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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 8章 Hurly-Burly
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7話 未来へ

———


「未来さん、俺と付き合ってください。」


「はい。よろしくお願いします。」


———


俺は未来さんと付き合うことになった。


「この前のライブすごかった!」

「まさか学くんがバンドマンだったなんて。」


「こっちこそ。未来さんがロック好きなの知りませんでしたよ。」


「ねえこのGreen Dayってめっちゃいいから聴いて。」


「確かにいいっすね。」

「これ好きならこんなんどうですか?RANCIDってバンドで。」


「最高!」


交際は順調だった。


——————


「内村。これ頼む。」


「はい。」


上司はじっと俺を見る。


「なんですか。」


「お前、未来ちゃんと付き合って柔らかくなったな。」


「そうですかね。」


「昔より刺々しくないというかな。」


「相変わらず飲み会は苦手ですけど。」


上司は笑った。


苦手なものは今でも苦手だ。


それでもそれを昔より嫌と感じなくなった。



——————


「間違いなく青春が終わったな。」


哲也は笑う。


「……。」


「俺もラストライブ以降、世界が違って見えるよ。」

「いい意味でも悪い意味でも。」


「そうか。」


「……ロッソネロ。SBでワンマン成功させたよ。」


俺たちのラストライブから半年も経っていなかった。


「実力でやってのけたな。」


「実はメジャーからオファーが来ているらしい。」


「どこから?」


「Art Records」


「こりゃまた大手だな。」

「行くのか?」


「ああ。上京もするって。」


「そうか。」


タバコは吸われずに灰になっていった。


「曲もできたし、そろそろRECしようか。」


2人で作ってきた曲もかなりの数になっていた。


バンドは終わっても、音楽は終わらない。



——————



1年後。



「学くん、これみて!」


「今、注目の若手!ロッソネロ!デビュー!」


CDショップには販促用のポップが並んでいた。


ロックコーナーの端の方だが。


「一歩踏み出したな。」


俺たちはCDを手にレジへ。


ロックコーナーの一番でかいスペースにふと目をやる。


「ロックの歌姫!一ノ瀬柚月!渾身の1枚!オリコン年間1位&ミリオン達成!」


あいつは日本の頂点まで行った。


「学くん、どうしたの?」


「いや、なんでもない。」


俺たちはCDショップを出た。


個室居酒屋。

俺を知ってるからこその選択だった。


「2人ともおめでとう。」


「ありがとう!」


「どうも。」


「いやーお前が結婚するとはな。」


「自分でも驚いてるよ。」


付き合って1年。

プロポーズは驚くほどあっさりだった。


「本当にありがとうね。哲也くん。」


未来は頭を下げる。


「いやいや、そりゃ親友の結婚だし。」


「ガクが結婚してアルバムのRECも終わって心置きなく上京できるな。」


「お前、上京すんの?」


「本格的にイラストレーターとして働こうと思ってな。」


「そうか。」


「寂しいだろ。」


「そうだな。」


哲也は驚いていた。


「珍しく素直だな。」


「俺は元々素直だぞ。」


「よく言うぜ。」

「式とかしねえの?」


「するよ。」


「高橋とか松井も呼んでやれよ。」


「あいつら何してんの?」


「高橋は実家継いで、松井は会社員。」


「へー。」


「お前連絡取らなすぎな。」


「お前経由で繋がってるからいいだろ。」


その後もくだらない話に花が咲き、会はお開きになった。



——————


2年後。


人の流れに逆らうように街を走る。


「内村未来の夫です。」


廊下は走るな。

そんなルールは元々、守ったことはない。


———ガチャ。


「未来!」


「お帰りなさい。お父さん。」


未来の腕には、触れれば壊れてしまいそうな小さな命があった。


「ほら抱いてあげて。」


「いや怖いけんいい……。」


つい怖気付いてしまった。

親戚一同笑う。


「そんなこと言わないで、ね。」


俺はその小さな命をそっと抱き寄せる。


本当に温かく、優しく包み込まなければ壊れてしまいそうだった。


「蓮介。」


「うぇぇぇん!」


俺がそっと名前を呼ぶと蓮介は泣き出した。


「蓮介って嫌か?」


「喜んでるのよ。」


それから3年。

宗介も生まれた。



——————


「おぎゃおぎゃ!」


宗介が泣く。


俺は宗介をあやしてみるが効果はない。


