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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 6章 同じタイプ?
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39/41

4話 重

「話しかけなきゃ!」


美玖は背中を何度も叩く。


「いきなりなんて話しかけるんだよ。」


「俺もギターやってるんだけど?って」


声を低くして言う。


「似てねえよ。」


「ほらいいから!」


背中を物理的に押される。


「待てって。」


男は校舎の中へ消えていった。


「あーあ。いっちゃった……。」


———助かった。


「だから無理だって。」


「共通の話題があるだけいいじゃん。」


「だからこそだよ。」


「だからこそ?」


「共通だからこそやり辛い。」


「言い訳。」


美玖は呆れたように言う。


「ふふっ。」


あまりの図星に笑ってしまった。


「なんで笑ってるの?」


「やっぱ美玖は騙せねえな。」


「そりゃ蓮介のこと知ってるからね。」


ない胸を一生懸命、張っている。


「怖いんだよ。」


ついこぼれてしまった。

女の前で情けない。


「ごめん。そうだよね。先走った。」


「いや、俺がビビっただけだ。」


そう言うしかなかった。


昼食を済ませた俺たちは、再び戦地へと赴いた。



——————



「では次は金曜日に。」


教師は名簿を閉じる。


結局俺たちは、誰かと話すこともないまま、1日を終えた。


「あー終わった。」


自分でもどこから出たかわからない声だった。


「流石に疲れたね。」


美玖も机に突っ伏していた。


「部活見にいくんだろ?」


「そう!それが今日の一番の目的!」


美玖は立ち上がって拳を握る。


通信制のくせに部活動があるらしい。

説明会で校長が偉そうに話していた。


「美玖は何、見に行くんだ?」


「うーん。まだ決めてない。」


「何がやりたいかより、誰といたいかだろ。」


「うん!居場所を掴むんだから!」


たまにこいつが羨ましくなる。


俺もこんなふうに素直でいられたらと。


「一緒に行こう。俺も当てはないからさ。」


「うん!」


元々、通信制とあって人数が少ない。

その上、放課後の部活となれば人数は格段と減っていた。


普通の高校なら同好会レベルだろう。


サッカー部、野球部、陸上部、テニス部。

数少ない運動部。


研究部、商品開発部。

文化部に至っては意味不明な名前だった。


「こりゃ成り立ってるのが奇跡のレベルだな。」


一通り見た後に残ったのはこの感想だった。


「流石にショック。」


美玖は項垂れている。


「部活で居場所作りってのは無理そうだな。」

「やっぱりクラスでなんとかしないと。」


「そうだね。先が思いやられる……。」

「はあ……。」


重々しいため息。

朝とは打って変わって美玖は元気を失っていた。


疲れもあるだろうが、流石にここまで落ち込まれると俺も居た堪れない。


「ちょっとトイレ。」


「ああ。この辺で待ってるよ。」


近くにあったベンチに座る。


2時間睡眠で授業中寝なかったことを、誰かに褒めて欲しい気分だった。


目をつぶる。


心地のいい重低音。


「……チューニング中か。」


———チューニング?


俺の足は勝手に向かっていた。


2年生の教室。


———ブーン。


その重低音は高速のBPMに乗せてビートを刻み始めた。


それは共通するには細い道だった。


それでも俺との道が繋がっていた。


「NOFXのLinoleum。」


急にビートが止まる。

男はベースを弾くのをやめて振り返る。

黒髪に、彫りの深い顔立ち。

昼休みに見た男だった。


あのバッグの中身はベースだった。


「知ってるのか。」


「多少な。」


「珍しい。」


「こっちこそ、こんなとこで聴くとは思わなかったよ。」


「1年か?」


「ああ。」

「歳で言うなら2年だけど。」


「同い年か。」


なんか負けたくなかった。


「お前は何か楽器をやってるのか?」

「ただの音楽好きか?」


その目は、俺は確かめているように感じた。


「ギター。3年やってる。」


できるだけ言葉数は少なく。


「へえ。一緒だな。」

「何コピーしてんの?」


「まあBOØWYとか。」


パンクではなくロックの難易度が高いものを敢えて言った。


「BOØWYか。あんま聴かねえな。」


———ヤバッ。


「あとはGreen DayとかThe Offspringとか……。」


とにかくNOFXに近いバンドを慌てて言う。


「いいな。俺も好き。」


危なかった。


「アンタは?」


「言ったろ?俺も同じさ。」

「他で言うなら、レッチリとかかな。」


「ベーシストはそうか。」

「指でも弾くのか?」


「多少ね。」

「別にフリーに憧れてはないけど。」


男はベースを構え音を紡ぐ。


何度も聴いた一番好きなベースラインだった。


RancidのJourney To The End Of The East Bay


「Rancid好きなのか。」


男はにっこりと笑った。






「ティム最高だよな!」


「マット最高だよな!」





声が重なった。

うん?

