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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 9章 集火
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8話 集火

——— 「蓮介。」


優しく母は俺に話しかける。


「どうしたの母さん。」


様子がおかしい。

母は俺の耳元で囁く。


「お前はお父さんに似とる。」


「お前なんか生きてる価値ない。」


「私の人生の邪魔をするな。」


そう言って立ち去る。


「待ってよ。母さん。」


———「待って!」


目が覚める。


「はあはあ。」


右手に温かい感触がある。


「大丈夫……?」


美玖は俺の顔を覗き込む。


「……美玖か。」


「何その残念そうな言い方!」


美玖はぷんぷんしていた。


「いや、ビックリしただけだよ。」


俺は美玖の手を握った。


「ちょっとこうしてていいか。」


美玖はみるみるうちに顔が赤くなる。


———「お2人さん。いちゃついてるとこ悪いが、いいか。」


類がやってきた。


俺らは慌てて手を離す。


「類。ライブどうなった?」


「もうとっくに終わったよ。」


「まじか。」


「みんな呼んでくるから。」


そう言って類は楽屋を出て行った。


「俺そんな寝てたの?」


「多分、余裕で1時間は寝てたよ。」


「そんなか。」


———ガチャ。


ドアが開くと、康成を筆頭にワラワラとなだれ込んでくる。


「落ち着いた?」


康成は笑顔で話しかけてきた。


「まあ。……迷惑かけたな。」


「いいよ。気にしてない。」


そう言ってソファーに座る。


———「いやーすごいライブだったぞ!お前ら!」


梶原さんが急にすごいテンションで入ってきた。


「客を全部持っていっちまいやがって!」


起き抜けにこの大声はきつい。


「……えっと、そうなんですか?」


聞けばライブ後は俺らのことで話題が持ちきりだったそうだ。


「次のライブはいつやるんだ?」


梶原さんの鼻息が荒い。


「……いや、まだそこまでは。」


苦笑いするしかなかった。


「いつでも歓迎だからな。」

「本当は今日の打ち上げにも呼びたいところだが。」

「……未成年だしな。」


正直、助かった。

未成年万歳。


「そうですね。またの機会に。」


「じゃあ帰ろうか。」


康成は言う。


「ああ。」


———「あのさ、俺もいいか?」


楓は頭をかきながら言った。


「もちろん。」


それぞれ荷物を抱え、Millerを出た。



——————



5人で影を連れて歩く。


「あのさ、蓮介の件聞いてもいいか。」


楓は俺を見ながら言った。


「そうだな。俺も知らないからな。」


類も同意する。


「話すと長げーんだよなこれ。」


立ち話じゃ収まらない。


「もしよかったらさ、どっかお店で話さない?」


美玖は満面の笑みだった。


「お前なんか企んでるな。」


「……打ち上げやってみたい。」


「だろうな。」


「ごめん。俺、金なくて。」


楓は気まずそうに言った。


「じゃあ学校はどうだ。まだ開いてるし。」


「もう溜まり場だな。あそこは。」


類が笑った。


「確かに。」


康成も笑っていた。


「いや、その子が打ち上げしたいなら、俺のことはほっといて、店行っていいぜ。」


楓は焦ったように言った。


「ダメだよ。仲間外れは寂しいもん!」


美玖はこういうときは真剣だ。


「ありがとう。えーっと。」


「私、中谷美玖。蓮介の未来の彼女です。」


「未来の……?」


「楓、そこにはツッコむな。」


「……俺は黒崎楓。よろしく。」


楓は立て直した。


「じゃあジュースとお菓子を買って行こう!」


美玖は拳を突き上げた。


近くの駅から電車で15分。


コンビニに寄ってから、学校へ。


職員室で鍵を借りそのまま音楽室へ向かう。


「おい、俺は全くの部外者なのにいいのか?」


楓は困惑していた。


