7話 同じタイプ?
朝、いつも通り美玖を最寄駅で待つ。
何度来ても混雑に慣れない。
どころか電車への苦手意識が増えるばかりだ。
今日も勇者が改札から出てくる。
「おはよう!」
「おはよ。」
美玖は不意に手を握ってきた。
「大丈夫?」
上目遣いはやめてほしい。
「大丈夫だよ。心配かけたな。」
俺は美玖の頭をなでた。
お返しだ。
「……。」
美玖は照れている。
勝ったとか思っていると、ふと周りの目に気づいて手を離す。
またバカップルをやってしまっていた。
「いくぞ。」
慌てて学校へ向かう。
「そういえば、面接日決まったよ。」
「ファミレス?」
「そうそう。今週の水曜日。」
「いいな。俺も始めようかな。」
「えっ、うちくる?」
「まだ受かってねえだろ。」
「一緒に働こうよ!」
「バイト先でもバカップル扱いはごめんだな。」
「えー。」
美玖は膨れている。
「とりあえず、バイトとバイクは一年のうちに取りてえな。」
「どっちか先にしないと、大変だよ。」
「だな。バイト代貯めてバイクかな。」
「バイクまで遠そう。」
「それは考えないようにしとくわ。」
美玖とは何時間でも話せる。
気づいたら学校に着いていた。
——————
だいぶ学校にもなれてきた。
おかげで授業中、眠気はMAXだ。
それをなんとか乗り越えて放課後へとたどり着いた。
松木さんと別れ2階へと向かう。
今日は2階から重低音は聞こえない。
自分の心臓の音だけがやけに大きく響く。
「緊張してる?」
「そりゃそうだろ。」
話しかけてくれるだけで救いだった。
「大丈夫だよ。」
なんの根拠もないが美玖に言われると、そんな気がする。
いつもそうだ。
「まあ当たって砕け散るさ。」
「散っちゃダメだけどね。」
ボケる余裕はあって良かった。
扉をノックしてみる。
「おう。入ってこいよ。」
康成の声だった。
ドアを開ける。
「早かったな。」
「そうか?」
康成はベースを出しているところだった。
「この前は悪かったな。」
「いや、気にしてないよ。」
「……。」
今までにはなかった沈黙が流れる。
「蓮介、俺とバンド組んでくれないか?」
俺はただ驚くことしかできなかった。
——————
「どうなの蓮介?」
ニコニコしながら、美玖が聞いてくる。
計ったなこいつ。
「いや、それは俺が言いたかったっていうか……。」
悔しいけどモゴモゴしてしまった。
「いいの?悪いの?」
美玖はガンガン来る。
こっちの気持ちも知らないで。
「もちろん。いいに決まってる。」
歯切れは悪かった。
「じゃあバンド結成だね!」
「なんでお前が取り仕切るんだよ。」
「だって私はキューピットだよ。」
「厚かましいな。」
「康成もなんとか言えよ。」
「いや、実際助けられたから。」
グルか。
二人して。
「よしわかった。とりあえず全部話せ美玖。」
「えー。私?」
「そりゃそうだろ。」
美玖は順を追って話し始めた。
結局は見事にお膳立てしてくれていた。
「そうか。ありがとな美玖。」
「こっからは俺がやるよ。」
ここまでやられて今更かもしれないが、俺もキチンとしなきゃ格好がつかない。
俺は自分のことを全部話した。
昔、美玖に話したように。
「じゃあ俺の番だな。」
全て話し終えた頃、康成は少し深く座り直して言った。
「もし良かったら、俺の家来ないか?近いからさ。」
「いいけど、なんで?」
「そっちの方がわかりやすいと思う。」
「美玖ちゃんもどう?」
「私もいいの?行くー!」
美玖。
多分そのテンションじゃない。
「どんなバンドをイメージしてんの?」
康成は歩きながら聞いてきた。
「オリジナルでパンクかな。」
「だよな。」
「今はこの前の曲を中心にポップパンクやポップロックのアルバムを作ろうと思ってる。」
「いいね。最高。」
「そのためには録音機材を買わないとさ。」
「まだ持ってないんだ?」
「持ってんの?」
「いや持ってない。」
「あんな曲書けるんだから持ってるもんだと。」
「まだ2曲しか書いたことない。」
「マジかよ!」
康成の声が路上に響く。
学校を出てから10分ほど。
「ここだよ。」
「明日葉園……?」
美玖はそっと呟く。
「……。」
美玖は言葉を失った。
「児童養護施設か。」
俺は確信した。
「ああ。」
「康兄〜!」
小さい子供たちが康成に飛びつく。
「ただいま。」
「このひとだあれ?」
俺たちを指差している。
「こんにちは。康成くんの友達だよ。」
「よろしくな。」
美玖は目線を下げて挨拶する。
俺も同じように続く。