聞き間違いか?


「Rancidといったらティムだろ。」


「いや、マットだろ。」


聞き間違いではないようだ。


「ティムの声とメロディが最高なんだろ!」


「いや、マットのベースラインが最高だ!!」


こればっかりは相容れないようだった。


「まあベーシストだとマットか。」


「ティムはフロントマンだしな。」


お互い我にかえる。


「そういやあんた名前は?俺は内村蓮介。」


「俺は森岡康成。よろしく。」


「こちらこそ。」


康成はベースをバッグにしまった。


「なんでここでベースを?」


「貸してもらってんだ。」

「うちじゃ音は鳴らせないからな。」


「一軒家でもなければそうか。」


「てことは内村の家は一軒家なのか。」


「蓮介でいいよ。」


「じゃあ俺も康成で。」


「……。」


何か後ろから視線を感じるが、先程とは一転して、会話がすごいスピードで進む。


「俺ん家は一軒家でさ。中型アンプがある。」


「すげえじゃん!買ったのか?」


「いや親父が元バンドマンでさ。」


「おーい!羨ましいな!」


康成は笑っている。


「うちじゃまともに練習できなくてさ。」


「そんな壁薄いのか?」


「いや、色々あってさ。」


康成は苦笑いした。


「てかベースプレベ?」


「フェンダーのプレベ。中古だけど。」

「蓮介は何使ってんの?」


「Epiphoneの335」


「ハコモノかよ。マジでティム好きだな。」


「ちなみにレフティーな。」


「やば。ガチじゃん。」





———「……ずるい。」





振り返ると教室の扉から美玖がのぞいていた。


「美玖。コイツは……。」

「ずるい!」





「……二人だけ仲良くなってずるい!」





「え……。」


康成と俺は顔を見合わせる。


「私も入れてよ!」


ごめん美玖。

可愛いと思ってしまった。


「康成、こいつは……。」


「中谷美玖。私は中谷美玖です!」


「ふふっ。」


康成は笑っていた。


「俺は森岡康成。2年だ。」


「同い年だよ。」


俺は補足を入れる。


「よろしく〜!」


美玖は手を握ってブンブンと振った。


若干、康成の顔が引いているのがわかった。


「まあ落ち着けよ。美玖。」


美玖は俺を睨む。


「蓮介酷い!私がいない間にめっちゃ仲良くなってるじゃん!」


「いや、それは言いがかりだろ。」


「聞いてよ!康成くん!」

「今日ずっとマイナスなことばっかり言ってるの!」


美玖は俺を指差す。


「はあ?お前だってさっきまで凹んでたろうが!」


俺も差し返す。


「何よ!」


「なんだよ!」


こいつと話すと感情が出やすくなる気がする。


睨み合う。






「お前ら面白いな。」






康成は笑ってそう言った。





「「おもしろくない!」」






ハモった。


「お前らだな?」

「入学早々いちゃついてるバカップルってのは。」


「おい。その嫌すぎる噂、誰発信だ。しばく。」


ついつい口が悪くなる。


「いや、この様子じゃ間違いとも言えないだろ。」


そう言われても仕方ないと、流石に自覚があった。


「悪い!そろそろ帰らねえと。」


「ああ。引き留めて悪かったな。」


「おう。」


「中谷さんもまた。」


「うん!またね!」


そう言って康成はそそくさと教室を出て行った。


「よかったね。」


「何が?」


「あんな楽しそうな蓮介の顔初めて見た。」


俺、そんな楽しそうな顔をしてたのか。






「ちょっと嫉妬しちゃった。」






嫉妬。

そんなふうに思われたのか。


「悪い。ほったらかして。」


「ほったらかしたなんて思ってないよ。」


「嫉妬して意地悪したかっただけ。」


「確かにこれじゃバカップルだな。」


二人で笑う。


「次、会う約束とかしたの?」


「してない。」


「えーもったいない。」


「でもまた会えるさ。」


そんな気がする。


「まあいいや。」


「帰ろう、美玖。」


1日の終わりにこんなビッグイベントが待っているとは。


通信制高校。


少しだけ楽しみになった。


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