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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 9章 集火
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3話 意志と医師

ドラマーは的確に叩いていく。


持参したイヤモニでクリック音を聞いている。

リズムに狂いはない。


メリハリもきっちりしている。

全体的に音量も大きい。


手数の多いタイプではない。

パワータイプのドラマー。


いい意味で暴れる俺たち。

ドラムの安定感は必須だった。


気分が乗ってくる。


歌とギターに集中する。


——ジャーン。


音楽室の音圧が一気に下がる。


ドラムの音量に合わせるため、自然と音が大きくなった。

耳がキンキンする。


その中では美玖の振りの大きな拍手も小さく聞こえた。


「どうだった?」


俺はドラマーに問いかける。


「最高。」

「ギターは安定感ないけど歌の熱量がすげえ。」

「ベースは曲の中での押し引きができてる。」


そう言ってニカっと笑った。


「そっちは?」


俺は康成と顔を見合わせる。


「「最高!」」


3人で笑い合った。


美玖は大きく息を吐いていた。



——————



「もうヒヤヒヤしたんだから!」


美玖はプンスカだ。


「喧嘩するのかと思ったもん!」


「いや、お互い本気でぶつかる必要があるって思っただけ。」


「そうそう。バンドマンだから。」


類も同調する。


「康成くんも怖かったよね?」


美玖は仲間を探す。


「いや、こんなもんかなって。」


残念でした。


「むー。」


美玖は不服そうだった。


「とりあえず答えを聞いていい?」







「ああ。俺をドラマーとして入れてくれ。」







「もちろん。なあ康成。」


「ああ。即戦力だ。」


「よかった。」


「部活はどうするんだ?」


「すぐにとはいかないだろうが、やめるよ。」


笑いながら類は言った。


「てか何歳?」


タメ口が出た後で思い出した。


「同い年だよ!」


美玖がここぞとばかりに言ってくる。


「そりゃ助かるな。」


「一応、自己紹介しとくか。」

「俺は内村蓮介。」


「俺は森岡康成。」


「蓮介でいいしタメ語で行こうぜ。」


「俺も康成でいいから。」


「よろしく。じゃあ俺も類で。」






「んじゃ類、なんでそんなにプロになりたいんだ?」





「急だな。」


康成がツッコむ。


急だったか。


「いやなんか、普通にプロ目指すってやつと熱量が違うっつうか。」


康成にも感じた。

目が違う。


「そんなつもりはないけど、一応ちゃんと理由はあるよ。」


「やっぱそうだよな。ただ好きって感じなかった。」


「蓮介はなんか変わってるな。」


「そうかな。」


よく言われるが……。


「俺は家が医者の家庭なんだ。」



——————



「そりゃいいお家柄で。」


いいセリフが思いつかなかった。


「そうでもねえよ。」


類は苦笑いする。


「なんか訳ありか類。」


康成は類を見つめる。


類は暗い顔をする。


「安心しろ。」

「俺は虐待されて育った。」


「じゃあ俺は施設育ち。」


「私も母親に捨てられた。」


不幸のトリプルパンチ。


「ふっ。」


類は思わず吹き出した。


「お前ら、訳ありすぎだろ。」


「だからお前の話に引いたりしない。」


「まあ確かに話しやすくなったわ。」


類は笑いながら話し出した。


「俺は幼い頃から医者になるために育てられてさ。」

「毎日勉強の日々で……。」


「まるでドラマだな。」


俺は呟いた。


「ドラマみたいに、頭硬い親なら良かったよ。」

「彼らは将来以外は自由をくれたし。」

「何不自由なく生活させてくれた。」







「俺は今でも自分が音楽の道を行くことを間違ってると思ってる。」






「……。」






「うちは街でも大きな病院でさ、地域医療を支えててんだ。」

「俺は自分の夢を追うことで命を蔑ろにした。」

「その重圧から逃げたんだ。」


「そんなことねえだろ。」


つい口を挟んでしまった。


「類がいなくても、病院は続く。」

「1人で背負う必要なんてないだろ。」


「でも俺は一人息子だ。」


「必要なものは残るよ。」

「それが親子の関係じゃなくても。」


「……。」


「でも多分そんな自分が許せないんだろ?」


「……ああ。」


「じゃあやっぱプロになるしかねえな。」


俺は笑って言った。


「やっとスッキリしたぜ。」

「類がプロを目指す理由。」


「お前はすげえな。蓮介。」


類はそう言って笑った。


「そんなことねえよ。」


『人のことだと、うだうだしない。』


アイツが俺を鼻で笑う。


うるせえな。


「今、親御さんたちとはどういう感じなの?」


康成が心配そうに聞く。


「もちろん、カンカンで勘当された。」


「勘当?」


「そりゃきついな。」


「じゃあ今どこに住んでるの?」


美玖は不思議そうに聞いた。


「今は叔母の家に居候してる。」


「だからバイトしてんのか。」


「そりゃ多少は家に入れないとな。」


———「学費とかは?」


そりゃ康成は気になるよな。


「そこがウチの親の難しいところさ。」

「叔母への援助は勿論、学費も全部払ってくれてる。」


「……なんだそれ。」


康成は不思議そうに言った。


「確かに筋は通してるし、逃げ道ねえな。」


類は苦笑いした。


「一つだけ安心しろ。」

「俺たちもプロを目指す。」

「でも、操り人形にはならない。」


「操り人形?」


「自分たちのやりたいことをやる。」


「パンクだな。」


「だろ。」


———「てかさこれから練習ってどうなるの?」


美玖が急に言い始めた。


「確かに。」


「私ここでみんなといるの好きなんだよね。」


美玖のこういうところには敵わない。


「ここ借りて類も来れるか聞いてみようか。」


康成は笑顔でそう言った。


「そうだな。」


「よし行こう!」


なぜかわからないがこの瞬間はすごく楽しかった。



——————



結果から言うと一言返事だった。


「いいよ。」


通信制万歳。


「こんな簡単に終わるとはな。」


「飲み込み良すぎるよな。」


「俺、普通の学校だからびっくりしてるわ。」


類は唖然としていた。


「大丈夫。俺らも驚いてるから。」


「それに中谷さん、教員と世間話で残ったぞ。」


美玖は話が盛り上がり、職員室に残った。


「アイツは人懐っこいからな。」


「蓮介は中谷さんと付き合ってるんだろ。」


「まあ付き合ってはないけど。」


「でた。」


康成は笑った。


「ちゃんと捕まえとかないと取られるぞ。」


「なんで。」


「バイト先で人気だよ。顔も可愛いし。」


「……。」


言葉が出なかった。

急に美玖が遠くに行ったような気がした。


「まあ本人はバイト先でも惚気てるけどね。」


これは喜んでいいんだろうか。


「俺的にも通したい筋があってさ。まだ付き合おうって言えねえんだ。」


「筋か。大事にしてえな。」


類はそう言って笑った。


「まあ美玖が他の人を好きになることもあるか……。」


「安心しろ。」

「俺の前じゃ誰も近寄らせねえよ。」


「頼もしいなドラマー。」

「てかお前はもっと自信持て。」

「美玖ちゃんはお前しか見てねえよ。」


康成に怒られてしまった。


———ドン。


「痛ってえ。」


「なんの話?」


美玖は俺に突撃して言った。


「なんでもねえよ。」

「男同士の秘密だ。」


「なにそれ〜!」


4人の影が揺れる。

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