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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 8章 Hurly-Burly
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3話 夢と現実

車で時間を潰す。


それでもざわつきは止まらない。


あいつの出番は俺らの前だった。


俺の足は勝手に動いていた。


———ワッー!


歓声が聞こえてくる。


さっきの腰の低さから一転、その姿は堂々としていた。


スポットライトに集まる視線。


楽器隊が演奏を始める。


清純な彼女が作ったとは思えないほど、エキセントリックな音が羅列していく。


そして口を開ける。


その声は一気に客を飲み込んだ。


でも俺だけは飲まれなかった。


サビに入った瞬間、歓声が一段大きくなり、客が全員前へ押し寄せた。


会場全体を彼女の世界へ引き摺り込むような圧倒的なオーラ。


演奏も歌もブレない。


彼女がライブを終える。


俺たちは袖で準備をする。


「楽しみにしています。」


彼女はそう言って楽屋へ向かう。


「それは皮肉か。一ノ瀬柚月。」


「えっ。」


驚いた表情を見せる。


あの顔が妙に癪に障った。


「いくぞお前ら!絶対に勝つ!」


「「「「おう!」」」


意識してしまった。


いつもより走る。

いつもよりミスる。

いつもより客が乗ってこない。

そしていつもより俺は客を見た。


これまでで1番最悪のライブだった。



——————



それから数ヶ月。

俺たちはライブ活動を休止した。

そして俺は曲作りに没頭した。


曲を書いても書いても捨てた。


あいつには届かない。


今までの曲も含めて再アレンジ。


———初登場5位、一ノ瀬柚月さんです!


「やっぱり行ったか。」


一ノ瀬柚月はメジャーレーベルからデビューした。


あれ以来あいつとは会っていない。


———プルプル。


「もしもし。」


「もしもし。ガクか。」


哲也が珍しく慌てている。


「なんや?俺は忙しい……」


「メジャーレーベルからオファーが来たぞ!」


それは突然の知らせだった。


ライブも止めていた。


なぜだ。


「とにかく4人で集まるぞ。」


言われるがままいつも通りうちに4人集まった。



——————



「やったなガク!」


「すげえよガク!」


高橋と松井は自分のことなのに俺ばかりを褒めた。


「まずは経緯を教えろ哲也。」


哲也は頷く。


「俺たちの自主制作CDをファンがレーベルに送ってたらしい。」

「それを聴いた担当からうちに興味ないか?って連絡が。」


「その担当はなんて?」


「このあと実際に会って話したいそうだ。」


「いくっきゃねえな!」


高橋はテンションが上がっている。


「だな。」


松井も笑みが耐えきれてない。


「どうかしたのか?」


哲也は俺を見つめる。


「……あの曲じゃダメだ。」


「そう言うと思ったよ。」


哲也は笑った。


「だからフルアルバムを作ろう!」


「フルアルバム?」


「それを聴いて評価してもらう。」


「悪くないね。」


松井は乗り気だった。


「そこまでしなくても話きてるんだし……。」


高橋は言葉に詰まった。


「……。」


タバコの煙が宙を漂っている。


「……ああ!やるよもう!」


バンドの意思は決まった。


「じゃあ会ってそれを話すか。」


「ああ。そうしよう。」


俺たちは大きな期待を胸に待ち合わせ場所へと向かった。



——————



日曜の13時。


子連れで賑わうファミレス。


場違いなのは自分でもわかる。


気合を入れた他の3人がいつもより尖った格好をしているのが余計だ。


そこに対面で座るスーツの男がそれを助長する。


「君たちがHurly-Burlyだね。」


「はい。」


外交担当の哲也が答える。


「太田レコードの堤です。」


太田レコード。

数多くのバンドが、所属するメジャーレーベル。


「こちらこそよろしくお願いします。」


「単刀直入に言うよ。ぜひうちのレーベルに来てもらいたい。」


哲也と俺は目を合わせる。


「すみません。お聴き頂いたEPに納得できていなくて。」

「これからフルアルバムを作るのでそれを聴いて頂いて評価していただけないかと。」


こいつがいてよかったと思う。


「いえ。その必要はありません。」


「えっ。」


「フルアルバムはうちに来てから作っていただく予定ですから。」


全員で顔を見合わせる。


「それは嬉しいお話です。」


「ああ、よかった。」

「ただ一つ条件として、プロデューサーを付けさせていただきたいと。」


「プロデューサー?」


「サウンドプロデューサーの方で実績も豊富ですので。」


「……。」


「それはそいつの言うことを聞けってことか?」


気づいた時には睨んで言葉が飛んでいた。


「……。」


「俺たちは俺たちの音がある!」


「……申し訳ないですが、今のままではプロでは売れません。」


「あ゛あ゛!なんだと!」


「歌詞も演奏も攻撃的すぎる。」

「うちに来たらボーカルのベンさんのルックスを生かし、ラブソングを中心でやっていただきたいと考えています。」


「そんなのロックじゃねえだろ。」


「我々はHurly-Burlyというバンドの素材は評価していますが、楽曲は評価していません。」


「てめえ!」


俺はテーブル越しに胸ぐらを掴んだ。


「……プロというのは一握りです。」

「そしてそのプロも売れるための戦略に乗って、必死にやっています。」

「自由に音楽をやれるなんて、プロの中でも一握りです。」





「甘いですよ。考えが。」





「帰れ。」


俺は胸ぐらを離しそう言った。


「まだお話が……。」


「いいから帰れ!」


ファミレスが静まり返る。


「……いいお返事お待ちしています。」


そう言ってスーツの男は立ち去った。



——————



———ガンッ。


俺の部屋に鈍い音が響く。


「なんであんなこと言ったんだよ!」


高橋は俺を殴る。


———ドンッ。


「何すんだテメエ。」


俺も殴り返す。


「やめろって!」


掴み合いになる。


「落ち着けよ!」


哲也と松井が引き離した。


「ずっと我慢してきたんだ!」

「バンドの話だろ!なんでお前が勝手に決めるんだ!」


「曲を作ったのは俺だ!お前らだってあいつらの操り人形になっていいのかよ!」


「操り人形でもいいさ!プロで金稼げるなら!」

「そこ目指してやってんじゃねえのか俺らは!」


「そんなの俺は望んでない!俺は俺たちの音でプロになりたいんだ!」


「甘いって言われただろ。」

「そんな才能ねぇんだよ、俺らには!」


「俺たちが信じなきゃ始まんねえだろうが!」





「やめろ!」





「落ち着いて話せよお前ら。」


哲也の怒鳴り声を初めて聞いた。


「今は話してもお互い治んねえよ。」

「また別の機会を設けよう。」


「……もう機会なんてねえよ。」


高橋は呟く。


「俺たちはチャンスを失ったんだ。」





「もう俺はやめる。」





そう言って高橋は家を出て行った。


「高橋!」

「……ガク。俺はこの決断でもいい。」

「でもみんなで決めたかったよ。」


そう言って松井は高橋を追って行った。


俺は体の力が一気に抜けて座り込んだ。


「哲也、俺間違ってるか。」


「間違ってない。けど方法は間違ってた。」

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