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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 8章 Hurly-Burly
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6話 人生笑ったもん勝ち

SBの前には長蛇の列ができる。


ポスターにはsold outの文字。


「さすがの人気だな。」


田嶋のおやっさんが楽屋に入ってくる。


「解散特需ってやつだよ。」


哲也は笑う。


「解散がなくたって売れてたさ。」

「俺が一番推してたバンドだからな。」


俺を見ながらおやっさんは言う。


「どうも。」


「オープニングアクトはまだ秘密なの?」


「ブッキングは任せろ。」とだけ言われて俺たちは知らなかった。


「最後ぐらい最高のオープニングアクト連れてきた。」


視線は哲也へと移っているようだった。


「お前らにはもう言ってもいいか。」





「ロッソネロだ。」





「本人たちが秘密にしろと言うからな。」


「ふふっ。」


思わず笑ってしまった。


「知ってたんだろ?哲也。」


俺は哲也に聞く。


「聞いたわけじゃないよ。ライブ来れねえて言うからおかしいなと。」


詮索しないのは哲也らしい。


「客食われないようにしないとな。」


松井は笑う。


「最高のオープニングアクトだろ。」


おやっさんは俺を見て言う。


「そうだな。天狗になってるから鼻っ柱へし折らないとな。」


俺は哲也を見た。


哲也は笑っていた。


———「そろそろ開演します。」


アナウンスが入る。


「じゃあ本番でな。」


おやっさんは出て行った。


「袖、見に行くか。」


俺はメンバーに言った。


「ああ。」


いよいよライブが始まる。



——————



「今日は来てくれてありがとう!」


鉄平は叫ぶ。


「今日は俺が憧れ続けたバンドの解散ライブだ。」


(……。)


「このバンドのファンで、俺たちのファンになってくれた子も多いと思う。」


(イェーイ!)


観客が歓声を上げる。


「初めて同じステージでやるぜ!」


(おお!)


「今回こんな機会をくれた、田嶋店長に感謝します。」


おやっさんはPAをいじりながら手を振っていた。


「でもな!悔しい気持ちはある!」


(ええ!)


「SBワンマンは俺たちも目標だったから。」


(パチパチ。)


観客から拍手が起きる。


「だから今日は俺たちのライブにする気で行くから。」

「よろしく!」


(おおおおお!)


観客は一番の盛り上がりを見せる。


「じゃあ行くぜ!Old But Good!」


(わあああああ!)


ロッソネロは勢いよく音を奏でた。


昔の俺たちのように。


眩しく見えた。


「行くぞ。」


「ああ。」


俺たちは楽屋に入って準備を始めた。



——————



まだ熱気が充満している。


スポットライトは消えステージは暗い。


俺たちは舞台袖で控える。


「ガクくん。上手くなったろ?」


鉄平は笑顔で俺に問いかける。


「ああ。上手くなったけどまだまだ甘いな。」


俺も笑顔で返した。


「哲也!ガクくんの足引っ張んなよ。」


「誰が言いようとや!こいつの隣で何年やってきたと思っとる!」


哲也も笑っていた。


「よしやるぞ。」


4人で肩を組む。


ライブ前の恒例儀式もこれが最後だ。


「俺たちに明日はない。」

「このライブにすべてを込める。」


「そうだな。」


哲也の目に涙が浮かんでいた。


「何泣いてんだよ……。」


「お前らも泣いてんじゃんか。」


高橋も松井も泣いていた。


でも俺は不思議と涙は出なかった。


「……今日は楽しもうぜ。」


ライブで初めて言った。


「似合わねえこと言うなよ。」


哲也は笑う。


「でもとちったら殺すからな!」


メンバーの顔が締まる。







「行くぞ!」


「「「「おお!」」」」






俺たちはステージへと向かった。


まだ暗がりのステージ。


観客がかすかな気配に反応する。


スポットライトが俺たちを照らす。


(おおおおおおおおおおお!!!!!!)


耳をつんざくような歓声が響く。


「1、2、3、4!」


松井は叫ぶ!


いきなり激しいギターリフ。


「Crazy Faker!」


(わあああああああ!!!!!!!)


高速の2ビートを松井は叩く。

哲也は切り裂くようなカッティングで跳ねる。

高橋はダウンピッキングで地面を揺らすような低音を鳴らす。


俺は叫んだ。


この一回で喉が壊れてもおかしくないほどに。


全身から吹き出す汗。


踊り叫ぶ客。


俺は客を煽った。


モッシュが起きたり、ダイブする客もいた。


同じ熱に感化されてライブハウスは一つになる。


気を張っていないと持っていかれそうなほどに。


俺たちは1曲目からノンストップで6曲を演奏した。


MCは極力しない。

解散ライブでも変える気はない。

それが俺たちのスタイルだ。



——————



「今日は俺らの解散ライブに来てくれてありがとう。」


(わあああ!)


哲也はMCを始めた。


「まあ解散ライブつっても、もう半年活動してなかったし。」

「ここまで来て目標だった300キャパが達成できると思わなかったよ。」

「本当にありがとう!」


(パチパチ。)


観客から大きな拍手が起こる。


「最後だからってたくさん喋んのは俺ららしくねえし。」

「こっからもフルスロットルで行くぞ!」


———ジャーン。


それから俺たちは一気にラスト手前まで駆け抜けた。


演奏時間が30分を超えても客の熱は増すばかり。


哲也の弦は途中で切れた。


それでもギターを掻き鳴らす。


負けじと俺は叫んだ。


そしてラストの曲が迫る。


「次がラストの曲だ!」


(ええー!)


(嫌だー!)


「……。」


哲也は涙で言葉が詰まっていた。


———「ありがとう。」


哲也が驚いたように俺を見る。


「今まで応援してくれて。」

「期待に応えられなくて悪かった。」


(……。)


「俺は音楽が好きだ。」

「音楽を嫌いになりたくない。」


周りを見れば高橋も松井も泣いていた。


「だからここでおしまいだ。」


「でも俺たちの音楽は残る。」


鉄平が涙を拭っていた。


「過去は消えない。」


(わああああああ!!!!!!!)


「そんな顔すんなよ。」






「人生笑ったもん勝ちだぜ。」






最後の音が消えた。


割れんばかりの歓声が響いた。


こうして俺たちの最後のライブは終わった。



——————



「最高だったよお前ら。」


おやっさんは俺たちの肩を叩いた。


「ガクくん……。」


「なんでお前が泣いてんだよ。鉄平。」


「だってさ……。」


「兄弟そっくりだな。」


高橋が笑う。


「お前も泣いてたろ。」


「お前が言うなよ。」


松井が言うのでツッコんだ。


「逆にお前は泣かなかったな。」


哲也は俺の肩に手を置く。


「俺は……なんかスッキリした。」


「そうか。」


そう言って哲也は笑った。


「ガク!」


「ん?」


「才能ないとか言って悪かった。」


「お前には才能があるよ。」


「音楽続けろよ!」


高橋は叫んだ。


「いや、俺はもういい。」


「向いてねえんだ。やっぱり。」


「……。」


「音楽が大好きだけど、音楽の周りにあるものが大嫌いだ。」


俺は笑う。


「じゃあな。」


「おい!最後ぐらい打ち上げこいよ!」


哲也は俺の腕を掴む。


「疲れた。帰るわ。荷物よろしく。」


「たくっ。」


哲也は笑った。

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