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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 7章 背中を追って
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1話 スタートライン

「オーライ。オーライ。」


一人暮らしの家財量には見合わない大型トラックが、小さなアパートに止まる。


「ご家財は以上になります。」


「ありがとうございます。」


トラックから出された家財は少なく、ほとんどはまだ乗っている。


相乗りによって値段を下げた結果だった。


家財だらけの部屋で大の字で横になる。


レスポール、シェラトン、レスポールJr、テレキャスター、エレアコ、ベース。


部屋の半分は楽器に占領されていた。


こう見れば圧巻だった。


ここからだな。


『やっとスタートラインだな。』


そうだな。


『今までは学生と言い訳できたがもうそうはいかない。』


わかってるよ。


『金は自分で稼ぎ、ダメなら落ちるだけだ。』


そういう世界だ。


『お前は周りを蹴落としてまで上に上がれるか。』


蹴落としたりはしない。

俺たちは俺たちのやり方でやるだけ。


『それが通用するかな。』


今までもそうやってやってきたんだ。


『ここは東京だぜ。そんな甘くはないだろ。』


ああ。でも俺たちなら……。


『希望的観測だ。』


信じなきゃ始まんねえんだよ。


『そこまでいうならやって見せろ。』


———ピーンポーン。


「おう。お前ら開いてるぞ。」


3人はわらわらと入ってきた。


「おい狭えな。」


「片付けぐらいしとけよ。」


類と楓は好き勝手に言いやがる。


「手伝いに来たんだろ?」


「俺らは冷やかしに来たんだよ。」


類は笑っている。


「じゃあ帰れ。」


「まあまあ。」


楓も悪い顔をしていた。


「おい、蓮。このダンボールは機材か?」


そんなやりとりをしてる最中でも、康成はもう動き始めていた。


「内容は右に書いてんだが……それはキッチン用品だ。」


「じゃあキッチンに置いとくぞ。」

「ほら、お前らも言ってねえでやるぞ。」


「あいよ。」


「ああ。」


渋々二人は作業を始めた。


1人分の荷解きは4人でやれば2時間も要らなかった。


「あーできた。」


楓と類は酒盛りを始めている。


「助かったよ。お前ら。」


「気にするな。昨日はお前が手伝ったんだから。」


康成は笑った。


「しっかしバンドマンの部屋って感じだな。」


楓はビールを飲みながら言った。


機材が所狭しと並び、それ以外は必要最低限。

そう言われても仕方ない部屋だった。


「まあ俺らみんなそんなもんだけどな。」


ウィンストンを咥えた類が笑う。


「おい類。ベランダな。部屋で吸うな。」


「まじかよ。なんで?」


「部屋出る時、金取られたくねえからな。」


「えーだる。」


渋々類はベランダへと出ていった。


「蓮。明日は美玖ちゃんの迎えに行くんだろ?」


康成はハイボールを持ちながら言う。


「ああ。そのままうちに泊めて、次の日荷解きだ。」


「仕事は?」


「来週の頭からだな。」


「バンド活動はどうする?」


「来週の週末じゃね?」


楓が割ってはいる。


「だな。」


「何お話し?」


遅れて部屋に入ってきた類がちょけながら聞く。


「来週末にスタジオ入ろうって。」


康成は説明する。


「いいとこ調べといてくれないか?類。」


「ああ。そういうのは任せろ。」


「いよいよ始まるな。」


俺は3人を見回して言う。


全員笑顔だ。


「こっから駆け上がるぞ!」


楓は酒のせいか目がキマっている。


「じゃあ今日はパーティだな。」


類はそう言って冷蔵庫へ向かう。


それぞれに酒の缶を持つ。


「音頭やれよ。リーダー。」


「類、こういう時だけ俺に振るなよ。」


リーダーなんて名乗った覚えはない。


「確かにお前がやるべきだな。」


楓も賛同する。


「おいおい。ライブの時はいつも楓じゃんか。」


「こういう時は蓮介の方がいいんじゃない?」


康成も背中を押してきた。


「俺らは蓮介についてきてんだ。」


楓はニヤリと笑う。


「いじってんのか。」


「ほらほらやるぞ。」


