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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 7章 背中を追って
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4話 いないいないばあ

「こちらの待合室で授業まで待ってて。」


係員は案内をしてとっとと去っていった。


派手男は不機嫌そうにベンチに座っていた。


「ギターやってるんですか?」


つい話しかけてしまった。


「なんだお前。」


予想通りの返答。


「俺もギターやっててさ。音楽好きなのかなって。」


派手男はジーッと俺を見て言う。


「音楽に命かけてる。」


「俺もプロ目指してやってるんだ。」


「音源は?」


「……いや、今作ってる。」


「ふっ。」


そう言ってベンチから去っていった。


『おい、あいつ殺していいか。』


待て。


『舐めた態度とりやがって。』


まあ、あんなもんだ。



——————



「やな人だね!」


美玖はプリプリする。


「そんなもんさ。」


日課の電話ももう面倒とは思わなくなっていた。


「バイクはどうだった?」


「気持ちよかったよ。慣れたら大丈夫そう。」


「よかった。バイクで一曲作れるんじゃない?」


「なるほどな。でも今作ったら教習所の歌になるな。」


美玖は笑っている。


「そっちこそバイトどうだよ。」


「学生さんが多い時間だから、話はしてるよ。」


「おお、よかったじゃん。」


「ドラマーの人も話したら怖い人じゃないし。」

「何より女子で話できる子ができたのは嬉しい!」


「学校でも女子の友達できるといいな。」


「うん!頑張るよ!」


「じゃあ明日、面接行ってくるわ。」


「いってらっしゃい。」


そう言って電話を切った。


履歴書なんて書いたのは初めてだった。

“編入”という文字を見ると切なかった。



——————



どこにでもあるコンビニ。


面接を伝えると、店員は少し驚いたように裏へと入っていった。


「ではこちらへ。」


店員は狭い店の裏へ案内する。


そこには初老のおっさんが座っていた。


「良くきてくれたね。」


「よろしくお願いします。」


「私がここのオーナーです。」


フランチャイズの店。

脱サラして始めたって感じの風貌だった。


「松永裕樹と申します。」


「はい。こちらこそ。」

「履歴書もらってもいいかな。」


初老のおっさんは内容の薄い履歴書を確認していった。


「では面接を始めますね。」


「よろしくお願いします。」


あまりにも退屈な質問に決まりきった答え。


不眠症の俺が眠くなりそうだったがなんとか耐えた。


「じゃあ採用で。」


あまりにあっさりと伝えられた。


こうして無事に合格し、晴れて俺はバイト学生になった。



——————



機材と教科書が入ったバッグ。


初日は気づかなかったが、異様に重かった。


ギターと機材を担いで学校に行くと言うのはとても重労働だった。


俺はため息をつきながら席へ着く。


「随分と重そうだね。」


松木さんは汗ひとつかいていなかった。

対して俺はビショビショだ。


「ああ、楽器の機材が入ってて。」


「放課後、何かやってるのかい?」


「バンドメンバーと録音してるんです!」


美玖が割り込んでくる。


「それはいいね。仲間は大事にしたほうがいい。」

「一生の宝になるかもしれないものだから。」


「はい。ありがとうございます。」


———うぇぇーん!


突然後ろの子供が泣き始めた。


「ごめんなさい。静かにして風香。」


金髪の母親は慌てて、宥めている。


「はは。大丈夫。子供は泣くのが仕事だよ。」


「そうですよ!気にしないでください!」


松木さんも美玖も笑っている。


俺はいないいないばあで対抗する。


泣く子も黙らすぐらいには、変顔には自信があった。


「……。」


赤ちゃんは泣き止んだが黙りこくってしまった。


……そんなブサイクだったか俺。


———ふふっ。


隣をちらっとみると母親が笑っていた。


「ごめんなさい。つい。」


「俺、スベってました?」


「いや、全力すぎて面白くて。」


「普通そんな全力でやらないでしょ。」


美玖は若干引いている感じで言った。


「はっはっは。」


松木さんも笑い始めた。


「いないいないばあは緩急だろ。全力じゃないと差が作れねえよ。」


自分の中での当たり前は、みんなとは違う。

いないいないばあでも思わされるとは。


「なんでそんなにいないいないばあに本気なの?」


美玖は爆笑している。


「じゃあお前やってみろや!」


「いいよ。」


美玖も全力のいないいないばあを披露する。


「えへへ。」


赤ちゃんは笑った。


「おい。赤ちゃんにもルッキズムってあんのか。」


美玖は確かに美人だが元の顔との落差が笑いになるなら、俺はいないいないばあで美玖には勝てない。


「ほら見たか。」


美玖はドヤ顔する。


「自分の彼女の全力変顔って、なんか引くな。」


「ひどーい。」


また母親が笑い始める。


そして教室も笑い声に包まれた。


「お前、面白いな!」


「彼女もおもしろーい!」


「てか彼女美人すぎ!」


「ただのバカップルじゃないな。」


様々な声で溢れている。


———ガラガラ。


「あら珍しく賑やかね。」


教師が入ってくる。


「内村くんと中谷さんが面白くて。」


一人の女子が伝える。


「それは知らなかった!」


「「面白くないです!!」」


また爆笑。


「まあ仲良くなったならよかったわ。」


「じゃあ授業を始めるよ。」


全員が切り替えて準備に入る。


さっきまでの賑やかさが嘘のよう。

ここは普通の高校とは違った。


「ねえねえ。」


急に背中を叩かれる。


「さっきはごめんね。内村くん。」


「いや大丈夫。」


「おかげでこの子も落ち着いたからありがとう。」

「私は高野遥香。よろしくね。」


「よろしく。」


全くもって不本意ではある。

この一件で放課後まで色々な奴と話すことになった。


友達なんて、全力でいないいないばあをしただけでできてしまった。


でも美玖が嬉しそうだった。


それならいい。



——————



「疲れた……。」


正直言って俺は友達は今いるだけで十分だ。

あんなに話しかけられたら息つく暇もない。


「そりゃ災難だったな。」


一部始終を聞いた、康成が笑う。


「ごめんね。私はすごい助かったし嬉しかったけど。」


「それならいいよ。」


「じゃあ俺はRECの続きだ。」


康成はヘッドフォンをつけた。


「ドラムは見つかりそう?」


美玖は唐突に聞いてくる。


「いや、全くだ。」


高校生のドラマーなんて、本当に見つからない。


「マジで困ったよ。」


「他に方法ないの?」


「ライブハウスとかスタジオで張り紙かな。」


「求人募集みたい。」


俺たちにとってはホットなツッコミ。


「実際は人脈に頼るのが一番だけど……。」


「やっぱりバイト先の人にまた声かけてみようか。」


「いやさすがにそこまではいいよ。」


組んでもサポートでってオチは避けたい。


「うーん。やっぱり曲作りかな。」


「曲作り?」


「こんな曲やるぜ!ってもっと提示しないと。」

「あいつに笑われたしな。」


「あいつ?」


「ああ。実は……。」


俺は教習所での出来事を話した。


「何そいつ、感じ悪い!私、そいつ嫌い!」


美玖はなぜか俺より怒っていた。


「一生懸命な人を笑うとか絶対許せない。」


「ありがとうな。でもキレすぎ。」


こいつが怒ってくれるから、俺は助かってる。


———できたー!


康成が雄叫びを上げる。


「おお、お疲れ。」


「二人とも聴いて!」


康成は再生ボタンを押す。


マットに憧れている康成。


でも、康成の音だった。


出るとこは出る、引くとこは引く。


彼の性格そのもののようなベースラインだった。


負けていられない。

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