「代わって。」


「お母さん。」


「ごめんね。お父さんのところに行ってね。」


「わかったー。」


「どうした蓮介?」


「僕ね、歌作ったの。」


「歌作ったのか。」


蓮介は自作の歌を歌って聴かせる。


拙いメロディだったが、ただの替え歌ではなくオリジナルのメロディだった。


「すごいな。蓮介。」


俺は蓮介の頭を撫でる。


「蓮介。寂しくないか。」


「なんで?」


「お母さん忙しいだろ?」


「僕、お父さん好きだよ。」


こいつはこの年で正解を出す。


もっとわがままでいいのに。


「あなた、蓮介寝かして!」


「わかった。」


「じゃあ行こうか。」


「うん。」


このくらいしか、俺にはできなかった。


この頃から未来はほとんど眠れていなかった。


——————


2人を寝かしつけた後、ここからの時間は地獄だ。


「やっと寝たよ。」


「やっと?私は毎日やってるんだけど。」


「わかってる。未来も早く寝なよ。家事はやっとくから。」


「どうせ寝られないのに一緒でしょ!」

「ただでさえ夜泣きで寝られないのに!」


未来は泣いていた。


地雷を踏んでしまったらしい。


「いつもありがとうな。」


「ありがとうじゃないよ。いつも仕事で遅いし、出張も多い。」


「ごめん。でもそれは仕事だから。」


「あなたはそれでいいけど家事に育児に私はつかれてるの!」


「お互い支え合うのが夫婦だろ?」


「その割に給料も低いんじゃない?」


「俺、高卒の会社員やし。そんな急に給料は変わらんよ。」


「どうにかなんないの?」


「どうにもなんないよ。」


だったら俺にできることはまだある。


「土日は休みだから俺料理作るよ。」


「私が作るからやめて。」

「私が母親なんだから。」


「そんなに自分を追い込まないでさ。」


「私はあなたの妻で、あの子たちの母親なんだから。」


「あの子たちの母親なんだから」これが彼女の口癖だった。


「責任感が強いのは君はいいところだけど、今の状態は良くないよ。」


「昔、折れなくていいって言ったのは誰よ。」


「折れるんじゃなくて肩の荷を下ろせってこと。」


「あなたに何がわかるのよ。」


未来はティッシュの箱を投げつけてくる。


「モノに当たるなっていつも言ってるだろ。」


「うるさい。どっか行って。」


———「お母さん!お父さん!喧嘩しないで!」


蓮介が泣きながら起きてきた。


「ごめんね蓮介。」


未来は蓮介を抱っこして寝室へ向かった。


あの頃の未来は、もうどこにもいなかった。



——————



もう何時間経っただろう。


俺は家を閉め出されている。


家に帰るのが遅いから。


飲み会の帰りであれ、許されない。


トイレの電気がつく。


「蓮介か。」


俺は窓越しに声をかける。


「お父さん?なんで外にいるの?」


「色々あるんだ。チェーン開けてくれ。」


「わかったー。」


翌朝、未来に聞くと、「忘れてた」その一言だけだった。



——————


「はい、ご飯。」


「ありがとう。」


未来は俺と顔を合わすと明らかに機嫌が悪くなった。


「なんでイライラしてるんよ?」


「あんたにイライラしとるったい!」


コップを投げつけてくる。


プラスチックでよかった。


「モノに当たるなって。子供達に当たったらどうする?」


「あんたが悪いっちゃろうが!」


「俺?俺の何が?」


「浮気でもしてるんやろ?」


「はっ?」


「帰りも遅いし、出張も多い。」


「本当に仕事だって。」


「そうじゃなかったら2人に会いたくて早く帰ってくるはず。」


「帰りたいけど帰れないんだよ。」


「うるさい。」


未来はあたりにあるものを手当たり次第に投げる。


俺は子供達を寝室へと避難させる。


「お父さん……。」


蓮介は泣いていた。


「大丈夫。俺がなんとかするから。」

「宗介といい子で寝てなさい。」


俺は蓮介の頭を撫でた。


それからも未来の錯乱は続いた。


未来の怒りは、いつも俺に向いていた。


「離婚しよう。」


子供達を守るにはこれしかないとそう思っていた。


——————


最後の日。


「お父さんとお母さんは一緒にいられなくなった。」

「ごめんな蓮介。」


「なんでー?」


蓮介は大泣きしている。





「好きな人を嫌いになりたくないんだ。」






「……それに、好きな人の未来の幸せを願ってるから。」






「いやだー。お父さんとお母さん一緒がいい。」


俺は涙が止まらなかった。







「蓮介。人生笑ったもん勝ちだぞ。」







俺はそう言って頭を撫でた。


俺は家を出た。


イヤフォンを刺す。

BOØWYのMemoryが流れる。

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