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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 7章 背中を追って
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3話 加速

カーテンを開ければ、まだ暗闇と朝焼けがせめぎ合っていた。


しかし目はしっかりと開いている。


「5時か。」


遠足当日の小学生みたいだ。


もう眠れはしないし、ベッドに座ってギターを弾く。


「今日で全部機材揃うかな。」


一人呟くが、一人ではなかったようだ。


『レフティベースがあるかどうかだな。』


確かにな。


レフティは希少だ。

店に一本置いてあるかどうか。


何店舗か回る覚悟はいるだろう。


『あとギターはそのハコモノの安いのでいくのか。』


失礼だな。


これは俺の相棒だ。


『もっといい音を探すべきだろ。』


金の問題もある。


ここまで一気に揃えるとなると、流石に金がない。


『いきなりハコモノ買うからだ。』


好きだからしょうがないだろ。


『レスポールとかを買うべきだろ。パンクロックなら。』


……。


『まあいい。しっかりバイトしていいものを買うことだ。』


言われなくても。


それから親父が起きるまで、異常に長く感じた。


途中で起こそうか迷ったが1週間の疲れを考えると、肩を揺らせなかった。


親父が起きたのは、10時になった頃だった。


「おはよう!」


「おはよう……。」


「今日頼むね。」


「おう……。任せろ……。」


親父は眠そうに答える。


申し訳ないがもう待つのは懲り懲りだった。


「準備終わってるから行ける時、声かけて。」


ギターを弾きながら、30分ぐらいか。


親父が顔を出した。


「行こうか。」


「頼むわ。」


車に乗って天神へ。


今に始まった事ではないが、俺は天神が嫌いだ。

というより人ごみが大嫌いだ。


それでも今日ばかりは胸が躍った。

まずは、パソコンを探し家電量販店へ。


MacBook AirとLogic。


これで十数人の諭吉が飛ぶ。


諭吉に別れを告げて、楽器店へ。


オーディオインターフェース、マイク、ヘッドフォン、その他コード類でまたも数人の諭吉が飛んだ。


しかしその店にレフティのベースはなく、地下街を通って次の店へ。


ワクワクより、財布が軽くなる現実の方が勝っていた。


着いた店はこの辺では一番、品揃えが良い楽器店。


「ねえな。」


ベースコーナーを見て落胆する。


「別の店探しいくか?」


親父は自分のギターを探しながら言う。


「ああ。……あ?」


「どうした?」


「中古フェアが別の階であるらしい。」


「中古?良いのか?」


「背に腹は変えられないし。」


「わかった。」


俺たちはエレベーターに乗って最上階へ上がった。


だだっ広い空間にギターとベースが並べられている。


値段は様々だが、基本的に普段見るものより0がいくつか多い。


「あれ左利きじゃね?」


親父は奥を指差す。


そこには青色のベースがあった。


「レフティをお探しですか?」


髭を生やした男の店員が話しかけてきた。


「はい。」


「あちらはお値段も手頃で良いですよ。」


60,000円。


全く手頃ではない。


「Fender MexicoのJazz Bassです。」

「ノブがストラトのものに変えてありますが、それ以外はオリジナルです。」


「ネックの反りとかは?」


「整備もしていますし、コンディションはいいです。」


「試奏していいですか?」


「もちろんです。」


店員はアンプをセットし、ベースを俺に渡す。


ギターとは全く違う。


デカい。


重い。


ピックで音を鳴らす。


———ブーン。


重くズッシリとくる低音。


「これだな。」


「いいじゃん。買う?」


親父は軽く聞いてきた。


正直、高い。


でも今、買わなければRECが進まない。


財布を見る。


大きく深呼吸をした。


「……買う。」



——————



隣り合ったギターとベース。

スタンドマイク、パソコン。


機材を並べる。


もう高校生の部屋には見えなかった。


———ピロン。


美玖からの電話。


「もしもし?」


「もしもし。」


「機材買えた?」


いきなりだな。


「買えたよ。痛い出費だけど。」


「バイト始めるからいいじゃん。」


「まあな。」


「そういえば今日、バイトで話しかけたよ。ドラマーの人。」


「どうだった?」


「もうバンド組んでた。」


「そりゃそうだよな。」


「まあしょうがないよね。」


「とりあえずはネットで探してみるわ。」


「うん。それしかないんじゃない?」

「それより、明日のデート覚えてる?」


「覚えてるよ。」


忘れていた。


「じゃあ明日、博多駅に11時ね。」


「おう。任せろ。」


ただ、今日買ったばかりの機材を前に、触らないなんて無理だった。


ついドラムの打ち込みを始めてみた。


すると気付けば朝方だった。


そのことは美玖には内緒のまま、デートへ向かった。



——————



「やっぱダメだったか。ドラマー。」


康成は意外とさっぱりしていた。


「うん。さすがにもうバンドやってた。」


「こっちもネットで探したけど、おっさんばっかりで。」


「康。もう探したのか?」


「善は急げだ。」


康成はドヤ顔している。


「やっぱ高校生で探したいよな。」


「だよねー。」


美玖もなぜか乗ってくる。


「なんでお前もなんだよ。」

「私の友達になるわけだし。」


「それは決定なんだ。」


康成は笑っている。


「辛抱強く探すしかねえな。」

「てかさ。ドラム打ち込んだから康、ベースRECして。」


俺は買ったばかりのパソコンとオーディオインターフェースを出す。


「いきなり持ってきたのか。」


「そりゃそうだろ。」


「いいね。あれ、ギターと歌は?」


「まだ。リズム隊が先だろ?」


「なるほど。」


康成はヘッドフォンをつけて、RECを始める。


「そういや蓮介、バイトどうするの?」


美玖が聞いてくる。


「バイクの免許が水曜で、バイトの面接が木曜。」


「おー。そこまで決まったんだ。」


「コンビニだから面接まで早かったよ。」


「でも意外だった。蓮介がコンビニって。」

「接客苦手そう。」


ニコニコするのは得意“だった”し。


「やろうと思えばできるよ。飲食よりマシ。」


「ダメだよ。楽しようとしちゃ。」


美玖は偉そうに言う。


「楽して稼げるなら一番だろ。」


「仕事舐めてたら痛い目みるよ。」


「言うね。」


「そりゃ働いてますから。」


———「うわー上手くいかねえ!」


急に康成が叫ぶ。


「「びっくりした……。」」


「全然上手くいかねえんだけど。」


「そうなん?」


「蓮介もやったらわかる。全然納得いかん。」


「へー。」


「てか普通自分が先にやるだろ。」


康成は笑う。


確かに機材買ってまず人にRECさせる人間はいなさそうだ。


「まあ焦るなよ。また金曜持ってくるしさ。」


結局、康成はその日にRECを終えられなかった。



——————



広いとはいえない場所に車が所狭しと並ぶ。

人がいっぱいでガヤガヤとうるさい。


そこにいるほとんどが俺より少し年上で、疎外感を感じる。


ただ俺が183cmの老け顔なだけあって、馴染んではいるんだろうが。


「こちらへどうぞ。」


二輪免許の俺は、係員に連れられ別館へ。


別館への橋を渡り終わると、明らかに背が小さく幼く見える少年が立っていた。


赤髪で、耳にも口にもピアス。


——派手なやつだな。


「……え。」


肩にはステージパスが何枚も貼られたギターバッグ。


同じ音楽をする人間ならわかる。

あいつは危険だ。

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