「俺も全くの部外者だが、入り浸ってるから大丈夫だ。」


類は笑いながら言った。


「ここに通ってるんじゃないのか?」


「俺は別の高校。」

「通ってるのはこの3人。」


俺たちはピースで答えた。


「そんなに緩いのか、通信制ってのは。」


「ここは新設校だから。」


康成は補足する。


「だからって緩すぎだろ。」


楓は苦笑いした。



——————



机には紙コップいっぱいのジュースとスナック菓子が並ぶ。


「最高だったよ。楓のライブ。」


康成は興奮気味に語る。


「いや今日のライブはお前らのもんだ。」


「そんなことねえだろ。」


類は伸びをしながら言った。


「類のドラムの力強さと安定感。」

「康成のベースのメリハリ、ボーカルとしての才能もある。」


2人ともまんざらでもない顔をしている。


「そして蓮介。お前だ。」


楓は俺を見ながら言った。


「何よりお前は人を惹きつける。」





「負けたよ。」





楓は笑いながらそう言った。


「そんなことねえよ。諸刃の剣だ。」

「自分でコントロールできない。」


そしてすぐにガタが来る。


「それには理由があるんだろ?」


「ああ。」


今さら隠すことでもない。


「……。」


「康成と美玖は聞き飽きたか。」


「別に。大事なことだろ。」


康成はジュースを飲みながら言った。


「まあここにいる奴はみんなそれぞれ何かしらを抱えてる。」


類は楓の肩を叩いて言った。


「次はお前の話を聞かせてくれないか?楓。」

「お前がなんで学校へ通わず。」

「サポートをしながらプロを目指しているのか。」


俺は真っ直ぐに楓にぶつけた。


「ふっ。梶原のオヤジだな。」


楓は笑った。


「悪い。少し小耳に挟んで。」


「いや、俺も話したいと思っていた。」


楓は座り直した。


「簡単に言えば貧乏なんだよ。」

「親父は幼い頃に死んだし、お袋は人工透析で働けない。」

「幼い弟もいる。」


「……。」


心の準備はしていたが想像以上に重かった。


「高校なんて行けねえし、毎日現場で働いてる。」


「現場はキツイよな。」


康成は呟く。


「ああ。でも収入は高いからな。」


楓は苦笑いした。


「このギター親父の形見でさ。」


楓はギターを抱えて鳴らす。


「俺はプロになってこの貧乏を抜け出す。」

「家族のためにもな。」


「じゃあなんでサポートに?」


「サポートなのは少しでも金をもらうためさ。」

「正規じゃもらえねえからな。」


「なるほどな。ライブのノルマも無しで済むのか。」


類は腕組みをした。


「そう。その通り。」

「でもそれもここまでにする。」


楓はギターを置いた。


「ここまで?」






「俺をこのバンドに入れてくれ。」




——————



音楽室とは思えないほどの静寂。


誰もすぐには言葉を返せなかった。


4人で顔を見合わせる。


「そりゃこっちとしても嬉しいんだけどさ……。」


「他のバンドは?」


類も同じ疑問を持っていたらしい。


「やめる。元々サポートだし。」


「ライブとかあんじゃねえの?」


「ああ。決まったもんは出てからやめるさ。」


楓はあっけらかんとしていた。


「サポートやめるってことは金が減るんじゃないのか。」


康成はやはりよく見えている。


「そうだな。でもそれでもお前らとやりたい。」


「どうしてそこまで?」


俺は純粋に疑問だった。


「ライブを見て決めた。」

「お前らとなら上に行けそうな気がする。」


「……。」


「お前らもプロ志向って聞いたし、タメだし。」

「それにお前らとこうしてんのも悪くねえしな。」


楓は笑った。


「じゃあいいよな。お前ら?」


俺は3人を見ていった。


「文句なんかあるかよ。」


「右に同じ。」


「ギタリストが2人だー!。」


3人とも賛成のようだ。


「じゃあこれからよろしく。楓。」


「こちらこそ。」


俺たちは固い握手を交わした。

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