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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 9章 集火
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1話 俺らしく

親父はそこで話を切った。


「……まあ、そんな感じや。」


タバコの煙だけが部屋に残った。


「……。」


俺は何も言えなかった。


「そんな顔すんなよ。」

「人生笑ったもん勝ちだぜ。」


そう言って笑う。


「さすがに笑えないよ。」


「俺は後悔はしとらん。」


「……。」


「母ちゃんのことで俺のことを恨んでもしょうがない。」


「恨んだりはしないよ。」


「でもここから自分の人生をよくできるのは自分だけや。」


「……。」


「お前らしく笑って生きていけ。」


「俺らしく……。」


「ゆっくりでいいけんな。」


そう言ってタバコを吸い始めた。


「俺はお前の味方や。」

「いつでも頼ればいい。」


親父の笑顔の裏に、影があることを知らなかった。


それでも今でも、俺には親父は眩しく見える。


「俺は音楽で生きていけるかな。」


「もっと上手くならなな。」


「ふっ。」


笑ってしまった。


「でもな、蓮介。プロになるだけが全てじゃない。」

「仕事をしながらでも音楽はできる。」


「……。」


「自分に合う方法を見つけたらいい。」


「……そうやね。」


俺は立ち上がって自分の部屋に戻る。


———「待て、蓮介。」


「仲間はいいぜ。」



——————


「俺らしさか。」


結局、陽が昇るまで眠れなかった。


それでも、不思議と苦しくはなかった。


親父の存在が近くなったように感じた。


朝食を取りに一階へ降りる。


「おはよう。」


親父はいつも通りスーツを着て朝食を取る。


「お前今日学校か?」


「月金って言ったやん?」


「そうやっけ?」


相変わらずだ。


「でも今日は昼、康成とスタジオでRECする。」

「時間足らんかったら、放課後教室借りて。」


「大洋と隼人以外で初めて友達の名前聞いたな。」


親父は少し嬉しそうに笑った。


「前言ってた女の子。」

「美玖って言うんだけど、今度連れてくるよ。」


「おっ。彼女ちゃんやな。」


「彼女じゃないけどね。」


俺は視線を逸らした。


「じゃあいってくるわ。」


親父は仕事へ向かった。



——————



天神。

俺の世界一苦手な場所。


でもスタジオは都会にしかなかった。


「蓮介!」


康成はベースを背負ってやってきた。


「おい!天神で迷子ってお前、地元だろ。」


康成は笑った。


「ごめん。俺、結構方向音痴で。」


「相当だなそりゃ。」

「とりあえず行くぞ。」


俺たちは商店街の裏路地を歩く。


「こんなわかりにくいとこ、次も無理やわ俺。」


「事前に言ってくれたら改札まで行くから。」


最敬礼である。


「それより今日で全部仕上げようぜ。」


「ああ。」


スタジオPASS。


汚いビルのエレベーターで3階へ上がる。


狭いフロントに所狭しと機材が並んでいる。


「にいちゃんたち初めてだな。」


白い髭の老人が話しかけてきた。


「2名で予約の森岡です。」


「ああ。Aスタジオね。」


「俺が店長の寺田だ。よろしく。」


握手を求められ、それに応じた。


2人で使うには広いスタジオ。


「この時間は安くてついいいとこ取っちまった。」


康成は笑った。


「とりあえずカバーで肩慣らししようぜ。」


肩慣らしとは言い訳。

大型アンプを前にいきなり、DAWを立ち上げる気にならなかった。


「やっぱ気持ちいいな。」


「ああ。やべえ。」


「時間もあるしRECしようか。」


「ああ。」


まずは「Home Run Batter」の歌録り。


———「ごめん、もう一回。」


———「ちょっと聴いてみようか。」


———「水飲めよ。」


———ペットボトルの水を一気に流し込んだ。


———「ミスった、もっかい!」


何回ものリテイクを重ねて完成した。


そして「Identity」。


「歌詞できたの?」


「ああ。」


「じゃあ全部取るぞ。」


結局俺たちは夕方まで粘りやっと完成させた。


スタジオの残り時間は20分。


「なあ一回合わせてみねえ?」


「いいね!やろう!」


2人はギターとベースを構える。



「Home Run Batter」


一発でかいのを狙ってるぜ

三振なんて恐れてないぜ

ちまちまヒット打ってくなんて

なんのロマンも感じない だから


俺は 狙う 一発逆転ホームラン

決めろ かっこよく 一世一代大勝負


野球も人生も同じだろ

でかいの狙っていこう

ヒーローになれよ


Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter


弱点なんかに目を向けてるより

得意な所をとことん伸ばせ

普通でいるよりずっと面白い

ガンガン個性を磨いていけよ


偉い やつに 使われるなんて御免

覚悟 決めて 操る糸を断ち切った


そんな見方しかしないから

埋もれるものがある

見せつけてやれよ


Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter


ギターソロ


Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter


誰にも謝る必要はないぜ

お前はお前らしく生きてけよ

周りに合わせる必要もないぜ

お前の合う場所に行けばいいさ


自分 活かす 最善の策はきっとある

探せ 掴め 失敗なんかを恐れるな


三振したって堂々と

ベンチへ帰ればいい

紙一重だって


Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

俺は

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

俺だ

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter

Home Run Batter


———ジャーン。


「じゃあ次Identity。」


ギターを握り直す。


さっき歌った。


「お前はお前らしく生きてけよ」


という言葉が頭をよぎる。


「Identity」


大人びたガキだと

呼ばれた俺は

大人のふりをして

自分を見失った


気づけば周りが

大人の影に

置き去りにされた

子供のままの俺


誰よりも自分と語り合い

何度もかき消した白い紙

くしゃくしゃ丸めて破り捨て

息を吸いたい


もしもの話とか

したくはないけど思うんだよ

ねえ自分って何?私は誰?

探し続けてるんだ

俺だけのIdentity


空気の正解を

脳死でただなぞる

ほんとの心を

知らないふりをした


マイペースな子どもの

面影は消え去った

今じゃ流れゆくまま

虚空を見上げてる


正しい発言はどちらか

次の選択肢から選べ

でも自由に書けと言われたら

ペンが止まった


今、声にしたいその本音は

ため息に流れて

もうわからないよ、どうすりゃいいの?

実像が見えない

雲をつかむようなIdentity


ギターソロ


答えは自分の中にある

心の声に耳を澄ました

暗闇の中を歩いてく

光を探して


……ラストだ。


譲れないものを

持ちたいんだ俺だけの気持ちを

負けないように、枯れないように

大切に育てる

美しいIdentity

この物語の主人公は

他でもない俺なら

挫けたとしても、苦しくても

力強く進む

揺るがない自分自身を


———ジャーン。


「まだまだだな。」


俺は笑ってギターを置いた。

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