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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 8章 Hurly-Burly
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2話 直焦燥

ガキの頃から親が家にいなかった。


「自分のことは自分でしろ。」

「働かざる者食うべからず。」


それが母親の口癖だった。


別にそれが酷いとも思わない。

当たり前だと思う。


そしてロックとパンクに出会った。


自分でやれ。


そう大声を張り上げる奴らに、俺は強烈に惹かれた。


ただ猿真似をする気はない。


俺は俺のロックをやる。


「内村。炒飯一丁。」


「あいよ。」


料理は好きだ。

でも仕事は嫌いだ。


金はいる。


だから働く。


でも最後は音楽で食う。


「内村。バンド調子いいらしいな。」


休憩時間だと言うのに間の悪い大将だ。


「いや、別に。」


「ワンマン成功したって聞いたぜ。」


「はい。」


「今度、チケットくれよ。」


「それやると不満出るんで。」


「ははっ。冗談だ。」


———「おやっさん、炒飯。」


「あいよ。」


そう言って大将は出て行った。


愛想がないと昔から言われる。


つくづく向いてない。


休憩時間はあと10分。


タバコでも吸おう。



——————



「おう。おかえり。」


「なんでいんだよ。」


家に帰るとバンドメンバーがいた。


「お前が遅いけん。」


哲也は麻婆豆腐を口に運びながら言う。


「あんた、もうご飯ないけんどっかで食べてき。」


母親はそう言った。

なぜそうなる。


「美味しいな。おばさんの飯。」


高橋はニッコニコで人の飯をくらう。


「おかわりもらっていいですか。」


「いいわけねえだろ、松井。」


「ないなら一緒だろ。」


「まあいいや。俺上がってるから食い終わったらこいよ。」


まかないを食べていてよかった。


うちは外様に優しく、身内に厳しい。

それも昔からだった。



——————



「今度のライブのセトリはどうする?」

「Wake Upは確定として……。」


哲也は紙とペンを持って聞く。


「Crazy Fakerは外せないだろ。」


高橋は爪楊枝を咥えている。


「Freedomもな。」


松井はタバコを咥えて続く。


「定番ばかりじゃ飽きる。」


客もそうだが俺自身も。


「だから昔やってたやつを入れる。」


「リメイクしてか。」


哲也はペンを止める。


「リメイクやるほどの時間はない。」


完成度は落とせない。


「やってるうちに勝手に昔との違いは出るだろ。」


松井はタバコの火を消した。


「やりながらアレンジっと。」


哲也はまたペンを走らせる。


「今回は30分の企画だっけ?」


「じゃああと4曲いるな。」


「バランスを見ても1曲はバラード入れるぞ。」


「8曲っていつも思うけど多いよな。」


高橋は苦笑いする。


「うちは曲が速くて短いからな。」


哲也も笑った。


「文句あんのか。」


「ねえよ。俺らはお前の曲で集まってんだ。」


松井が代表するように言った。


「MCは俺でいいのか?」


哲也が話題を変える。


「哲也以外いねえだろ。」


「普通、MCはボーカルだけど。」


松井は嫌味っぽく言ってきた。


「俺はない。やるぐらいならライブやめる。」


「まあガクは喋らないブランディングでいいよ。」


哲也がまた間に入る。


———ガチャ。


「ガクくん。お邪魔します。」


「なんだ鉄平きたのか。」


哲也は弟の登場を歓迎していないようだった。


「いいやろ、哲也。」


「今次のライブの話してるから、黙ってろ。」


「この前のライブすごかったよ!」


話を聞かずに鉄平は続ける。


「ワンマンで150人キャパ埋めるなんて!」


「客は入ったが、演奏はまだ荒い。」


「またまた〜。ギター借りるよ。」


そう言いながら隅でギターを弾く。


