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真空で鳴る音  作者: youkey
崩壊した自己編 5章 未来はこの手で
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8話 2人の未来

「ああ、疲れた。」


作詞作曲を始めて、1週間たった。


初めてわかったことは、疲れるということ。

何時間も座ったまま、腕と頭だけを使い続ける。


見事に背中と下半身が、暴動を起こし、休憩を余儀なくされた。


それでも、心は驚くほど解放的で空気がうまかった。


曲を書いているときは、ホンモノの自分でいられる。


思いついては弾いて、歌って。

録音を聴き直して首を捻る。


この工程を1週間続けた。


その中で悪いものを削ぎ落とし、良いものを合わせてできたのがサビになった。

たったそれだけだった。


それでも、充実感と達成感がある。


コーヒーを口にしながら、再度聴き直す。


悪くないな。


『本当にそうか?』


コイツは何にかにつけて、口を挟まなければ気が済まないようだ。


俺がいいからいいんだよ。


『クオリティーが低い。』


正直、そこは百も承知だった。


いきなり、名曲が書けたら世話ねえだろ。


『才能がないだけだ。』


今、世界で一番言われたくない言葉。


うるせえよ。

これからだって。


『自分に甘いんだよ。』


こればかりは返す言葉もないのかもしれない。

でも自分に自信のない俺が、自分を完全に納得させようとしたら一曲で人生が終わる。


どうしたら良いっていうんだよ。


『メロディに対して文字数が多い。』

『全部言い過ぎだ。』


驚いた。

自分でも薄々勘付いていたことを見事に刺されたからだ。


そんなの分かってんだよ。


『じゃあ減らせよ。』


そう言ってアイツは消えていった。


俺のアイツへの警戒心は上がる一方で、俺自身は曲にも自分にも全く自信が持てずにいた。


——これを聴いた人はどう思うだろう。


正解なんて分からない。


でも届けたい相手だけは決まっていた。


1週間前と書かれたLINEに既読は未だにつかない。


「待ってる。」


一言だけ。


1日何度、眺めても既読なんてつかない。


まだ1週間。


その言葉を安定剤のように繰り返した。




——————



それから1週間。

膝の上には常にギターを抱えて生活するのにも慣れてきた頃。


AメロとBメロが完成した。


ラブソングではあるのでパンクではなくロックを。

そう思って作り始めたが、完成した曲は思ったよりポップに寄っていた。


———せめてギターのイントロとソロはロックに。


『すでに基盤はロックだ。』


急になんだよ。


心臓がドキッとした。


『今でもギターやコード進行はロックだろ。』

『メロディがポップなだけで。』


勝手にやれって言ってなかったか。


『俺を使うんじゃなかったのか。』


アイツは含み笑いでそう言った。


お前の”気持ち“は使うつもりだ。


『俺はお前だ。音楽もわかる。』

『お前は、パンクやロックにこだわりを持ち過ぎだ。』


好きなんだからしょうがないだろ。


『お前自体は、明るくポップな方が似合う。』

『この曲も無理矢理、寄せるとバランスが崩れる。』


分かってるよ。

でも俺はパンクがやりたいんだ。


『それは俺がやる。』


お前が……。


『お前はお前の良さを出せばいい。』


お前を信じろと。


『俺はお前だ。お前が音楽をするなら、俺もやる。』


唐突な事態にうまく飲み込めない。


妥協のもとで流されたことはあったが、協力体制を引くなんて。


『いいものを作るために俺を利用するんだろ。』


……。


……わかった。


ただし、構想や決定権は俺が持つ。

あくまでお前は補助だ。


『好きにしな。』

『俺は激しさ、お前はキャッチーさだ。』


何を偉そうに。

曲がクソだったら、すぐ黙ってもらうからな。


『ああ。黙らせてみろ。』


こうして歪な協定が結ばれた。


元はと言えば、コイツを消すためのものでもある。


皮肉なものだった。


——————



それから、数日ついに曲が完成した。


初めて、一曲弾き終えた感想は最高だった。


『初めてにしてはまあまあだな。』


上からだな。


『曲の完成度もだが、まだ歌もギターも下手だ。』


そんなことわかってるよ。


『わかってるなら、どんどん曲作って練習することだな。』


当たり前だ。


そうは言ったものの、次の曲に移ることはできなかった。


もう2週間は経った。

