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真空で鳴る音  作者: youkey
疾走する雛鳥編 10章 The Outsiders  
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1話 孵化

天神。

俺が一番嫌いな街だ。

でもそれが今、簡単に更新されようとしている。


新宿。


ここは異次元だ。


東京の奴らのほとんどが、ここにいるんじゃないか。

それほどに人口密度が高い。


家族連れやカップル。

そして自分の世界を放出しているやつ。


いろんな奴がいる。


どんなに人が溢れていても、彼女だけは見つけられる。


それだけが自慢だった。


「もしもし。今どこいる?」


「わかんない。」

「でもすぐ行くから。」


「いやもうそこから動かないで。」


「大丈夫だよ。着くって。」


「お願いだから。」


お願いというより懇願だった。


「絶対迷うじゃん。」


「迷わんよ。」


「じゃあなんで待ち合わせ場所にいないの?」


「……それは色々あってな。」


「いいから、そこの場所のGPS送って。」


「……はい。」


福岡で迷う俺にとって、東京は大冒険だ。


近くのベンチで、人間観察をすること10分。


美玖はスーツケースを転がしてやって来た。


「待たせたな。」


そう言ってサングラスを外す。


渡辺リーダーのパクリ。


「悪いな美玖。」


「いいよ。いつものことだし。」

「荷解きで頑張ってくれれば。」


「そりゃ身を粉にして手伝わせていただきます。」


「よろしい。」


そう言って美玖は笑った。


美玖が住むのは、世田谷近くの学生街。


通う女子大に近い場所を選んだそうだ。


類たち3人は調布でルームシェア。

俺は三鷹近郊に住むことにした。


それぞれ新生活が始まる。


福岡を離れて、5人でやってきた。


東京でもこの関係が続く。


それだけが安心だった。


——————



「楓、結局ライブはいつまであんの?」


類はエナドリを飲んで聞く。


「6月いっぱいまで入ってる。」


「それじゃ本格的に動けるのは7月からだな。」


康成は腕組みしている。


「曲作りや練習も含めりゃ9月からライブ開始でいいんじゃね。」


俺としてはそうしたかった。


「30分の持ち時間でMCはできれば5分以内がいい。」


「それは自分がしゃべりたくない感じ?」


楓は笑った。


「バレたか。」


俺は苦笑いした。


「まあでも、9月が妥当だと俺も思うぜ。」


類は同調した。


「じゃあ夏合宿だ!」


美玖は嬉しそうだった。


「そんな金ねえな。」


楓は苦笑いした。


「やるならこの学校か。」


泊まれるかは別として。


「いいね!楽しみ!」


美玖はやる気満々だった。


「それ以外にも決めなきゃいかんことはまだあるぜ。」


類は真剣に言った。


「なんかあるっけ?」


「バンド名。」


「……。」


忘れていたわけではない。

でもいい案がなかった。


「じゃあ今日の宿題だな。」


康成は手を叩く。


「じゃあ練習しようか。」


各々位置につく。


「1、2、3、4。」


4人での初演奏。

それでも楓は最初からそこにいたように馴染んだ。


———ジャーン。


「やっぱギター2本だと厚みが出るな。」


「確かに。」


康成は答える。


「……練習では普通に弾けるんだな。」


楓は不思議そうに言った。


「弾けるさ。失礼な。」


「特定の環境下のみ発動すんだよあれ。」


類が補足する。


「実際カバーの時は上手くいってたんだよな。」


康成はチューニングをしながら俺を見る。


そういえばそうだった。


「目指すべきはギターを弾きながら、感情の爆発をコントロールすることだな。」


できるかわからんけど。


「実際は、ヴォーカルのみもありだと思う。」


楓は宙を見つめる。


「ギターがあのヴォーカルの邪魔になるなら弾かなくていい。」


「……。」


「曲によってはって話だけどな。」


「それは面白いかも。」


「ギターが増えたからできる技だな。」


2人も頷いていた。


「ボーカルで思い出したけどさ。」

「楓も歌う曲があったらいいよな。」


「えっ。俺?」


楓は驚いている。


「動画で歌ってたし。」

「俺、みんな歌うバンドがいいんだ!」


「まあボーカルも好きだが。」


楓は頭をかいた。


「じゃあ決まりだ。」

「とにかく、俺は曲書くからそれを各自アレンジしてもらって。」


「そんなスラスラ書けるのか?」


類はニヤついている。


「やらなきゃ、ライブできねえだろ。」


「駄作だったらやらねえぞ。」


楓も笑う。


「任せろ。」


「じゃあ今日はあがろうか。」


康成は荷支度を始めた。



——————



いつも通り美玖を最寄り駅まで送る。


「曲作りってどれぐらい大変なの?」


「正直、好きでやってるから大変って思ったことはないな。」


「じゃあ天職だ。」


美玖は笑った。


「でも多分ポンポンとは思いつかない。」


「今まではどうやって思いついたの?」


「些細な出来事とか、言いたいことだったな。」


「じゃあ明日デートしようよ。空いてるでしょ。」


「いきなりだな。まあいいけど。」


「決まり!」


美玖は手を叩いた。


なんか上手く口車に乗せられた気がする。


でも隣で喜んでるから悪い気はしなかった。


美玖を見送って、自転車に跨る。


———ピロン。


楓「Time Of Revelry」


グループに楓から送られてきた。


俺「?」


楓「グループ名」


俺「意味は?」


楓「馬鹿騒ぎ」


俺「いいかも」


類「The Panic」


次は類から。


俺「安直過ぎね?」


類「響き重視」


康成「俺は好きよ」


美玖「はちみつレモン」


俺「勘弁してくれ」


類「The Honey Lemon」


俺「英訳しただけだろうが!」


楓「www」


康成「笑」


美玖「最高!笑」


康成「The Hamburg」


俺「食いもんから離れろ!」


———はっ。


いけない。

こんなことしてたら、朝が来る。

帰ろう。


俺「テポドン3号」


それだけ打って家に向かって走り出した。



——————



家に着くと会話の履歴が大喜利大会と化していた。


俺「お題はこんなバンド名は嫌だじゃねえぞ。」


康成「着いたか」


類「www」


楓「お前が言うなw」


美玖「おかえりー!」


俺「そろそろガチで決めようぜ」


康成「Time Of Revelryは結構良かった」


類「俺らっぽいしな」


楓「蓮介は他はないの?」


自転車に乗ってて考えた。


俺たちは、よそ者だ。


俺「The Outsiders」


類「かっけえな。」


康成「パンクっぽい!」


楓「意味は?」


俺「よそ者。」


俺「俺たち5人、全員そうじゃねえかなって。」


「社会のよそ者っつうか」


美玖「私も?」


俺「お前もメンバーみたいなもんだろ」


康成「そりゃそうだ」


類「俺は美玖ちゃんに引き入れられたし」


楓「俺にとっちゃこのバンドの先輩だからな。」


美玖は涙のスタンプを送ってくる。


康成「これでいいんじゃないか」


類「The Outsidersいいね」


楓「字面も悪くないしな」


美玖「大賛成!」


俺「じゃあOutsidersで行くぞ!」


類「Theな?」


俺「忘れてた」


楓「締まんねーなw」


康成「これが蓮介だからw」


美玖「さすがだね笑」


俺「The Outsiders」

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