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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 9章 集火
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7話 爆炎

まだ薄暗いステージ。


アンプのゲインとヴォリュームを上げる。


ギターを鳴らす。


———ジャーン。


エッジの効いた音が鳴ってそのまま消える。



お目当てのバンドを見終えたのか店を出る客。

後ろでスマホをいじる客。

ステージの前に人はいない。


それでも2階席から大きく振られる手。

自然と笑みが溢れる。


「『こいつらを全部、食う気で行くぞ。』」


俺はそっとメンバーに告げる。


「お前、「3人に」とか言ってたろ。」


康成は笑っている。


「もとよりそのつもりだ。」


類は不敵に笑った。


照明が付く。


First Dateのドラムフィル。


思いっきり足を広げて、頭を振り、イントロを鳴らす。


体が勝手にリズムに乗り、動き出す。


「In the car I just can't wait.」


自分でも驚くほどでかい声。


「to pick you up on our very first date.」


自意識がどんどん吹っ飛んでいく。


客の目線が集まるのに気づく。


Bメロのタメにくる。


『「行くぞ!」』


俺は気づいたら叫んでいた。


「Let's go, don't wait, this night's almost over.」

「Honest, let's make this night last forever.」


サビに入る。

康成と類のコーラスが入る。


「Forever and ever, let's make this last forever.」


最高の気分だ。


スマホを触る客がいなくなる。

数人が最前に出て来た。


その後も息切れするほど全力の演奏で1曲目を終えた。


気づけば最前は埋まっていた。


———『「どうも、はちみつレモンです。」』


『「実は今日初ライブで名前決めてなくてさ。」』

『「テキトーにつけたらこうなったんだよ。」』


クスクスと笑い声が聞こえる。


喋れるからという理由でMCは俺だった。


「可愛い!」


2階席から声が聞こえる。


『「うるせえ!」』


だから笑いながら返した。


『「もう一つ実はだが、1週間前に出演が決まってさ。」』


(えー。)


と数人から聞こえる。


『「えー、じゃねんだよ。」』

『「マジなこれ。」』


『「準備あんまできなくてぶっつけ本番だけど。」』

『「今日ここにいるお前ら全員食うつもりでやるから。」』

『「よろしく!」』


(わー!)


だんだんと歓声が大きくなった。


『「じゃあ2曲続けていくぞ!」』


俺はStay Goldのイントロを弾き始める。


Aメロに入る瞬間、ジャンプする。


同時に康成が歌い出す。


俺はギターを弾きながら走り回る。


きちんと弾けているかなんて気にせず。


ヤベ。サビのコーラス。


「I won’t forget. When you said me “stay gold”.」


なんとか間に合った。


それからも速いリズムに乗せてステージを駆け回った。


ギターだけやっていて気づいたが康成の歌もベースも、類のドラムも練習よりいい。


そのまま続けてRolling Daysに入る。


さすがのKAZUHA。


客は一番の歓声をあげた。


俺は女性キーのまま歌う。


それにまた歓声が上がる。


さっきまで空いていたところまで人で埋まっていた。


そしてラストのオリジナル2曲を迎えた。


———『「じゃあこれがラストの2曲だ。」』


(えー)


最初に比べて明らかに歓声が大きい。


『「ラスト2曲はオリジナルだ。」』


『「いくぞ!」』


ここまでは最高だ。


問題はここから。


オリジナルに客はどんな反応をするか。


『「Identity」』


「1、2、3、4。」


類のカウントが入る。


イントロが始まる。


俺は今まで一番激しく頭を振った。


『「大人びたガキだと。」』


Aメロが始まる。


俺はブリッジミュートをしながら歌う。


『「誰より自分と語り合い。」』


Bメロ。


客がどんどんリズムに乗り始める。


サビでかますぞ。


『「もしもの話とか。」』


俺は今日で一番の声を出す。


感情が大きく燃え上がるのを感じる。


『「ねえ自分て何?私は誰?」』

『「探し続けてるんだ 俺だけのIdentity」』


急に目の前がスローに映る。


客が拳を上げている。

後ろにはもう人はいない。








『もっとだ。もっとやらせろ。』










——————




2番のAメロが始まる。


俺はギターを弾くのをやめマイクを握る。


『「正解の空気を」』


客がざわついている。


そんなこと関係ない。


大きく手を広げて客を煽る。


モニタースピーカーに足を置いて客を睨みつける。


最高だ。


サビに入る。


歌っているのか、叫んでいるのかわからない。


それでも客のボルテージが最高潮になっているのがわかる。


間奏からのギターソロ。


俺は本能のままに弦を掻き鳴らす。


指は追いついていない。


でも関係ない。


この炎を全部ぶつけるんだ。


そのあとギターを握ることはなかった。


「蓮介。大丈夫か?」


康成が声をかけてくる。


『「大丈夫だよ。最高だろう?」』


「蓮介!ラストだ!」


類が割って入ってきた。


『「じゃあラスト。Home Run Batterrrrrrrrr!」』


俺は人差し指を突き上げる。


俺は相も変わらず、飛び跳ねて頭を振りギターを弾く。


『「一発でかいの狙っているぜ」』

『「三振なんて恐れちゃいないぜ」』

『「ちまちまヒット打っていくなんて」』

『「なんのロマンも感じないぜクソ!」』


気づけば歌詞を変えていた。


ギターが煩わしい。


今は感情を爆発させたい。


ギターを背中へ回した。


そうしてサビまでハンドマイクで叫ぶ。


客は跳ねながら拳を上げる。


間奏になってまた思いのままギターを弾く。


2番でも同じことを繰り返した。


『「Home Run Batter!」』

(Home Run Batter!)

客の歌声が重なる。


そしてラスサビ。


歓声を一身に浴びながら、腕を広げて歌う。


そして客を睨みつける。


『「Home Run Batterrrrrrrrrr」』


———ジャーン。


ライブが終わる。


『「ありがとう!」』


そう言って俺はすぐに立ち去った。


歌い終わった瞬間、一気に熱が冷めた。


俺は楽屋のソファーへとすぐに向かった。



——————



何も考えられなかった。


慌てて康成と類が入ってくる。

遅れて楓もついてきた。


「おい大丈夫かよ。蓮介。」


類は見たことない顔をしていた。


「……ああ。悪い。」


自分でもわかるほど力無い声が出た。


「お前どうしちまったんだ。」


楓も同じ顔をしていた。


「この前みたいな感じか?」


真剣な顔で康成が聞く。


2人は康成を見てすぐ俺に向きなおった。


「……ああ。自分を解放しすぎたらしい。」


「そうか。じゃあ今日はもう無理か。」


「……うん。悪いな。」


「とりあえず、1回こいつ休ませてくれ。」


康成は2人に言う。


俺はそのまま目を閉じた。

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