6話 着火
「ライブが決まったー!?」
音量を下げていた。
ナイス判断。俺。
「ライブ観れなかったし、そんな面白いことになってたなんて……。」
明らかに声がしょぼくれている。
「まあ次の土曜だ。バイトないだろ?」
「ない!あっても休む!」
美玖は高らかに宣言した。
「それにこれから土曜まで死ぬほど練習するから!」
「うん。はちみつレモン作ってくね!」
「俺ら運動部じゃねえよ。」
そんなやりとりをする余裕があった。
この日までは。
——————
それから俺たちは毎日、放課後に集まり練習を重ねた。
「ドラム、ちょっと走ってる。」
「ベースもう少し安定感が欲しい。」
「ギター雑すぎる。」
「ボーカルの音量、もう少しあげよう。」
「美玖、今の演奏どうだった?」
お互いに意見を出し合う。
手探りながらも、少しずつ前に進んでいる感はあった。
「だいぶ形になってきたな。」
類は手応えを口にした。
「どうした蓮介?」
康成は俺に声をかける。
「なんかたぎらないんだよな。」
「たぎらない?」
「ゴーって来ないっつうか。」
「言語化下手か。作詞家。」
類にツッコまれる。
「休憩にしよう。」
お前なんか知ってるだろ。
一緒にやってるんだし。
『だから俺はお前だ。』
『俺が知っていることはお前は知ってる。』
……。
『わざわざそんなことを俺に聞いてくるな。』
そう言ってアイツは消えていった。
俺が知っているか。
自分を解放できる時。
それはいつも自分でなくなる感覚と共にあった。
誰かへの披露、REC。
それが今ない。
「とにかく練習だよ。」
康成は俺の肩に手を置く。
「練習の時と人前やRECの時の違いは、俺も感じる。」
「……。」
「俺もそうだ。やっぱ本番はアドレナリンが出る。」
「でも……。」
「自分の武器は熱量だ。そう思ってんだろ?」
「……。」
「大丈夫だ。曲と歌詞だけでも十分伝わる。」
「今は本番で無意識でも間違えないくらい練習することだ。」
「……。」
「今できることをやろう。」
「……そうだな。」
「今のまんまじゃライブでミスって、魅せれるもんも魅せれねえぞ。」
類も入ってきた。
「後で後悔しないように今は、目一杯練習するしかないよ!」
美玖も笑ってそう言った。
それからも俺たちは、5曲をひたすら繰り返し、細部を磨いた。
結局俺は、一度も自分を解放できないままだった。
——————
「おう。来たか。」
楓がMillerの前で待っていた。
「準備はバッチリか。」
「できることはやってきた。」
「そうか。」
楓は頷いた。
「これバックステージパスな。」
「ライブ中はつけとけ。」
「わかった。」
俺は肩に貼り付ける。
「湿布か。」
類がツッコんできた。
「いや、サイズ感がさ。」
「ボケれる余裕があるなら大丈夫そうだな。」
楓はそう言って笑った。
「そこの女の子は?」
「LINEで言っただろ。」
「ゲストの子か。」
「美玖です。」
美玖は頭を下げた。
どうやら楓の見た目にビビっているらしい。
「じゃあ行こうか。」
5人で楽屋へと向かった。
俺たちの出番は6組中の3番目。
楓たちはトリだった。
「おう。いらっしゃい。」
梶原さんが話しかけてきた。
「改めて今回はありがとうな。」
俺たちは握手を交わす。
「今日はよろしくお願いします。」
「そういえば君らバンド名は?」
「あっ……。」
「決めてなかったか。」
梶原さんは苦笑いした。
「どうする?」
4人で頭を抱えた。
「……はちみつレモン。」
「は?」
全員で俺を見てきた。
「テキトー。美玖と前、しょうもない話したなって。」
「いいんじゃね?」
類は軽いトーンだった。
「まあ仮だし。美玖ちゃんいての俺らだし。」
康成は俺を見て笑う。
「それ可愛い!」
美玖は嬉しそうだった。
「じゃあはちみつレモンな。」
「リハの時間はまた伝える。」
そう言って梶原さんは出て行った。
「じゃあ俺も自分とこ行くわ。」
楓も去っていった。
「とりあえず準備するか。」
とは言ってみたものの特にやることはなく、すぐにリハの時間が来た。
「おい、類。俺、リハのやり方知らん。」
俺は類に耳打ちした。
「わかった。その辺は俺がやる。」
「では、はちみつレモンさんセッティングお願いします。」
PAさんは声をかける。
「よろしくお願いします。」
言われるがままセットをする。
「セッティングOKです。」
全員ができたのを見て、類が声を出す。
「ではキックください。」
類はバスドラムを鳴らす。
「OKです。では……。」
PAさんの指示に合わせて、それぞれ音を出していく。
類たちは迷いなくPAとやり取りを進めていく。
「ではボーカル音ください。」
「ボーカルの音ってなんだ?」
俺は後ろを振り返る。
「ラララ〜。」
すると康成が歌い出した。
なるへそ。
「OKです。」
「ではギターの方、ボーカル音ください。」
俺はとりあえずラララでIdentityを歌う。
「OKです。」
「ドラムの方、ボーカル音ください。」
やっと個人の音確認が終わった。
「では全体お願いします。」
「一回普通に演奏して、各パートの音がきちんと聞こえるか試す。」
類は今回は事前に言ってくれた。
「じゃあHome Run Batterをワンコーラス。」
演奏を始める。
自分の音と周りの音に耳を澄ます。
———ジャーン。
「どうですか?」
「ドラムです。ボーカルとギターの返しもう少しください。」
みんなも慣れた様子で注文していく。
見よう見まねで俺も続いた。
こうしてリハーサルは終わった。
——————
「慣れないことして疲れた。」
俺は楽屋のソファーに倒れる。
「おいおい、こんなんで疲れてどうするよ。」
類は苦笑いしている。
「まあ、でもあとは演奏するだけだ。」
康成は水を俺に投げながら言った。
「サンキュー。」
「とりあえず1、2組目を見てたらいいの?」
「2組目の後半には袖に行くぞ。」
「SEとか照明まで考える余裕なかったな。」
類は康成に話しかける。
「そうだな。それは次までに考えておこう。」
なんかわかったらしいが俺にはさっぱりだった。
会場の歓声が壁越しに響いていた。
いよいよか。
——————
「全然楽しめなかったんだけど、ライブ。」
「初ライブだから、他のバンド楽しむ余裕なんてねえよ。」
類は笑った。
「大物だなお前は。」
康成も笑っていた。
「さあ蓮介。ライブ前に言っとくことは?」
類は俺に振ってくる。
「やることはやったし、楽しめばいいんじゃね?」
「軽いな。」
類はツッコんできた。
「もう少しやる気を上げる感じの。」
康成が助け舟を出す。
「うーん。」
少し考えてから口を開いた。
「縁を大事にしたい。」
「誘ってくれた楓、受け入れてくれた梶原さん、そしていつも手伝ってくれる美玖。」
「3人にいいとこ見せてやりたい。だから頑張りたい。」
「お前らしいな。」
康成は言った。
「じゃあ円陣しよう。」
類の提案に3人で肩を組む。
「蓮介。行け。」
———『おい、俺もまぜろ。』
わかってるよ。
初ライブだ。力の限りを尽くす。
『わかってるさ。お前こそ置いていかれんなよ。』
……。
ぬかせ、タコ。
「『行くぞお前ら!』」
「「「おお!」」」