俺はもとよりだが、美玖も子供好きで良かった。
「ごめんみんな。友達と話したいから行くな。」
康成は子供達に言い聞かせる。
「にいちゃん、おっきいね。あとであそんで!」
「また後でな。」
俺は笑顔でそう言った。
——————
俺たちは、小さな応接室のような部屋へ案内される。
「面接でもすんのか。」
「自分の部屋だと落ち着かないからな。」
康成は笑った。
「康成はいつからここにいるんだ?」
「生まれてすぐ。」
康成は麦茶を出しながら言った。
俺たちは少し黙ってしまった。
「親が事故で。」
「おじいちゃんとかは?」
美玖が不思議そうに聞いた。
「祖父母もすでに亡くなってて、親戚も引き取り手がなくてね。」
「そうなんだ。」
美玖は少しだけ寂しそうな顔をした。
「ここはいいとこだよ。感謝してもしきれない。」
康成はそう言って笑った。
「そっか。」
美玖も優しく微笑んだ。
「なんで通信制に?普通の高校に行く選択肢もあっただろ。」
「働く時間が取れるからな。」
「でもうちは学費高いだろ?」
「いや俺は補助受けてるから。」
「なるほど。」
「まあ教材費とか交通費とかはあるけどな。」
康成は苦笑いした。
「せっかくなら全部出せって話だよな。」
二人は笑っていた。
「じゃあここを出た後の将来のために働いてるのか。」
「ご明察。」
「こんなことで俺が断るとでも思ったのか?」
「思わない……。いや、さっきまでは思ってたかも。」
「さっきまで?」
「蓮介の話聞いて大丈夫だと思った。」
「だろ。」
俺は笑った。
「でもそれだけじゃない。」
「蓮介、お前はプロになりたいか。」
「……。」
康成は返事を待っていた。
簡単に返事ができる質問ではない。
康成のことを知れば尚更だ。
「……。」
「確証なんてないのはわかってる。」
「でも俺はここで決めたら後には引けない。」
なかなか答えない俺に耐えかねて康成が口を開いた。
「……。」
「そういう気持ちがあるか知りたいんだ。」
「お前の曲を聴いた時、衝撃が走った。」
「お前とならいける気がする。」
「……。」
「でもそれは俺が決めれることじゃない。」
「だから聞いてみたかった。」
「重くてごめんな。」
康成は笑った。
「俺も目指すところは変わらない。」
「でも操り人形になってまでプロにはなりたくない。」
「実力でやれるアーティストになる。」
俺は本心を伝えた。
しばらく沈黙が流れた。
康成は笑った。
俺も笑った。
「じゃあ大丈夫だね!」
やっと美玖が声を出した。
ドアが外から音がする。
「ったく。」
康成がドアを開けると子供達が盗み聞きしていた。
「こら。待ってろって言っただろ。」
「だって康兄の友達初めてみたんだもん。」
男の子がそう叫ぶ。
「ははっ。そうだな。」
「ねえ、もう遊べる?」
「いいね。俺たちも入れてくれるか。」
俺がそういうと子供たちの目が輝いた。
「いいのか?」
康成は少し申し訳なさそうだった。
「いいに決まってるだろ。な?」
「うんうん。」
美玖はもう子供を触りまくっている。
「じゃあ遊ぶか。」
「悪い。先にトイレ借りていいか?」
「奥の角な。」
そう言うと美玖と康成は外へ出ていった。
トイレで用を足すと外に中学生ぐらいの子供達がいた。
「お兄ちゃんは本当に康兄の友達ですか?」
明らかに疑っている目だった。
「そうだよ。」
「康兄に嫌なことしたら私たちが許しませんからね。」
その中の女の子が意を結したように言った。
「心配すんな。アイツはそんなやわじゃねえよ。」
俺は笑った。
そして引かれた。
「もしそんな奴がいたら俺がぶっ飛ばすし、俺がやったら俺を殺していいぜ。」
必死な姿につい怖がらせたくなった。
「こらっ。何やってるの?」
職員らしき人に言われてそそくさと子供達は離れていった。
「ごめんなさいね。」
初老の女性だった。
「いえ。」
「康成は下の子たちの面倒をよくみるし、あんなふうに慕われてるんです。」
女性は外で鬼ごっこをする康成を見る。
「そんな気はしてました。」
「本当に頼りになる子なんです。」
アイツがここでやってきたことの大きさを感じた。
「そんな康成が初めて友人を連れてきたので、すごく嬉しくて。」
「康成をよろしくお願いします。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
子供の中で笑う康成を見て、この笑顔を絶やさないようにしないと。
そう思った。
バンドは一人じゃない。
背負うものが一つ増えた。
でもその重さは心地いい。




