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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 7章 背中を追って
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5話 立ち止まって

2週間に1回。

ここにくるのは嫌いだ。


自律神経に良いというBGMが、病人であると自覚させる。


「内村さんどうぞ。」


呼びかけられて、奥の部屋に入る。


「こんにちは。」


「どうも。」


医者は相変わらずパソコンに向かって挨拶をする。


「調子はどうですか。」


「良くも悪くもないですかね。」


「では順調ですね。」


順調なのか。


「自立支援の方、診断書できました。」


「僕ってなんの病気なんですか?」


病名なんて聞きたくなかった。


でも知らないままでもいられなかった。


「いろいろな要素があって難しいです。」

「診断書にはうつ病、不眠症、ADHDと書きました。」


「いろいろな要素というのは?」


「正直、一つの病名では説明できません。」

「いろんな特性が重なっています。」

「あくまで傾向が強いものを書きました。」


「僕自身に何か問題があるんですか?」


「問題というより性格や自己の偏りや特徴が強いという感じでしょうか。」


「なるほど。」


「薬はいつも通り出しておきます。」


「はい。」



——————



薬袋をぐるぐる回しながら、家に帰る。


空はどこまでも澄み渡っている。


自分のちっぽけさが身に沁みる。


俺ってなんなんだろうな。


どんな人間なんだろう。


仮面を被り続けた結果、自分自身がわからなくなった。


俺の本音、本心はどこにあるんだろう。


『またウジウジと。』


しょうがないだろ。


『考えるだけ無駄だな。』


うるせえよ。

勝手に頭が回るんだ。


『じゃあそれを曲にしろよ。』


えっ。


『そのまま曲にすればいい。』

『元々そのつもりだっただろ。』


でもこの問いに答えはない。


『迷い悩み、求めることが伝わればそれでいい。』


迷い悩み、求めるか。

暗い曲になりそうだな。


『そこを俺がパンクやロックにする。』


わかった。

やってみよう。


『それで良い。』


でも気に入らなかったらアルバムに入れない。


『そんなのは後で決めればいい。』

『今は曲を作ることだ。』


正直、コイツの言う通りになるのは癪だった。

だが今回は口車に乗ってやろう。


俺は家に着くと、すぐにギターを手に取った。



——————



それから数日。

学校、教習所やバイトの時間以外はすべて作曲とRECに費やした。


「どう?RECの調子は。」


「康の気持ちがわかったよ。」

「自分の技術不足が嫌になる。」


「だよな。」


「やっぱり緊張して硬くなるのかミスが目立つ。」

「それに少しのリズムのズレも気になる。」


「気になり始めたら、止まらねえだろ。」


「マジそれな。」


たった3分足らずの曲なのにRECは3日も費やした。


「ギターはなんとか終わったけどな。」

「今からの歌が不安だ。」


「マイクスタンド持ってきた時は、びっくりしたよ。」


「さすがに家じゃ全力で歌えねえしな。」


ヘッドフォンをつける。


自分を解放する。


『「行くぞ。」』


RECボタンを押す。


———一発でかいの狙っているぜ、三振なんて恐れていないぜ!



「はあはあ。」


息が切れる。


全力で歌うとこんなにもきついのか。


「熱量とか感情はバッチリだな。」


「でもまだ細かいところがな。」


「ピッチが安定してないとか?」


「うん。シャウト気味に歌うとむずくてさ。」


「まあ時間はあるから妥協せずやってこうぜ。」


「ああ。」


「そういや新曲の方は?」


「ぼちぼち。」

「歌詞がまだ全然だけどメロディとかギターはだいぶ見えてきたよ。」


「現状って聴いたりできるか?」


「弾き語りでいいなら。」


「頼むよ。」


俺はギターを抱える。


———ジャジャン。


「いいじゃん!サビのシャウトがいい。」


「Home Runより歌いやすくはあるかな。」


「ギターのイントロも印象深いし。」


「RECの時は2本入れるつもり。」


「本当にあとは歌詞だけだな。」


「もう少し書きたいことを整理しないと。」


「どんなイメージ?」


「自分を探し求めてる歌だな。」


「自分?」


「言えばアイデンティみたいな。」


「なんか蓮介らしい詩だな。」


「タイトルはまんまIdentityで行こうと思ってる。」


「悪くないんじゃないか。」


「一番のサビはできたんだ。」


俺はスマホのメモを見せる。



もしもの話とか

したくはないけど思うんだよ

ねえ自分って何?私は誰?

探し続けてるんだ

俺だけのIdentity



「どうだ?」


「メロディにもバッチリハマってるし、綺麗な歌詞だな。」


「どうも。」


素直に褒められると照れ臭い。


「AとBでどう歌ってこの詩に繋げるか。」


「確かにな。」


「もう少しゆっくり考えるよ。」


「ああ。」

「そういえば、美玖ちゃんは?」


康成は今更なことを聴いてくる。


「美玖はクラスメイトとお茶しにいった。」


「友達できたんやね。」


「この前の一件以来、女子の友達も増えたらしいからな。」


「なんか嬉しそうだな。」


「そうか?」


顔に出ていたのか俺。


「アイツが嬉しそうだから。」


「でも寂しかったりしねえの?」


「寂しい?」


「あんだけ一緒にいたらさ。」


「考えたことなかったな。」


「蓮らしいな。」


嫉妬なんて感情は昔から疎い。


「あんないい子、そうそういねえんだから、ちゃんと捕まえとけよ。」


「独り身に言われたかねえよ。」


「痛いとこ突かれた。」


康成は笑った。


「じゃあ歌録り再開だな。」

「今日はIdentityのベースまで取るから覚悟しろよ。」



そしてなんとか俺たちは「Home Run Batter」の歌録りと「Identity」のベース録音を終わらせた。


気づけば辺りは真っ暗になっていた。


それでも充実感を胸いっぱい抱えて家に帰った。



——————



「遅かったな。」


家に帰ると部屋着で親父がタバコを吸っていた。


「RECしててさ。」


「できたか?」


「1曲だけ。」


「聴かせてん。」


「うん。」


俺はパソコンの再生ボタンを押す。


親父は相変わらずタバコを吸いながら、聴いている。


音はなっているのに何も入ってこない。


心臓の音だけが大きく聞こえる。


審査されている気分だった。


曲が終わる。


親父はタバコを消す。


「この前聴いたやつか。」


「ああ。弾き語りでな。」


「曲自体はいいよ。」


この前も言われたがやっぱり嬉しい。


「でもまだまだ下手だな。」


やっぱり言われた。


というか親父が上手すぎる。


「親父ってさ、なんでそんな上手いの?」


純粋な疑問だった。


「てかさ。親父のバンドの話、聞いてみたい。」


親父は再びタバコに火をつける。


「バンドの話か。」


親父は少し懐かしそうに語り出した。


アマチュアバンド Hurly-Burlyの物語を。


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