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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 8章 Hurly-Burly
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1話 矛盾

あの頃、俺はギターがあればすべてうまく行くと思っていた。


本気で、そう思っていた。


クソ暑い日差しがうざい。


「ガク!」


相変わらずガミガミとうるさいやつ。


「なんや?哲也」


コイツはうちのギター。

親友。

肩書はそんなもんだ。


「お前、また勝手にどっか行きやがって。」


「俺の勝手だろ。」


「ライブ後、打ち上げあるって言っただろ!」


「俺あれ嫌いだからパス。」


酔ったジジイの戯言に耳を傾けるなんてごめんだ。


「そう言うわけにもいかねえだろ。」


コイツはそういうのが得意だ。

俺は人間関係が嫌い。


「適当に言い訳しといて。」


徹夜は俺も睨んでため息をつく。


「わかったよ。今度、謝っとけよ。」


「気が向いたら。」


バンドを初めて3年。


向いてることと向かないことははっきりしてきた。


相棒のテレキャスターを抱えて、家路を急ぐ。


セブンスターに火をつける。


タバコは好きだが煙は嫌いだ。


そんな矛盾がどうでもいいくらいニコチンが好きだった。


玄関を開ける。


ギターとアンプで埋まった殺風景な部屋。


敷いたままの布団に倒れ込む。


音楽が好きだ。


でもライブは好きになれない。


人前が嫌いだ。


でも音楽が好きだ。


「はあ。つまんねえ。」


そう吐き捨てて寝た。



——————



「おい!起きろよガク。」


人の家に勝手に入る。


勝手に人を起こす。


なんらかの罪だろ。


「なんだお前ら。打ち上げは?」

「もう終わったよ。何時だと思ってるんだ?」


「知らねえ。」


「0時は回ったよ。」


ベースの高橋は言う。


「で、なんでお前らはここにいるんだ?」


「いつものことだろ。」


そう言うドラムの松井はもうタバコを吸っていた。


「今日のライブの話をな。」


「じゃあ哲也とちった時笑うな。」

「高橋。ダウンピッキングのみって言ってるだろ。」

「松井は緊張か知らんが走り過ぎ。」

「以上。」


「……。」


「そう言うお前はどうなんだよ。」


「お前らはどう思う。文句あるか?」


「……。」


「ないなら話は終わりだ。」


「てかお前新曲あるって言ってただろ?」


哲也が話題を変える。


「ああ。聴くか?」


俺はギターを抱える。

そして掻き鳴らす。


「すげえ。めっちゃかっこいいじゃん。」


高橋は興奮している。


「相変わらず速えな。ドラマーのこと考えろよ。」


松井は苦笑いした。


「これは次のライブでやれるな。」


哲也は紙のセトリを書き直している。


「タイトルは?」


「Wake Up」


「いいね。」


「明日からこれ詰めていくから、覚悟しとけよ。」


「明日は朝から行けるぜ。」


高橋の家のガラス屋の倉庫が、俺たちのスタジオ。


ベースはまあまあだが、それ以上にいい条件だ。


「じゃあ朝からだな。松井行けるか。」


哲也が確認する。


「ああ、空けてあるよ。」


「俺にも聞けよ。」


「お前は大学ないだろ。」


「専門行ってる。」


「最近行ってないって言ってたけど。」


「まあな。」


「じゃあいいじゃん。」


「聞かれねえのがムカつくんだよ。」


「そりゃ日頃の行いだ。」


哲也は笑いながら言った。


「てことでお前ら帰れ。」


そして俺を寝かせろ。


「えー。ゲームやろうぜ。」


高橋はもうコントローラーを持っていた。


「明日朝からだろうが。」


「このパターンで帰ったことねえだろ俺ら。」


松井も灰皿を持ってきて言う。


「じゃあやりますか。」


「なんでお前が仕切るんだよ。哲也。」


「まあまあ。俺に勝てないからって。」


「昨日勝っただろ。」


「昨日まぐれで勝ったからって調子乗んなよ。」


「やってやるわ!貴様!」


こうして俺らは灰皿が満杯になるまでゲームをした。


気づけば朝日が昇る。


「とりあえず楽器取りに帰るわ。」


「おーう。」


「また後で。」


2人は家を後にする。


「お前はどうすんだよ。哲也。」


「俺はギター持ってきとるけん。」


ニンマリ笑っている。


「おばちゃんに朝ごはんご馳走になってくるわ。」


「図々しい奴。」


「てかさ。お前もう少し優しく言えねえの?」


「なんが?」


「アイツらに。俺は慣れとるけんいいけど。」


「間違ったこと言ってないやん。」


「それで何回揉めたよ?」


「アイツらが下手かっただけ。」


「それでまたクビとかは勘弁しろよ。」

「やっと安定してきたんだから。」


「今の奴らはまだマシ。」


「言い方一つで変わるってこと。」


「やる奴はなんと言われてもやる。」

「自分の人生、自分で切り開くしかないんやけん。」


「そうだけど、周りの助けもいることはある。」


哲也はため息をついた。


蝉の声がやけにうるさい。


「……。」


「……。」


「世話かける。」


「わかってんならいいよ。」



——————



「よーしやるか。」


「とりあえず1番までな。」


「ちょっと待って。」


高橋はビデオカメラの調整をする。


「音さえ取れりゃいいって。」


「わかってるけどさ。」


「じゃあ行くぞ。」


———ジャーン。


「いいんじゃないか?」


哲也は手応えを口にする。


「いやだめだ。」


「そうだな。」


俺と高橋は気に食わなかった。


「初めて合わせた割には上出来だって。」


哲也は苦笑いする。


「松井はどう思うよ。」


「まだ慣れてないからいいもクソもないな。」


スティックを回しながら言う。


「松井まだリズムキープが雑。」


「いきなり合わせろったって無理だろ。」


「お前が安定しないとバンドが不安定になる。」


「わかってるよ。」

「これから合わせていく。」


松井は俺を睨んだ。


「高橋もまだ丁寧に弾きすぎてリズムに追いついてない。」


「今が速すぎんだよ。」


「哲也。まず覚えろ貴様。」


「事前練習30分じゃ厳しいって。」


「じゃあもう30分とるから各々練習な。」



——————



———ジャーン。


「松井、もう少しメリハリが欲しい。」


「どの辺?」


「全体的にもだけど、特にBの落ちるところ。」


「まあまあ。数回の練習でここまでやってんだし。」

哲也は間に入る。


「高橋は音が割れ気味。」


「まだ速さに慣れてないから力入る。」


「もう少し抜いていけ。」


「うん。」


「哲也。もう少しラフにやっていい。」

「RECみたくなってる。」


「じゃあもう少し崩すわ。」


「一回休憩していいか。」


松井は腕を揉みながら言った。


「仕方ねえな。」


各自休憩に入る。


「ガク。このフレーズどう弾いてる?」


「2弦と3弦。」


「3と4で行くけどいい?」


哲也はフレーズを弾く。


「悪くねえな。」


「ガク、Bメロこのベースラインどう?」


「いいな。次のテイクそれで弾いてみろ。」


「よしやろうか、ガク。」


「松井、へばったんじゃねえのか?」


「舐めんな。やれるわ。」


ライブは嫌いだ。


でも練習は好きだ。


磨き上げていくこの時間が。


「じゃあやるか。」

「ライブまであと1週間、完成度を上げるぞ。」


「「「おお!」」」


「よし。じゃあ行くぞ。」


今日も空気が揺れる。

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