃ。」
俺は笑った。
俺たちは皿を洗って、それぞれの部屋に戻った。
———ピロン。
美玖から電話がかかってくる。
「もしもし。」
「おう。」
「The Outsidersかっこいいね。」
「いつ思いついたの?」
「美玖と別れて帰りの自転車。」
「私たちが大喜利してる時か。」
美玖は笑った。
「ほんとだよ。履歴見た時の俺の裏切られた気持ちよ。」
「あれはテポドンとか打っていなくなる蓮介が悪い。」
「正恩が喜んでるだろ。」
「笑わせないでよ。」
「てか明日は天神で待ち合わせね。」
「また迷子にならないでよ。」
「何回行ってると思ってるんだ。」
「私も何回も言ってる。」
その節はどうもすみませんでした。
「でもインスピレーションは明日にかかってるから。」
「デート以外のプレッシャーかけないで。」
「いまだにデートに緊張してんの?」
これは間抜けな質問だったらしい。
「そりゃそうだよ。」
「好きな人とデートするんだから。」
「メイクとか服とか色々大変だし。」
美玖は次々と言葉を並べた。
「もっと力抜いていいんだぜ。」
「私がそうしたいの!」
女とは難しい生き物だ。
「俺は美玖の見た目も好きだけど、心が好きだよ。」
一応、フォローのつもりだが背中が痒い。
「……。」
そして返答がないのはより痒い。
「そういうこといきなりいうの禁止!」
「いきなりだったか。」
「てかお前グイグイくるくせに、自分だと弱いよな。」
「うるさいなー。明日の準備するからもう切る!」
美玖はそそくさと電話を切った。
美玖と出会って3ヶ月は経ったか。
あいつにはもらってばっかりだ。
『そうか?』
随分久し振りの登場だった。
久し振りだな。
『いやずっといたぜ。』
その割に話しかけてこなかったな。
ライブ以来こいつは出てこなかった。
『理由はお前が知ってるだろ。』
またそれかよ。
ここ数日間、頭がスッキリしていた。
多分そのせい。
それで”そうか?”ってどういう意味だ。
『お前はあいつを救った。』
そんなつもりじゃねえよ。
『その見返りだ。』
美玖はそんなやつじゃねえよ。
それに助けを求めたのはあいつだ。
『世の中、助けてと言っても助けてもらえないやつは、五万といる。』
『お前も含めてそうだろ。』
助けてって言わなきゃ始まんねえだろ。
———待て。
お前いいこと言った!
『あ?』
助けてって言わなきゃ助けてもらえないんだよ。
『当たり前だろ。』
それを歌にする。
手伝え。
『そんな当たり前のことを書いてどうする。』
当たり前だけどしんどい時には気付けない。
『昔のお前のことか?』
うるせえな。
でもその通りだ。
悲劇のヒロインじゃ誰も助けてくれない。
自分で掴みに行かなきゃ。
『面白い。いいだろう。』
俺たちはすぐにできていたメロディに歌詞をつけていった。
——————
美玖とのデートの日はなぜこんなにも、寝不足なのだろう。
『自業自得だ。』
うるせえな。
電車に揺られていると、自然に瞼が閉じる。
これでバイクとか照井を責めれない。
改札を出ると、美玖が待ち構えていた。
いつもと違う髪型。
初めて見る服。
言われてみれば毎回デートではそうだったかもしれない。
「可愛いじゃん。」
つい言葉に出てしまった。
「……。」
美玖の顔が赤くなる。
「あ、ありがとう。」
さすがにここまで照れられると俺も照れる。
「ほら、いくぞ。」
俺は手を握って歩き出す。
「そっち逆。」
多分、俺は今、世界で一番恥ずかしい。
美玖の買い物に付き合って、休憩に店に入る。
ここ最近で変わったことがある。
それはダベるのがマックではなくスタバになったこと。
バイトのお力に感謝。
「そういえば曲作りは進んでるの?」
「昨日1曲できた。」
「はや!」
美玖は抹茶フラペチーノを吹き出しそうになる。
「早すぎない?」
「メロディ自体は少し前にできてたからな。」
「にしてもでしょ。」
「また美玖に助けられたよ。」
「私?」
「また美玖のことを書いた。」
「じゃあ……。」
「ラブソングではないけどな。」
美玖は膨れている。
「じゃあどんな歌?」
「シンデレラが旗を掲げて未来を変える歌。」
「それ、私なの?」
「うん。美玖だよ。」
「シンデレラは嬉しいけど、王子様は?」
「あんなナヨナヨした王子、お前にはいらねえだろ。」
「それ悪口?」
美玖は笑っている。
「だから俺は美玖と出会えた。」
「どういう意味?」
「美玖が動いたからだよ。」
「意味わかんなーい。」
「できたら聴かせるよ。そしたら分かるさ。」
俺たちはそんなことをダラダラ喋って店を出た。
——————
「ちょっとトイレ行ってくる。」
天神の人混みに1人というのはきつい。
俺はベンチに座る。
隣にはタトゥーをしたグラサン野郎が座っていた。
でも背に腹は変えられなかった。
とりあえずスマホを見て時間を潰す。
少し経って周りを見ると、目の前に明らかに疲れているばあちゃんがいた。
「「どうぞ。」」
は?
タトゥーの男が俺と同時に席を立った。
おばあちゃんは明らかに動揺していた。
「俺もう連れが来てるんで。」
そう言ってタトゥー男は足早に立ち去った。
「ありがとうね。」
おばあちゃんはそう言って俺の隣に座った。
「すみません。気まずい思いさせて。」
「いいや。私もびっくりしてしまって。」
「あの子にもお礼を言わなくてはいけなかったのに。」
「刺青はびっくりしますよね。」
年代に合わせて言葉を変えた。
「どうしても怖さが優ってしまってね。」
「仕方ないですよ。」
「見た目で判断するのはいけないね。」
「そうですね。」
「僕も決めつけてました。」
「生涯勉強だね。」
———「おーい。」
遠くで美玖が手を振っていた。
「あっ、僕も連れが来たみたいです。」
「あら、気をつけてね。」
「おばあさんも。」
俺はそう言って美玖の方へ進んだ。
「行こうか。」
「そういえば今日、インスピレーションは獲れた?」
紙袋を片手に美玖が聞いてきた。
「ああ。ちょっと面白いのがな。」
俺は笑った。




