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真空で鳴る音  作者: youkey
火をもつ少年たち編 6章 同じタイプ?
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1話 居心地が悪い

ふと目が覚める。

頭が痛い。


段ボールは転がったままで、今日の荷解き作業は終わった。


周りを見渡せば、愛すべき馬鹿どもが床に転がっている。


こいつらに合わせていると毎度こうなる。


未成年飲酒チャンピオンを決める大会があるなら、俺たちはいいとこまで行くだろう。


ベランダへと出る。


春の夜風は、生暖かくアルコールによる吐き気を誘発してくる。


俺はLINEを開いて通話ボタンを押した。


「もしもし。」


「遅い。」


すでにプリプリしていた。


「ごめんて。」


「どうせ飲んでたんでしょ?」


お見通しだった。


「コイツらが聞かなくてよ。」


気持ちよさそうに寝てやがる。


「まあわかってたからいいけど。」

「てかまだ未成年だからね。」


「今更だな。」


「みんながおかしいの。」


それについては何も言えない。


「もう荷造りは終わった?」


「終わったよ。」

「物は少ない方だし。」


「荷解きは手伝いに行くよ。」


「蓮介は、明日でしょ。」


「ああ。俺こそ荷物少ないから。」

「最悪、そこで死んでる奴らを引っ張り出すし。」


くすくすと笑い声が聞こえる。


「じゃあ大丈夫だね。」


「明後日何時に着くの?」


「13時に新宿に着くよ。」


「じゃあ迎えに行くから。」


「ありがとう。」


「電車混むらしいから覚悟しとけよ。」


「天神で人酔いする人に言われたくない。」


バンドマンで人混み嫌いってのは、箔がつかない。


「気合い入れてくわ。」


「気合いでなんとかなるの?」


「ダメだったら、介抱してな。」


「えー。まあ慣れてるけど。」


そこらの看護師より、信頼できる言葉だった。


「じゃあ、明日はゆっくりじいちゃん達と過ごせよ。」


「今日からもう泣いてたから、大変かも。」

「可愛い孫娘が一人で上京するんだし、当然だな。」


「私、可愛い?」


「あー。可愛い、可愛い。」


このくだらないやり取りは、十八番になっていた。


「彼女にその言い方は酷くない?」


「わかってやってるから、いいんだよ。」


「じゃあ好き?」


「好きじゃなきゃ付き合わない。」


ストレートには言えない。

歌詞なら得意なのに。


「好きだよ。蓮介。」


———コイツは。


「俺も好きだよ。」


部屋を一度だけ見回して、そっと言った。


「じゃあまた明日。」


「うん。おやすみ。」


「おやすみ。」


毎日こんなやり取りをしていると、それだけで十分な気がしてしまう。


……それでも音楽を捨てられなかった。


ベランダから部屋に戻ると康成が起きていた。


「美玖ちゃんか。」


「ああ。」


「この時間じゃ怒られただろう。」


「いや、だろうなって。」


「お見通しか。」


「3年も俺たち見てたからな。」


「ファン第一号だもんな。」


「ファンって感じでもねえだろ。」


「確かにもう身内だな。」


康成は笑う。


「てか身体痛い。」


「床で寝るからだろ。」


「蓮は痛くねえの?」


「俺は慣れてる。」


嫌な慣れだ。

不眠症のくせに、寝る場所だけは厭わなくなっていた。


「おやすみ。」


康成は腕を枕にして、また目を瞑った。


まだ何も勝ち得ていない。

でもこれはきっと幸せだった。


アルコールなのか、薬なのか。

はたまた。

すぐに意識は遠のいた。




——————



「君が蓮介くんか。」


和室で正座をしている。


まるで結婚の挨拶だ。


美玖も黙って正座をしている。


高そうな厚みのある座布団と暖かいお茶。


模範のような日本家屋。


そこに美玖の祖父母は姿勢を正して俺の正面に座っていた。


「美玖を助けてくれてありがとう。」


老人二人に頭を下げられるのは、居心地が悪い。


「いえ。こちらこそご迷惑をおかけしました。」


「迷惑だなんて。」


困惑したように、顔を見合わせる。


「おじいちゃんもおばあちゃんも、蓮介には感謝してるんだよ。」


美玖が助け舟を出す。


「本当なら私たちが、やらなくてはいけないことを。」

「息子が亡くなって以来、連絡はしていても疎遠になってしまって。」


美玖の祖父は、下を向く。