既読がついてもいいんじゃないか。


そんな気持ちが芽生え始めていた。


覚悟を決めたはずなのに、情けない。


一言、声が聞きたい。


既読がつくだけでもいい。


俺は彼女の抜け殻をなぞることしかできなかった。


「おーい。哲也もおるけん、モンハンしようぜ。」


親父だった。


「いいね。」


気晴らしにはうってつけだ。


なんの気なく、スマホを手に持とうとする。


俺はため息を吐きながら、スマホを置いた。


「始めるぞー!」


俺は親父の部屋へ急いだ。


——————



気づけば朝になって太陽が出始めていた。


親父たちはやっと布団につく。


40歳越えてもなお朝までゲームできるこの2人は化け物だった。


俺も眠気眼を擦って自分の部屋へ移動する。


———明日、何時に起きようか。






「ただいま。」






スマホに見えた文字は、俺は待ち焦がれたものだった。


数時間前に送られたLINE。


悪いけど、ゲームしてる暇じゃなかったわ。

親父。


俺は慌てて、通話ボタンを押す。


朝に迷惑とか考える余裕はなかった。


コール音が心臓の音とユニゾンする。


「もしもし……。」


若干眠そうな、甘い声。


「……美玖か。」


「ただいま。蓮介。」


「ていうか、気づくの遅い。」


「ごめんって。スマホ別のとこ置いてて。」


「私のことなんて、どうでもいいんだー。」


「……。」


「蓮介?」


「気にしすぎて、おかしくなりそうだったからな。」


つい弱音が出てしまった。


「なんか素直すぎて変。」


「お前が言わせたんだろ。」


なんだか懐かしい。


「うん。蓮介だね。」


美玖は笑いながらそう言う。

多分同じことを思っていたと思う。


「ずっと俺だよ。」

「ずっと待ってた。」


朝日が眩しい。


「おかえり。美玖。」


「ただいま。蓮介。」


2人の時は再び動き出した。



——————



待ち合わせは19時。

あの公園。


落ち着かなかった俺はつい、30分前からここにいる。


土曜日の夜なら誰もいないだろう。

そういう算段だった。


おかげで30分、ギターケースを抱え、ベンチに座る恥ずかしい男を世界は知らない。


「詳しくは会って話そう。」


そう言われ、今に至る俺はあれからの彼女を知らない。


緊張しないほうが無理だった。


たかが2週間ちょいぶりに会うだけ。


そう言い聞かせても、落ち着かなかった。


黙って月を見上げていると、公園に一台車が止まった。


一気に緊張が込み上げる。


後ろの席から、出てきた彼女は笑っているのに、どこか大人に見えた。


運転席の老人に挨拶し、車を手を振って見送った。


その後、俺の方へと近づいてきた。


「蓮介!」


名前を呼ばれて立ち上がる。


すると彼女は全力で俺に飛び込んできた。


「おかえり。美玖。」


言葉は素直に溢れた。


「ただいま!蓮介!」


にっこり笑う。

この明るさに俺は助けられてきたのだと思った。



——————



それからは美玖の話を聞いた。

ただ一方的に。


今は亡くなった父の祖父母の家に住んでいること。


2人とも優しく、大事にしてくれていること。


でも親権は母親のままだということ。


面会はまだ拒否しているということ。


高校は俺と同じとこへ編入すること。


その他、手続きに時間がかかって会えなかったこと。


淡々と話す彼女の表情に、彼女の強さを感じる。


ここまでくるのにどれだけ涙を流しただろう。


「蓮介は何してたの?」


俺の番が回ってくる。


「俺は音楽をやることに決めたよ。」


「いいじゃん!」


美玖の顔がパッと明るくなる。。


「それでじゃないけど、美玖に曲を作ってきた。」


言ってて恥ずかしい。

死ぬほど。


「それでギター持ってきたんだ?」


美玖も少し目を丸くした。


「とりあえず聴いてくれ!」


この空気に耐えられず、弦の音で空気を変えることにした。


弦の振動と声が、心を揺らす。


慌てないで。

力まないで。

リラックスして。


でも、心を込めて。


緊張も手伝い曲は一瞬のように思えた。


最後のコードを鳴らす。


余韻が少しずつ空気に馴染んでいく。


弦から目を離すのが怖い。


目の前の彼女はどんな顔をしているのだろうか。


引いてないだろうか。

気持ち悪がってないだろうか。


答えはすぐに彼女の握った手に落ちた。


「好きだ。美玖。」


真空で鳴る音 崩壊した自己編 完


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