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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 6章 同じタイプ?
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2話 違う

宗介はうずくまって泣いていた。


泣く時はいつもこうだった。


「何があった?」


「母さんと揉めた。」


答えは知っていた。


でもあともう一人。


「あの人は。母さんの彼氏。」


「彼氏は大丈夫。」


ここでやっとホッとできた。


「なんで揉めたん。」


親父は相変わらず、タバコを吸いながら聞いている。


「向こうが勝手にキレてきたけん、キレ返した。」


こいつは説明が下手だ。


「それじゃわからんやん。」


「うーん。キャッチャーしろってうるさくて。」


「キャッチャー?」


親父も首を捻っていた。


「監督が俺をキャプテンにしたいらしい。」


「いいじゃん。評価されてるってことやろ。」


「でもキャプテンはキャッチャー固定なんだって。」


「なんじゃ。そのルール。」


「やろ!監督がそう決めてるんよ!」


宗介の声が大きくなる。


「それで母さんがやれってうるさくて。」

「俺はピッチャーしたいって言いよるのに。」


宗介がピッチャーに憧れて野球を始めたことは、母も知っているはず。


相変わらずだ。


「もうウチ来いよ。」


あそこに居て良いことなんてない。


「うーん。でも友達もおるし、今はあそこで頑張りたい。」


宗介は自分の意思をしっかり持っていた。

親父の気持ちが少しだけわかった。


「じゃあどうする。」


親父がタバコを吸い終わって聞く。


「今日は泊まろうかな。」

「明日、帰るよ。」


「わかった。」


「じゃあ俺の部屋に布団敷くよ。」


「ありがとう。」


宗介はその後、意外とケロリとしておりもう気にしていない感じだった。


このさっぱりしたところは、たまに羨ましくなる。


最近、宗介に親父の影を見る。



——————



電気を消した暗い部屋は、秒針だけを響かせる。


それでも、2人なら苦しくない。


「ごめんな。」


「何が。」


「俺がこっちきて、お前に負担がいっとるやろ。」


「そうでもないよ。」


宗介は飄々としていた。


昔の面影はアップデートしなきゃいけないのかもしれない。


「母さんはどう?」


「にいちゃんがこっち行ってからちょっと落ち着いたよ。」


「そうなのか。」


「やっぱり反省したんだと思う。」

「にいちゃんに酷かったもん。」


「そうか。」


「あと俺、野球の自主練あるし、あんま関わらないし。」

「母さんは、にいちゃん好きだったから。」


宗介は上手い距離感を築いているらしい。


「お前はすごいな。」


素直に言葉が出た。


「そんなことないよ。」

「にいちゃんみたいにはできないだけ。」


「でも俺はお前が羨ましいよ。」


「うーん。にいちゃんの方がすごいと思うけどな。」


まだ尊敬してくれてるだけありがたかった。


「色々心配かけたしな。」


宗介は1ヶ月に一回うちに来ていた。


俺の沈み方を知っている。


それでも何も言わずにいてくれた。


兄がああなっていたら、どう思うだろう。


「なんか元気になった?」


「元気かはわかんないけど、やりたいことはわかった。」


「やりたいこと?」


「音楽。」


「そっか。よかったね。」


———ピロン。


美玖からのLINEだった。


「大洋くん?」


「いや、女の子。」


少しだけ間が空いた。


「彼女いたんだ。」


顔は見えないが、驚いているのがわかった。


「彼女じゃないけど、今度お前にも紹介するよ。」


「楽しみにしとく。」


その後も他愛もない話を繰り返したが、宗介の声はだんだん小さくなっていった。


美玖にLINEを返す。


「ごめん。弟が来てて。」


「弟君?会いたい!」


「今度紹介するよ。」


「じゃあ今日は家族水入らずだしお邪魔だね。」


「もう寝たからいいよ。」


「じゃあちょっとだけ電話しよ。」


俺もなんか話をしたい気分だった。


「もしもし。」


「もしもし。」


なぜか美玖も小声だ。


「お前は小声じゃなくて良いだろ。」


「あっ。そっか。」

「ごめんね。遅いのに。」


「いいよ。俺もなんか話したかったし。」


「えっ。意外。」


イジるトーン。


「うるせえよ。」


「どうしたの?」


「なんか弟が知らん間に大人になっててさ。」


「月一じゃしょうがないんじゃない。」


「置いていかれてるような気がして。」


「そんなことないでしょ。」


いや、取り繕ったらダメだ。


「弟が親父に似てきてて、俺より家で上手くやってて。」

「なんか劣等感がさ。」


「なんでそんなふうに思うの?」


少し怒ってるような言い方だった。


「親父や弟は自分の意思をしっかり持ってて、俺みたいに周りを気にすることが少ないっていうか。」


話してみると、少しだけ整理できた。


「蓮介も音楽やるっていってるし、周りを見れることが蓮介の長所でしょ。」


「でも……。」


「私は蓮介に助けてもらって、今生きてる。」




「私が好きなのは、蓮介だよ。」





ありがたいけど、全て受け入れることはできなかった。


「ありがとな。」


「蓮介のはないものねだりだよ。」


美玖は続ける。


「人に良いとか悪いとかない。」

「それぞれ性格があるだけ。」




「何度も言うけど私は蓮介がいい。」





真っ直ぐな美玖の気持ちに、受け入れられなくても言葉は信じようと思った。


「ふっ。」


「なんで笑ったの。」


美玖は膨れている。


「やっぱ敵わねえよ。お前には。」


「何が。」


「まだ受け入れらんねえけど、美玖を信じることにするよ。」


「うーん。受け入れられないのは不服だけど、よし!許す!」


お許しが出た。


「ありがとな。やっぱ好きだわ。」


不意に出てしまった。


「えっ。」


美玖は押しは強いが自分が言われると弱いらしい。


「おやすみ。」


恥ずかしくて、言うだけ言って切った。


俺は俺。

ありのままで。

自分らしく。


数々ある言葉が開き直りに聞こえる俺は、いつか自分を受け入れられるのだろうか。



——————



「じゃあまたね。」


宗介は、小さい荷物を持って玄関に立つ。


いつも通り大量の米とお小遣い。


「俺も行くよ。」


「にいちゃんも?」

「いけると?」


「行くぐらい大丈夫さ。」


俺はこっちに来てから、家での見送りのみで車には乗らなかった。


元の家に行って心が揺れるのが怖かった。


「行くのか?」


親父は再度確認する。


「うん。大丈夫。」


戦地に赴く兵士を送る家族は、こういう気持ちだったのかな。


兎にも角にも兄として。


同じ苦しみを知るものとして。


その場所へ帰るのを見届けることは責任だと思った。


車は走る。


平静を装っていても、心臓の音がうるさい。


カーテン越しに灯りが見える。


宗介は大きく手を振り、玄関へと消えていった。


その姿を見て、寒気がした。


そして宗介を怖いと思った。


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