「仕方ないですよ。」

「家も遠いですし。」


家庭に介入することの難しさは俺が、一番知っている。


「それでも美玖を救ってくれて本当にありがとう。」


美玖の祖父の手は細かったが、それでもしっかりと俺の手を掴んで離さなかった。


「こちらこそ美玖を助けてくれてありがとうございます。」


俺も強く握り返す。


美玖の祖母の目には涙があった。


「せっかく来てくれたんだから、ゆっくりしていってね。」


祖母は袖で目を擦りそう言った。


どこの家でも、祖母の温かみは落ち着く。


「ありがとうございます。」



——————



「いい部屋だな。」


広くはないがまとまっていた。


女子の部屋といえば、ピンクでふわふわみたいなものを想像するが美玖は違った。


白いカーテンに、簡易的な勉強机、小さな本棚。

驚くほど物が少なかった。


「前の家じゃ自分の部屋なんてなかったから。」


美玖は嬉しそうだった。


「しかし、東区は遠いな。」


同じ市内といえど、俺の住む早良区から50分はかかる。


「蓮介の高校が電車で来れるとこでよかったよ。」


「まさか本当に同じところに編入するとはな。」


「これでクラスメイトだね。」


「でも毎日通学はしないからな。」


「わかってるって。」


「私もバイトして、お金貯めたいし。」


「会う時はある程度、中間まで出ないとな。」


「でもおじいちゃんが、送ってくれるって言ってるから。」


「毎回、頼るわけにはいかないだろ。」


「でも、どうするの?」


「バイクの免許取るよ。」


一瞬だけ、親友の顔が浮かぶ。


「それいいかもね。私も取りたい。」


「美玖はなしだ。」


「なんで。」


「……死ぬから。」


「死なないよ。」


「とりあえず俺が取るまで待って。」


「うーん。わかった。」


美玖は俺の胸に飛び込む。


「私はいなくならないから、大丈夫だよ。」


「わかってる。」


感じる温もり。

それだけで落ち着くことができた。


「バンドはどうするの?」


「とりあえず曲作ってメンバー探しかな。」


「そっか。また聴かせてね。」


「ああ。」


「私も何か夢中になれること探さないとな。」


「ゆっくり探せばいいさ。」


「蓮介のお嫁さんでもいいんだけど。」


「それは。」


「それは?」


「俺が独り立ちしてからな。」


「またそれだ。」


告白はした。

でも付き合ってはいない。


自分の居場所をきちんと掴むまでは、とチキンな俺は交際は待ってもらっていた。


「早くバンド始めてよ。」

「付き合えないじゃん。」


「わかってるって。」


「まあいいけど。」


美玖は俺の腕の中で安心したように目を閉じていた。


それでもわがままな俺は、音楽を諦める選択肢は取れそうにない。


大事なものが、一気に増えた。



——————



「お邪魔しました。」


「本当に帰りは電車でいいのかい?」


「はい。」


「途中で父が迎えに来てくれるので。」


「そうかい。またいつでも来てな。」


俺は二人に頭を下げる。


美玖は大丈夫だ。


そう思えた。


「今度はうちに来てよ。」

「俺の家族にも紹介したい。」


「うん。もちろん。」


美玖は笑顔だった。


3人が俺の方を向いて見送る。


美玖は大きく手を振り、祖父母は優しく笑っていた。


少しだけ泣きそうになった。


『そんなこといいから、さっさと曲作るぞ。』


こういう感情も、曲に活かせるんだよ。


『似合わねえよお前には。』


うるさい。


俺は大きく手を振り返した。


俺は駅まで歩く。


電車は苦手だ。


人が多いし、距離感が近い。


乗るだけで気分が悪い。


———プップ。


クラクションに驚いてそちらを見ると、見覚えのある車があった。



——————



「親父、なんで来たん?」


「近くの駅でもここでも車じゃ変わらん。」


「そっか。」


「美玖ちゃんだっけか。」

「うちにも紹介しろよ。」

「ああ。次はうちに来てもらう予定だ。」


「おー楽しみだな。イジリまくろう。」


「ダメだろ。どう考えても。」


「いや美玖ちゃんじゃなくてお前をな。」


「勘弁してくれ。」


くだらない話は、俺と親父の潤滑油だった。


俺の携帯が鳴る。


宗介からだった。


「にいちゃん、助けて。」


俺は忘れていた。


自分が地獄から来たことを。


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