ギターを始めて一年。

それなのに、もう俺たちに追いつこうとしていた。


「続けるぞ。残り3曲は前のライブと同じでいく。」


「なんで?」


「完成度が低い。もっとライブで揉む必要がある。」


「それは言えてるかもな。」


哲也はペンを咥えながら言った。


「でもさ。今回もトリだからベストな選曲じゃないと田嶋のやっさんにどやされんじゃね。」


高橋は罰が悪そうだった。


「関係ねえよ。トリにしたのはアイツだ。」


「あんまり歯向かってるとワンマンさせてもらえないかもだぜ。」


哲也はペンで俺を指す。


「300人キャパはあそこしかないからな。」


「それならそん時、考えるだけだ。」


———「やっぱかっけー。」


鉄平が嬉しそうに言う。


「鉄平、黙ってろ。」


哲也は鉄平に厳しい。


「とにかく次のライブはこの8曲でいく。」


「じゃあ明日から時間測って通しな。」


哲也はペンを置く。


「じゃあ俺らバイトだから。」


高橋と松井はバイトへ向かっていった。


「なあガクくん、俺らオリジナルやることにした。」


鉄平は嬉しそうに報告してきた。


俺はセッターに火をつける。


……なかなか火がつかなかった。


——————



ライブ当日は、喉が渇く。


緊張なんて口にしたくない。


それでも体は正直だった。


「これで全部か。」


哲也は運転席から声をかける。


車に機材を積んでライブハウスへ。


俺たちの拠点。


ライブハウスSB。


300キャパ。福岡で1番デカいハコ。


「おお、来たか。」


機材を運んでいると店長の田嶋が話しかけてきた。


「ガク、お前この前も打ち上げ飛んだらしいな?」


噂が回るのが早い。


「打ち上げはやらねえって言ってんだろ。」


「ワンマンやったんだから、スタッフやらを労うのが筋だろ。」


「言葉で伝えたさ。」


「俺らは知ってるからいいが、別のハコじゃちゃんとしろ。」


「てかおっさん。今日なんか客層違くね?」


男女比がおかしい。


いつもなら、野郎ばかりが今日は半々だ。


「JUNKの店長、櫛田さんわかるか?」


「ああ。」


あの癖の強いおっさんか。


「あの人の肝煎りで今日参加するアーティストの客だ。」


「へー。」


「俺も以前見たがあいつは間違いなく売れるな。」

「トリ任せてんだからお前らも負けんじゃねえぞ。」


「関係ねえよ。俺はやることやるだけだ。」


「そうだな。まあいつも通り期待してるぜ!」


「どんなやつなんだろうな。」


哲也が話しかけてくる。


「聞いてたのか。」


「おっさんがあれほど言うってことはただもんじゃねえよ。」


「だから関係ねえって。機材運ぶぞ。」


なんかイライラした。



——————



ライブハウスの楽屋は狭い。


しかも顔見知りが多い。


ある意味でアットホームなその感じが気持ち悪かった。


「おい。ガク。この前のワンマンやばかったらしいな。」


トップバッター、ジャミングのボーカル渡部。

馴れ馴れしくて、チャラついたやつ。

嫌いだ。


「別に。」


「また照れちゃって。最高だったって田嶋さん言ってたぞ。」


「まだ完成度は低い。」


「相変わらず、意識高いな。さっきのリハもエグい演奏してさ。」


「お前らが意識低いんじゃねえの?」


「ははっ。言うね。まあ今日はよろしくな。」


機材は置いた。


あとは出番前まで車の中で時間を潰す。


———どん。


制服姿の女がぶつかった。


「ごめんなさい。」


「いえ。」


「もしかしてHurly-Burlyのガクさんですか。」


「そうですが何か。」


「JUNKの櫛田さんからすごいかっこいいバンドがいるって聞いて!」


「さあな。」


「私、一ノ瀬柚月って言います。」


「どうも。」


俺はそう言って楽屋を去った。


腰は低い。


ただあの自信に満ちた表情と力強い目。


一発でわかった。


あいつが肝煎りだ。


何をされたわけでもない。

それでも心のざわつきが治らなかった。


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