4話 いないいないばあ
「こちらの待合室で授業まで待ってて。」
係員は案内をしてとっとと去っていった。
派手男は不機嫌そうにベンチに座っていた。
「ギターやってるんですか?」
つい話しかけてしまった。
「なんだお前。」
予想通りの返答。
「俺もギターやっててさ。音楽好きなのかなって。」
派手男はジーッと俺を見て言う。
「音楽に命かけてる。」
「俺もプロ目指してやってるんだ。」
「音源は?」
「……いや、今作ってる。」
「ふっ。」
そう言ってベンチから去っていった。
『おい、あいつ殺していいか。』
待て。
『舐めた態度とりやがって。』
まあ、あんなもんだ。
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「やな人だね!」
美玖はプリプリする。
「そんなもんさ。」
日課の電話ももう面倒とは思わなくなっていた。
「バイクはどうだった?」
「気持ちよかったよ。慣れたら大丈夫そう。」
「よかった。バイクで一曲作れるんじゃない?」
「なるほどな。でも今作ったら教習所の歌になるな。」
美玖は笑っている。
「そっちこそバイトどうだよ。」
「学生さんが多い時間だから、話はしてるよ。」
「おお、よかったじゃん。」
「ドラマーの人も話したら怖い人じゃないし。」
「何より女子で話できる子ができたのは嬉しい!」
「学校でも女子の友達できるといいな。」
「うん!頑張るよ!」
「じゃあ明日、面接行ってくるわ。」
「いってらっしゃい。」
そう言って電話を切った。
履歴書なんて書いたのは初めてだった。
“編入”という文字を見ると切なかった。
——————
どこにでもあるコンビニ。
面接を伝えると、店員は少し驚いたように裏へと入っていった。
「ではこちらへ。」
店員は狭い店の裏へ案内する。
そこには初老のおっさんが座っていた。
「良くきてくれたね。」
「よろしくお願いします。」
「私がここのオーナーです。」
フランチャイズの店。
脱サラして始めたって感じの風貌だった。
「松永裕樹と申します。」
「はい。こちらこそ。」
「履歴書もらってもいいかな。」
初老のおっさんは内容の薄い履歴書を確認していった。
「では面接を始めますね。」
「よろしくお願いします。」
あまりにも退屈な質問に決まりきった答え。
不眠症の俺が眠くなりそうだったがなんとか耐えた。
「じゃあ採用で。」
あまりにあっさりと伝えられた。
こうして無事に合格し、晴れて俺はバイト学生になった。
——————
機材と教科書が入ったバッグ。
初日は気づかなかったが、異様に重かった。
ギターと機材を担いで学校に行くと言うのはとても重労働だった。
俺はため息をつきながら席へ着く。
「随分と重そうだね。」
松木さんは汗ひとつかいていなかった。
対して俺はビショビショだ。
「ああ、楽器の機材が入ってて。」
「放課後、何かやってるのかい?」
「バンドメンバーと録音してるんです!」
美玖が割り込んでくる。
「それはいいね。仲間は大事にしたほうがいい。」
「一生の宝になるかもしれないものだから。」
「はい。ありがとうございます。」
———うぇぇーん!
突然後ろの子供が泣き始めた。
「ごめんなさい。静かにして風香。」
金髪の母親は慌てて、宥めている。
「はは。大丈夫。子供は泣くのが仕事だよ。」
「そうですよ!気にしないでください!」
松木さんも美玖も笑っている。
俺はいないいないばあで対抗する。
泣く子も黙らすぐらいには、変顔には自信があった。
「……。」
赤ちゃんは泣き止んだが黙りこくってしまった。
……そんなブサイクだったか俺。
———ふふっ。
隣をちらっとみると母親が笑っていた。
「ごめんなさい。つい。」
「俺、スベってました?」
「いや、全力すぎて面白くて。」
「普通そんな全力でやらないでしょ。」
美玖は若干引いている感じで言った。
「はっはっは。」
松木さんも笑い始めた。
「いないいないばあは緩急だろ。全力じゃないと差が作れねえよ。」
自分の中での当たり前は、みんなとは違う。
いないいないばあでも思わされるとは。
「なんでそんなにいないいないばあに本気なの?」
美玖は爆笑している。
「じゃあお前やってみろや!」
「いいよ。」
美玖も全力のいないいないばあを披露する。
「えへへ。」
赤ちゃんは笑った。
「おい。赤ちゃんにもルッキズムってあんのか。」
美玖は確かに美人だが元の顔との落差が笑いになるなら、俺はいないいないばあで美玖には勝てない。
「ほら見たか。」
美玖はドヤ顔する。
「自分の彼女の全力変顔って、なんか引くな。」
「ひどーい。」
また母親が笑い始める。
そして教室も笑い声に包まれた。
「お前、面白いな!」
「彼女もおもしろーい!」
「てか彼女美人すぎ!」
「ただのバカップルじゃないな。」
様々な声で溢れている。
———ガラガラ。
「あら珍しく賑やかね。」
教師が入ってくる。
「内村くんと中谷さんが面白くて。」
一人の女子が伝える。
「それは知らなかった!」
「「面白くないです!!」」
また爆笑。
「まあ仲良くなったならよかったわ。」
「じゃあ授業を始めるよ。」
全員が切り替えて準備に入る。
さっきまでの賑やかさが嘘のよう。
ここは普通の高校とは違った。
「ねえねえ。」
急に背中を叩かれる。
「さっきはごめんね。内村くん。」
「いや大丈夫。」
「おかげでこの子も落ち着いたからありがとう。」
「私は高野遥香。よろしくね。」
「よろしく。」
全くもって不本意ではある。
この一件で放課後まで色々な奴と話すことになった。
友達なんて、全力でいないいないばあをしただけでできてしまった。
でも美玖が嬉しそうだった。
それならいい。
——————
「疲れた……。」
正直言って俺は友達は今いるだけで十分だ。
あんなに話しかけられたら息つく暇もない。
「そりゃ災難だったな。」
一部始終を聞いた、康成が笑う。
「ごめんね。私はすごい助かったし嬉しかったけど。」
「それならいいよ。」
「じゃあ俺はRECの続きだ。」
康成はヘッドフォンをつけた。
「ドラムは見つかりそう?」
美玖は唐突に聞いてくる。
「いや、全くだ。」
高校生のドラマーなんて、本当に見つからない。
「マジで困ったよ。」
「他に方法ないの?」
「ライブハウスとかスタジオで張り紙かな。」
「求人募集みたい。」
俺たちにとってはホットなツッコミ。
「実際は人脈に頼るのが一番だけど……。」
「やっぱりバイト先の人にまた声かけてみようか。」
「いやさすがにそこまではいいよ。」
組んでもサポートでってオチは避けたい。
「うーん。やっぱり曲作りかな。」
「曲作り?」
「こんな曲やるぜ!ってもっと提示しないと。」
「あいつに笑われたしな。」
「あいつ?」
「ああ。実は……。」
俺は教習所での出来事を話した。
「何そいつ、感じ悪い!私、そいつ嫌い!」
美玖はなぜか俺より怒っていた。
「一生懸命な人を笑うとか絶対許せない。」
「ありがとうな。でもキレすぎ。」
こいつが怒ってくれるから、俺は助かってる。
———できたー!
康成が雄叫びを上げる。
「おお、お疲れ。」
「二人とも聴いて!」
康成は再生ボタンを押す。
マットに憧れている康成。
でも、康成の音だった。
出るとこは出る、引くとこは引く。
彼の性格そのもののようなベースラインだった。
負けていられない。