康成が割ってはいる。


はあ。こういうの向かないんだよな。


『俺がいるだろ。』


これは音楽関係ねえだろ。


『ライブは誰が盛り上げてる?』


うるせえ。


『締まんなけりゃ士気に関わるぜ。』


わかったよ。


「『さあ東京だ!お前ら、こっからノンストップで行くぞ!』」


「「「おぉ!」」」



——————



ベッドに横になり、天井を見上げる。


今日のことが夢ではないかと思う。


このまま起きたら、美玖も康成もいなくて……。


でもこんな時だけ眠たい。

子供と遊ぶのは、なかなかのハードな肉体労働だ。


疲れて寝る。


単純な話。


今日は頭まで疲れたらしい。


怖いけど、もうだめだ。


俺は眠りについた。



——————



目が覚める。


気持ちいいほどにスッキリと。


「おはよー。」


2時間ほど前に来ていた美玖からのLINEを見て、安堵する。


———ピロン。


「やってるか?」


康成からもラインが来る。


夢などではない。

だとしたら俺もシャキッとしなければ。


今日こそ親父に話をしよう。


そしてちゃんと音楽をやりたいって言おう。


それと……。


落ち着かない気持ち。


これを乗り越えられないようじゃ、俺に音楽はできないだろう。


覚悟を決めて親父を待った。


太陽が沈むのがやけに遅く感じる中、ギターも手につかぬまま、辺りは暗くなっていた。


———ガチャ。


玄関のドアの音がする。


「ただいま。」


階段を上がってくる音は、身を隠したいほどに大きく聞こえた。


「おかえり。」


「おう。」


親父は邪魔そうにネクタイを外していた。


「あのさ、曲できたけん、聴いてくれん?」


「へーできたとや。聴く聴く。」


俺は335を自分の部屋から持ってくる。


親父は椅子に座ってタバコを吹かしている。


俺は大きく息を吸い、ピックを弦に思い切り叩きつけた。

そして、部屋の1人に聴かせるには大きすぎる声で叫んだ。


ビビって演奏するよりも、100%でいったほうがいい。

当たって砕けろだ。


たった3分半の曲が永遠のように感じた。


「うーん。」


親父はいつもより大きくタバコを吸って吐き出す。


「まだまだギターも歌も荒い。」


「そうだろうね。」


「ただ上手くはなったし、曲もちゃんと形にはなってた。」


「そっか。」


上向に力が入る口元を無理矢理下げる。


「もう少し抜くとこは抜けばいい。詰め込みすぎだ。」


「詰め込みすぎ?」


「余白が欲しい。歌詞もギターも。」

「今は鳴らし過ぎだ。」


「鳴らしすぎ……。」


「まあ若いからそれでいいけどな。」


俺にはわからない感性だった。


「あのさ親父。聞いてもらっていいか。」


俺は親父に向き直る。


親父はタバコを吸いながら、俺の方を向く。






「俺、音楽で生きていきたい。」






「そうか、いいんじゃない。」


あまりにも軽い返答に拍子抜けした。


「いいの?」


「いいもクソもないだろ。」

「お前が決めることだ。」


「いや、そうなんだけど。」


「反対して欲しかったのか?」


親父はそう笑った。


「そんなことないけど。」


「じゃあ、いいじゃん。」


「あと今度、楽器屋で機材揃えるの付き合ってくれる?」


「いいけど、何買うと?」


「録音機材一式とベースかな。」


「まあいるわな。」

「金は?」


「小遣いを使わずに残してる。多分足りる。」


「そうか。」


親父は自分のものは自分で買えというスタンスだ。


だからこそ。


「それとお願いが。」


「お願い?」


「バイクの免許取りたい。」


「へえ。いいね。」


「でもさすがに金がない。」


「ああ。教習所代は出してやるよ。」


「え。」


あまりにあっさりとした返答でまた拍子抜けした。


「んでバイク代は金貸してやるから、後で返せ。」

「だからしっかり働け。」


「バイトもする予定だったから。」


「当たり前だ。」

「ただ免許取ってからでいい。」


「うん。」


「じゃあ今週の土曜でも行くか。」


「ありがとう。」


親父はもう次のタバコに火をつけていた。


さっきまでの緊張が嘘みたいだった。


やっぱりこの人には敵わない。


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